第12話 天空のトワイライトを楽しもうー1
「――詳しく」
勇者トワが、俺の隣で胡坐をかいて話し出す。
あの俺、HPが0なんですけど、回復とかしてくれないんっすね。
というか俺生きてる扱いなのか?
「この世界の四人の王を倒してほしい。そしたらまたここに来てくれないか?」
「なんだ、四人の王って」
「ごめん、さっきので僕の残っている力無くなっちゃったから説明する時間ないや」
「なんでそんな大技うってんですかねー」
「だって君に勝ちたかったから」
「糞みたいな理由だな、ほんとに勇者か?」
俺とトワは笑い合う。
こいつ結構気が合うかもしれん。AIだけど。
まぁ話せないのもどうせシナリオ上の問題なのだろうからそんなに気にしないことにしといてやるか。
「…………ブルー君。魔王は必ず復活する。そうなってしまえばスカイディアは、いやこの世界は終わりだ。それまでに四人の王を……みんなを解放してやってくれ。でなければ戦いにすらならない。そしてこれを」
そういってトワは、首に飾っていた首飾りを取り出す。
先端には半透明の石が付いており、簡易的な装飾がされていた。
仰向けの俺にそれを渡すと、俺の首にそれはかけられた。
するとウィンドウが表示された。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・勇者の首飾り
レア度:なし(ロストなし)
勇者の試練を超えたものに渡される首飾り。
彼の意思を継ぎし者である証明であり、勇気の証。
※NPCとの会話に補正が入ります。
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NPCとの会話に補正……なるほどな。
これがないとストーリーで進まない部分とかがあるわけだ。
しかもロストなしということは奪われたり、デスペナで落としたりはないわけか。ありがてぇ。
「じゃあね、ブルー君。久しぶりに楽しかった」
「おう、次は負けねぞ」
「…………ふふ、君に会えてよかった。……じゃあオルフェンさん。ヴェイン君、…………一応ディン、そして……エルディアによろしく。それとみんなに伝えてくれるかな」
その瞬間俺は黄金色の光に包まれて、視界が暗転する。
「――勝てなくてごめんって」
気づけば天空城の前にいた。
HPは全回復しており、一瞬夢かと思うほどだが、首を見ると首飾りはしっかりとあった。
天空城にもう一度入れるのかと思うと、既に勇者の試練をクリアしたプレイヤーは入れませんとメッセージが表示された。
どうやら俺はもう入れないらしい、多分他のプレイヤーは入れるのだろうけど。
まぁその辺の考察は置いといて、とりあえず、俺は糞眠いのでログアウトして眠ることにした。
そういえば忘れていたけど同時接続数は1! 誰か見ててくれたのかな?
じゃあその一人だけに言おう。
「お疲れさまでした! 配信見ててくれてありがとう!!」
そして俺はログアウトした。
「あいつ全然連絡付かねぇけどハマってんだろうな。あとでフレンド申請飛ばしとこ」
蒼太の親友、雨神龍一は、天空のトワイライトへログインし、自身が所属するクランハウスへと向かう。
日本のプロゲーマ集団のクラン、名を『ナイトオブラウンズ』。トップクランの一つだった。
「あ、たらこ唇さん、おつです。今日のノルマもう終わったんですか?」
クランハウスでは先輩プロゲーマーが美少女アニメをぶひぶひと言いながら見ていた。
相変わらずこの人はアニメが好きだなと龍一は思いながら話しかける。
「終わったよ、そういえばドラゴン君、また特集組まれてたね。魔王は俺が倒すなんて……かっこいい!」
「リップサービスですよ。でも倒すつもりですけどね」
「確かに俺達もプロだしさ、四体の魔王のどれか一つぐらいは倒したいよねーあー100億あったら一生遊んで暮らせるんだけどな」
「はは、そうですね。ちなみに本当にそうなったらどうします?」
「この世界でアニメ見ながら適当に過ごす……」
「今と変わんないっすね」
この世界には四体の魔王と呼ばれる存在がいる。
といってもプレイヤー達がそう呼んでいるだけで、本当かどうかはわからないのだが。
だが、今プレイヤー達は血眼でその魔王を打倒しようと動いている。
なぜなら、それこそがこの天空のトワイライトが今世界で一番HOTな理由でもあるからだ。
運営から提示されたのは、ユニークモンスターを倒せば1000億スカイコインをプレゼント。
スカイコインとは仮想通貨のことで、この世界で装備やアイテム、果てはネットショッピングまでできる実際の通貨。
現在のレートでは日本円にして10スカイコインで1円相当。
つまりは、100億円プレゼントキャンペーンということである。
宣伝目的なのだろうが、そのロマンは多くのゲーマー達を掻き立てた。
そんな伝説に挑戦する最前線トップクランの一つがプロゲーム集団『ナイトオブラウンズ』である。
「そういえば、海王に挑戦する新しいメンバー見つけた? なんか任せてっていってたけど」
「そうですね……いますよ。とびっきり腕の良いのが。ちょっとイカれてますけど」
その時だった。
ゴーーン!! ゴーーン!
「ん? システムコール?」
「なんかアプデありましたっけ?」
天空城のてっぺんにある巨大な鐘の音が鳴り響く。
それはスカイディア全土に響き渡り、世界中の多くのプレイヤーがそれに意識を向けた。
この音が鳴り響く後はシステムコールと呼ばれ、運営からの重要なお知らせが届くからだ。
そして様々な言語でプレイヤー達が使用する言語にAI翻訳されてその言葉は届けられる。
『勇者の試練が攻略されました。繰り返します。勇者の試練が攻略されました』
だが今日のシステムコールは今までとは違う。
その言葉に全プレイヤーが驚き次の言葉に耳を傾ける。
勇者の試練、それは天空のトワイライトをプレイするほぼ全プレイヤーが知っている試練。
攻略は不可能とされており、何か特別なアイテムやシナリオ攻略が必要と結論付けられていた。
そして有名トッププレイヤー達を勇者候補と呼び誰が勇者になるのかと予想もされていた。
だがそれが突然クリアされた。
「ドラゴン君! 聞いた!?」
かつて龍一をはじめとする多くのプロゲーマーが勇者の試練に挑んだが攻略できたものはいない。
龍一自身も何度も挑戦し、心の試練までは到達したが勝てないと諦めた過去がある。
「一体だれが……」
アメリカ最強の格闘ゲーマーが最近スカイライトに参戦したとも聞いた。
ゲーム大国、韓国のプロチームも国を挙げてたくさんのプロを参戦させたと聞いた。
世界中がこのスカイライトへと次々に参入してくる。
そんな中、全員を出し抜いて一体だれがクリアしたのか。
だがそれはすぐに告げられる。
『勇者の試練、初踏破者。攻略者名:ブルー。以降も勇者の試練は挑戦可能です。以上、システムコールでした』
そしてシステムコールは終了した。
「ブルー……ブルーって一時期話題になったあのブルー!?」
それを聞いて龍一は突然笑いだす。
「そうか……お前か……はぁなるほどな。くそ……」
龍一は笑いながら悔しがる。
ブルー、それは自分の親友がいつもプレイヤーに付ける名前。
三日間ぐらい連絡が付かずぶっ通しでやっていると聞いたが、まさか勇者の試練に挑戦してるとは思いもしなかった。
「すみません、たらこ唇さん。俺しばらくクラン活動とプロ活動休みもらいます。体調不良で!」
「え!? ど、どうしたの!?」
「負けず嫌い病が発症しました!!」
そして龍一は自分の持つ全アイテムを駆使して勇者の試練へと挑戦しにいった。
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