第21話 火山地帯ヴォルカニカー2

 はぁ……とんでもない子に目を付けられたな。

 ただのファンなら正直めっちゃうれしいし、滅茶苦茶可愛いからドタイプではあるんだけど。

 まさかここまでお変態さんだとは思わなかった。


 まぁでもそこまで求められるなら仕方ないか。ここまでわざわざ戦いに来てくれたのは、ゲーマー的には嬉しいしな。

 じゃあ。


「わかったよ……中途半端にやっても納得しないよな」


 そして俺は決め顔で言った。


「――死ぬまでやろう」

「OK♥」


 舌なめずりして目がちょっとイッてしまっているレイレイ。

 

 俺は両手に剣を、骨と鉄。

 ゆるりと構えて、集中する。


「はぁはぉ……すごい。ビンビン感じる!! 強者の匂いがすごいぉぉ!! クンクン!! ブルー君! ブルー君!! クンカクンカ!!!」


 見悶えるレイレイは自分の体をぎゅっと抱きしめてくねくねする。

 さっきからやめて、集中できないし、普通にドエロいから。

 そしてレイレイが先ほどと同じようにまるで竜巻のように自分と同じほどの大きさのその巨大な大剣をブンブンと振り回して接近してくる。


 おっとスカートの中が見えそうだが、不思議な暗闇で中は見えない。

 何ということだ、スカイライト。神ゲーだと思ってたのに糞げーか? ちゃんとしろ。

 というのは冗談で、振り回される大剣をしっかりと見てから交わす。

 一撃の威力は凄まじいだろうが、あまりに遅すぎる。これぐらい余裕です……ってまず!?


 余裕で交わしたと思ったら大剣を慣性に、体を回転させてくる。

 そのしなやかでエッチな生足が俺に向かって飛んでくる、これは食らっておくかと一瞬思わされるのだからなんと魅力的……失礼、暴力的な足!

 

「これも初見で躱すんだ」


 まぁさすがによけるんですけどね。

 でもマジでギリギリだった、舐めてたけどこの子まじで強いな。

 まぁでもこれで俺の勝ちかな。

 俺はレイレイの懐に潜り込む、目の前に巨大な胸があるのだがちょっと目のやり場に困りながらも剣を振るう。

 相手は巨大な大剣、この体制からでは反撃は不可能だろう。懐に入った俺の勝ちだ。

 


 ――ぞわっ。


 

 その瞬間、悪寒がした。

 違和感だった。

 何かおかしい、何かがやばい。

 底知れない悪意のような、まるで真っ暗な穴を覗いているかのような不安感。

 このままいったら負ける。

 理屈じゃない、何かこの先はやばいと俺の今までの経験というなの勘が警鐘を鳴らした。

 だからその一瞬隙だらけの胸元から俺は全力で一歩後ろに下がった。

 気づけば冷や汗が流れている。


「なんで?」


 すると距離を取った俺にレイレイが聞いてくる。

 

「なんで、なんで、なんで、なんで、なんで!!」


 壊れたオルゴールのようになんでと繰り返し笑い出す。


「なんでわかっちゃったの?」


 するとぶっ壊れたような笑顔で口を開けて長い舌をよだれとともにだらしなく出す。

 その舌の上にはどうやって入っていたかもわからない小型ナイフ、あのままいってたら俺は頭、もしくは首の裏をぶっ刺されて敗北していただろう。

 大剣だから絶対に安全圏だと思っていた、まじで危なかったな。


「これドットダメージ受けるから長いことはできないんだよね。あーあ、バレちゃった……」


 そういうレイレイのHPは二割ほど減っていた。

 なるほど、ゲームだからこそできる技か。

 口の中に無理やり入れて、入りきらない部分は喉にでもぶっ刺しているのだろう。

 リアルなら絶対にできないがゲームの痛覚なしのHPだからできる裏技、ってか発想がいかれてるんだよ、まじで。怖い怖い。


「じゃあ次は小細工はなしでいくね?」

「はは、嘘だろ? もう油断しない」


 そういうとレイレイはとても楽しそうに笑い、大剣を握りしめる。


「ふふ♥ ブルー君、まじで惚れちゃうかも。もし私に勝てたらご褒美あげちゃうね」

「はは……そりゃ勝たないとな」


 レイレイが再度、大剣をぶん回しながら直進してくる。

 先ほどよりも圧倒的に速い。

 完全にさっきは罠だったことがわかるほどに全力だ。

 でもそうだな、すごく練度を感じるし、ダイヤモンドなんて目じゃない、マスター級の腕前だ。


 でも。


「トワに比べたら余裕かな」


【JUST!!】


 どうやら俺はあの試練を超えてからさらにゲームがうまくなったようだ。

 身体操作はさらに細かく体を把握し、イメージ通りの動きをしてくれる。

 先ほど一度見た大剣の攻撃モーションに合わせて、骨の剣でジャストガード。

 一瞬のけ反るレイレイは、それでも器用に体を回転させて、俺に向かって回し蹴り。


 俺は先ほど振り切った骨の剣を投げ捨てて、片手でその足を掴み取る。


「……まじ?」


 レイレイは顔を青ざめながら笑い、俺もにやりと笑う。

 そのまま足を引っ張り体勢を崩したレイレイの上に馬乗りになって、両足でレイレイの両手を拘束。

 そしてもう一本の鉄の剣でその胸元を突き刺した。

 急激に減っていくHPゲージ。

 

「まじか……もう殺されちゃった」

「いや、まじで強かったぞ」


 たしかに勝負自体は一瞬だったが、レイレイは本当に強いと思う。


「ねぇ、またやってくれる?」

「おう、いつでもこい」

 

 そしてHPが全損してポリゴンとなって消えてしまった。

 PKってこんな感じなのか。なんかちょっと罪悪感があるな。


 ――――コメント――――

・対人戦初めて見たけど、うまいっすね。

・レイレイってプロも殺しまくる殺人鬼なのに、さすが俺達のパンツの勇者。

・しかし、俺たちの拡散力では無理だったが、レイレイに拡散されたら一瞬で広まるぞ。

・【レイレイ】:悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!!

・↑やっぱり視聴者で草

――――――――――――


 どうやらレイレイは俺の視聴者の一人だったようだ。

 とんでもない奴がいたもんだが、まぁ格ゲー大好きっ子と思えば可愛いものか。

 

 とりあえず俺は大変な目にあったなと思いながらも前に進む。

 この先に、転移門があるらしいからな。

 しばらく道なりに進むと、転移門が確かにあった。


 確かにあったのだが。

 そこには顔を赤らめて興奮した女がいた。

 鼻息荒く、目がちょっとイってるバトルジャンキー。


「もう一戦! もう一戦! もう一戦!! ブルー君! もう一戦しよ! はぁはぁはぁ! もう一戦できるよね?」


 俺はとんでもない奴に目を付けられてしまったのだろうか。


「今夜は寝かさないぞ、ダーリン♥」

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