第13話 天空のトワイライトを楽しもうー2
「では続いてのニュースです。本日16時頃、天空のトワイライトにて、勇者の試練を攻略したとのシステムコールが流れました」
テレビのニュースで、その放送は駆け巡る。
蒼汰は知らないが、天空のトワイライト、通称スカイライトはもはやそのレベルの存在となっている。
経済力は中小国家並みであり、多くの日本人にとって欠かせない存在にもなりつつあった。
毎日、万単位の新規プレイヤーが現れて、日本円を仮装通貨に変えていく。
政府レベルで無視できないゲーム、それが巨大メタバース空間、天空のトワイライト。
さらにその運営元が日本のIT企業アテムであれば、日本経済への影響は計り知れない。
技術の最先端をいくのはゲームであると言われる通り、世界でも最先端を走るゲーム、それがスカイライト。
そしてこの勇者の試練攻略というニュースによってアテムの株価が大きく変化するほどの影響を与えた。
それはなぜか。
「どうですか、山口さん。これについて」
「いやびっくりですね。勇者の試練、私も挑戦しようと思ったんですけど到達するまえに死にましたからね。はは、今ではのんびりあの世界で釣りでもしながら過ごすロートルですが。しかし、有名プレイヤー達がこぞって挑戦し、その動画も挙げられてる勇者の試練、いや……あれを人がクリアできるんですね」
勇者の試練はクリアできないとされている。
同様に、ユニークモンスターを倒せば100億すらもシステム的にクリアできないようになっているのではないかと疑われていた。
だが今日、クリアしたものが現れた。
プレイヤーネーム、ブルー。
それはかつて都市伝説のごとく現れた名前。
だが蒼汰の配信で勇者の試練を攻略したことを知るのは誰もいない。
ただひとりの視聴者、レイレイを除いて。
「はい、これによりアテムの株価は大きく上昇。100億円の噂も信ぴょう性が増しましたね」
「ほんとにもらえるんですかねって思っていたんですけど、スカイライトの現在の経済規模は兆に届きそうというじゃないですか。これはほんとに100億ありうるかもしれませんよ」
「それに合わせてですね、本日運営元のアテムから正式に発表がありました。1000億スカイコインは約束します。いずれ誰かが獲得することになるでしょうと。これは益々盛り上がりそうですね!」
「それにしても、プレイヤーブルーさん。今SNSではお祭り騒ぎで、特定班が頑張っているそうですよ。ブルーさん! この放送を見ましたら是非お話をスタジオでお聞かせくださいね」
そしてニュースは終了した。
ニュースだけではない。
「おはこんばんわ! レイレイチャンネルだよ! レイレイね、実はブルー君がだれか知ってるの。ブルー君! 勝手に拡散したらだめだと思うから今度会おうね♥」
レイレイは蒼太の配信を拡散しなかった。
自分ほど影響力があれば瞬く間に広まってしまう。だからさすがに本人に一言許可を得ようと思ったからだ。
だがそれを置いても、多くの配信者やプロゲーマー、企業がブルーへとコンタクトを取ろうとする。
だがプレイヤーネームだけでは広大な天空のトワイライトでは探せない。
さらに言えばブルーという名前はいくらでもいるからだ。
プレイヤーネームと一意に識別できるプレイヤーIDは異なるし、プレイヤーネームで検索する方法はない。
さらに蒼太は、せっかくの動画もアーカイブ設定をしておらず配信は消去されてしまい真相を知るのはレイレイだけ。
一体どんな変態的なプレイヤー技術を持っていれば、あの鬼畜試練をクリアできるというのか。
世界中の同じく名のあるプロ、アマチュア含めゲーマー達はブルーこと蒼汰へと狙いを定めた。
だがまだ誰もそのことには気づいておらず、当の本人は爆睡を決めていた。
◇
翌日。
おはよう、世界! ばっちり目が覚めたぜ!
俺は太陽の日差しを浴びようと思ったら残念ながらお月様だったので月光を浴びながら平常運転だなとシャワーを浴びる。
ゆっくり湯舟につかって今までの疲労を温かいお湯と共に全て洗い流す。
気分さっぱり、衣服もさっぱり、パンツ一枚でリビングへ。
「おはよう、愛理よ! 今朝も早いな」
「もう夜だし。ってパンツだけだし!! お兄ちゃん、一応高校生の妹がいるんだけど?」
相変わらず少し冷たい妹が、台所でトントンと何かを作っている。
俺が風呂に入っている間に俺のために料理を作ってくれる我が愛する妹よ。
兄はお前が世界一大事だぞ。
だが今二つの懸念がある。
一つはご存じ、パパ活問題、こちらはほぼ解決している。
そしてもう一つは。
「……あ」
「大丈夫か!」
その時だった。
俺の懸念がまた起こる。
愛理が突然よろめいたので俺は超絶反射で抱き抱える。
最近多いのだ、愛理はただの貧血と言い張るがそれにしても多すぎるし、症状がそういった感じではない。
何か病気ではないのだろうか。
「なぁ、病院俺もついていこうか。貧血にしては多すぎるぞ。倒れ方もなんかおかしいし」
「…………いい、大丈夫。ほんとにただの貧血って言われたからさ。ほら! 冷めちゃうよ!」
だがやはり愛理は大丈夫だと言う。
女性は貧血が多いというし、本人が大丈夫と頑なに言うと俺としてはそうかとしか言えなかった。
仕方ないから、俺達は席に座って飯を食う。
「そういえばお兄ちゃん今何のゲームやってるの?」
愛理がテレビを付けながら俺に聞いてくる。
「天空のトワイライトってやつ」
「ふーん、めっちゃ人気だよね。……あ、ちょうどやってるよ、なんか勇者の試練ってのがクリアされたんだって。プレイヤーネーム、ブルーだって。お兄ちゃんみたい」
「おう、俺だぞ。昨日クリアした。いや、正確に言えば一昨日か。時間間隔がわからん」
「そうなんだ、でもニュースになるってすごいんじゃないの?」
「そうか? まぁ糞みたいな鬼畜仕様だったが、他に誰かクリアしてるやついるだろ」
俺は飯に夢中になりながらニュースを見る。
勇者の試練は確かに鬼畜だったが、億に近いプレイヤーがいるんだ、誰かクリアしてるだろう。
世界は広いからな。
「でも史上初って言ってるよ?」
「…………は? 史上初?」
そして俺はやっと事の重大さに気づいた。
ちらっとSNSでブルーで検索してみれば、おう……すごいなこれ。
今、日本中、いや世界中が血眼になって俺を探している。
勇者の試練、それはおそらく100億、ユニークモンスターが何体いるか知らないが、最低でも四人の王全部合わせて400億もの賞金を手に入れる鍵なのだから。
「…………これはワンチャンあるか?」
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