第11話 勇者の試練ー8
あれから暇な時間が増えた。
学校をしばらく休み、野球もできない。
家でただぼーっとする時間が増えた。
そんなある日龍一がゲームに誘ってきた。
気分じゃなかったが好きなゲームでもあったので意外と楽しかった。
その日から野球の代わりに龍一とゲームをする時間が増えた。
龍一が家にずっといる俺にたくさんゲームを勧めてくれる。
色々ゲームはやったが、特にはまったのはフルダイブ型のゲームだ。
脳からの神経接続なので俺の後遺症は全く影響なし、つまりその世界なら俺はいつもと同じように動けた。
正直ゲームは楽しかった。
一年間、ずっと何も手に付かなかったが、ゲームはすんなり入ってきた。
さすがは人を楽しませるためだけに生まれた存在、いつも練習で疲れ切ってちょっとだけやってたが、がっつりやるとまた違う。
俺のボロボロだった心をゆっくりと埋めていく。
ただ没頭できた。
その世界は楽しくて、俺は過去の名作と呼ばれるゲームをただひたすらとクリアした。
やってもやっても遊び尽くせないほどにゲームはあった。
すげぇ楽しかった。
「お兄ちゃん、またゲーム?」
「おう! 愛理もやるか?」
「やだ、お兄ちゃん強すぎるもん」
「いや、ほら。すごろくのこのゲームとかならさ、ファミリー向けだし楽しめると思うぜ!」
「ほんと?」
……
「お兄ちゃん……全然楽しくないんだけど」
「愛理よ、これが資本主義のこの国が生み出した悪魔のようなゲームだ。残念ながらお前がここからのし上がることはない。人生に逆転はないということだ。覚えておけ」
「私借金10億円なんだけど!! このうざい関西弁のキャラもずっと後ろにいるし! もういや、やめる!」
愛理も徐々に心を取り戻してくれた。
何か責任を感じているのか、家のことはよくやってくれている。
俺はというとゲーム三昧でそろそろ申し訳なくなってきたので、何か食い扶持でも探さないとな。
妹は既に立ち直っているのに、兄がこれでは申し訳ない。
でもゲームが楽しいんだ。
最近やりすぎて色々慣れてきたせいかヌルゲーが多くなってきたが。
……そうだ、縛りプレイやってみるか。
動画みたら中々ハードで面白そうだったし。
それが怪物(変態)が生まれた日だった。
それから俺は縛りプレイしたり、高校受験したり、鬼畜縛りプレイしたり、RTA縛りプレイしたりと人生の大半をゲームに使った。
いつしか過去の傷はゆっくりと癒えていた。
高校にも普通に通い、友達も普通にいる。
龍一は、野球をやめてプロゲーマーになるとか言い出した。
止めても無駄だと言うし、でも実際なってしまったのだから何とも言えん。
普通に楽しそうだし、配信者として成功してるし、やはり顔か、糞イケメンめ。
まぁいいか、楽しそうだし、それが一番だからな。
さてと、じゃあ俺も今日はどんな縛りプレイでゲームをしようか。
裸一貫、モンキーハンター全ボス攻略なんてどうだ? お、想像するだけで難易度の高さにゾクゾクするな。
楽しみだ。
ワクワクする。
はやくゲーム……やりてぇな。
◇現在。
コンティニュー?
YES
▶NO
随分昔のことを思い出したな。
今の苦しい状態が、少し昔とシンクロしたのかな? でもそのおかげでその立ち直った時のことも思いだしたよ。
ゲームを楽しめ。
絶望してた俺を救ってくれたのは龍一と、愛理と、そしてゲームだ。
ただ楽しいだけのゲームが。
夢中にさせてくれるゲームが。
絶望に落ちていきそうな俺を、ギリギリのところでとどめてくれた。
ひたすらに没頭する時間は俺の思考を埋め尽くし、壊れかけた心はやがて時間が解決してくれた。
もちろんあの日のことを忘れたことはない。今だって思いだすと胸が苦しくなる。
それでもゲームはただ楽しいんだ。
やらなくても死なないのに、やらないと死にそうになる。
中毒かな? はは、まぁ電子ドラッグと言われるぐらいだしな。
誰かに勝つことは好きだし、成長を実感するのも大好きだ。
勝負が好きだ。いや、もしかしたら勝つことがかもしれないな。
なのに今、この勇者にボコボコにされて心底ムカついている。
楽しくない。イライラする。
だって負け続けるゲームなんて何も楽しくないだろう?
俺に負け続けて狂ってしまった? 俺が頑張ったせいで狂ってしまった?
わかる。負けたら何も面白くねぇもんな。
負けても楽しいなんて言うつもりはない、勝たなきゃやっぱり楽しくねぇよ。だって勝負ってそういうもんだろ。
ならなんで負けたら面白くないのに、やるのか?
そんなの決まっている。
勝った時がそれ以上に楽しいからだよ。
負けて負けて、負け続けて……それでも最後に勝って笑う。
その最後があるからこそ、苦しい負けすらも楽しめるんだ。
俺は何度も縛りプレイで苦しい思いをしてそれを知っている。
苦しくて、辞めたくて、でも最後のクリアした時の快感を知っているからやめられない。
その途中でやめてしまうなんてもったいないだろ。
だからさ、俺の勝負に関する考え方はやっぱりこれなんだよ。
コンティニュー?
▶YES
NO
「勝つまでやれば、絶対に勝つ!!」
俺はもう一度、思いっきり気持ちを入れてYESを押す。
何百回目かもわからない再チャレンジ、なのに今までで一番頭が冴えている。
集中力は一周回って極限に。
俺の眼の前では勇者トワが剣を構える。
おいおい、もう100回以上みた攻撃だぞ。それぐらい余裕で。
【JUST!!】
合わせられるわ!!
だが臆さない勇者は、錐もみ回転しながら俺に嵐のような剣戟を向ける。
【JUST!!】
【JUST!!】
【JUST!!】
数百以上の挑戦は、勇者の攻撃すべてを見切り、完璧なタイミングで次々とジャストガードに成功する。
俺のHPゲージの減少はほとんどない。
連打連打、勇者の猛攻を一体何回防いだか。
ジャストガード成功時の気持ち良い音と感覚、この音が俺を何度でも蘇らせると某スポーツ漫画のように俺は笑う。
勇者の猛追をジャスガですべてはじき返す。
するとやはり決め技なのか、先程よりも超高速の錐もみ回転切りを繰り出す勇者。
ならば全部合わせてやるわと、ジャスガを連続5回成功した時、勇者にほんの一瞬の硬直が生まれた。
そのコンマ一秒以下の隙、俺は見逃さずに返す剣で一太刀を入れることに成功した。
勇者のHPゲージがちょっとだけ減る。初めて与えた一撃。
HPが減る。
これなら戦える。こいつに勝てるぞ! 体調もなんか回復してきたわ。
ははは! 何時間だって付き合ってやるわ!! 覚悟しろ、廃人を相手にしたことを後悔するんだな!
勇気とは、諦めない心のことをそう呼ぶんだよ、わかったか! イケメン勇者が!
俺は目を輝かせながら剣を向ける。
まるで初めてバットを握ったあの日のように。
ただ楽しくて仕方がないと、心の底から笑顔になる。
「……そっか。君は決して折れないんだね」
「リアルで死ぬまでやってやるわ」
「ふふ……」
すると勇者が俺から一歩距離を取った。
その手に持つ剣を黄金色に輝かせて、剣を構える。
「ねぇ、君はなんで戦うの? なんでそこまでできるの?」
「なんで? ……決まってるだろ」
俺も鉄の剣を構えて、勇者を見る。
「――楽しいから」
その答えを見て、悲しげだった勇者は笑う。
「そっか……僕と一緒だ。それにすっごい負けず嫌いだろ、君」
「ははは! だから俺が勝つまでやるぞ」
「ふふ、いいね、本当にそうできればどれだけ楽しいか……」
トワが振り上げる黄金の剣、輝く光。
「久しぶりの対人戦。すごく楽しかった、ありがとう。ブルー君……いつか……きっと再戦しようね」
そして振り下ろされる金色の刃、俺が完璧にガードした鉄の剣はそれでも一瞬で砕け散り、俺のHPは0になる。
倒れた俺、しかし視界は暗転せずに仰向けになっているだけだった。
どうやら俺は死んだようだ。だが多分これは負けたのではなく……。
「ということで、今は僕の勝ちってことで」
「糞チートキャラが、いつかぜってぇぶっ倒す。それに負けじゃねーんだろ?」
戦いには負けたが、多分これは勝負的には勝利なのだろう。
どちらかというとイベントムービーが間に挟まるような感じか。
仰向けになっている俺に勇者はにやけづらを浮かべながらのぞき込むように話しかけてくる。
「ふふ…………うん! 君ならいいかな。ねぇ……お願いがあるんだけどさ」
そしてその勇者は、俺の隣に座り込んで話し始める。
「世界救ってくれない?」
この世界のメインストーリーを。
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《大事なお知らせ》
ここまで読んでいただきありがとうございます!
どうでした? こっから物語は加速していきます。この作品のコンセプトは楽しくゲームしようぜ!です。
あとタイトル回収は10万文字あたりです。
ラノベ一冊分を意識して作ってますので、どうかなにとぞそこまで読んでから糞小説がと切ってください。面白かったらそのまま読んでくれたら作者小躍りします。
最高の盛り上がりを保証するんで、ぜひぜひ!
ということで、一旦ここまででもし楽しめましたらページ右上にあるレビューを書くで「よかった」「面白かった」などで応援して頂けると、ランキングが狙えて大変嬉しいです。
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この作品はどうしても最後まで書き切りたいので、どうか応援よろしくお願いします。
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