第14話 天空のトワイライトを楽しもうー3

「お兄ちゃんは、有名配信者になれるかもしれん」

「ふふ、どうだか。でもちょっとだけ期待してる」

「任せろ!」


 そして俺は自室へと急いで戻った。




 さて、配信を再開しよう。みんなどんな配信してるんだろう。

 俺は有名ゲーム配信サイト『ゲームチューブ』の天空のトワイライトタブを開いてみた。


 そこで何気に目についた配信を開く。

 なぜなら配信タイトルが。


「ブルーの父です。本日は息子がお騒がせして大変申し訳ありません」


 ……じゃねぇ!! お前誰だよ!!

 なんと調べてみるとブルーというプレイヤーネームが乱立している。 

 しかもブルーの親族を名乗るお前らほんとに誰だよというやからまで出てくるのである。


 俺がブルーだとSNSで呟こうもんなら、同じようなつぶやきがアホほど見つかるし、なんということだ。

 ぬかった。匿名だからこそ俺が俺であることの証明などできないし、偽物であることの証明などない。

 龍一にでも証言してもらえばいけるだろうが、あいつなんか連絡つかねぇし。


「まじか……まぁでも地道にやってりゃいつか気づいてくれるか。最終手段は龍一を召喚しよう」


 仕方ないので、俺はトワイライトの世界に降り立つ。

 いつも通りの噴水の広場。設定はしたが、これで俺は配信できているのだろうか。


 俺は自分の配信画面をスカイパッド経由で開いてみる。

 すると俺を第三者視点から見ているような画面が配信できていた。同接0である。世知辛い。

 まぁいいか。地道に地道に。配信タイトルは私が本当のブルーですっと。


 さてと、俺の所持品はと。

 …………パンツと勇者の首飾りだけか。

 こんな勇者がいますかね? せめて木の棒でもいいから何か武器が欲しいんですけど。

 相変わらず周りの視線が痛いが、もういっそ俺はこのゲームではパンツ縛りでいくか。


ピロン♪ 同接1


――――コメント――――

・ブルーってホント?

――――――――――――


 すると同接が1となって、コメント読み上げ機能が初めてのコメントを拾った。

 おお、初めてのコメントか! なんか緊張するな。初めまして、リスナーさん!


「ほんとだよ!」


 俺はとりあえずコメントを返した。


――――コメント――――

・お前みたいな裸の勇者がいるか。売名おつ。

――――――――――――


 同接0。


「…………」


 ふぅ、落ち着けブルー。

 ネットでの誹謗中傷なんてよくあることじゃないか。

 しかし恐ろしく速い罵倒、俺じゃなきゃ配信閉じてるね。

 それから何回かそんなことがあった。心がまぁまぁえぐられた。


 俺は配信タイトルを変えることにした。

 偽物どものせいでとんだとばっちりである。

 セクシー裸配信と……これでバカなサルが釣れるだろう。とちょっとフラストレーションを貯めて半ば投げやりである。

 ブルーであることは、まぁいつか勝手に広まるだろう。なぜなら俺が本物なのだから。


ピロン♪

 

――――コメント――――

【レイレイ】:おじゃ

――――――――――――


 少しコメントが怖くなってきたが、レイレイさんか。


「おじゃ!」


――――コメント――――

【レイレイ】:応援してる。チャンネル登録したよ。

――――――――――――


 まじか! 初めての登録者だ! おお、すごい。これはうれしいぞ!

 だが視聴者を意識しすぎていつもの自分を忘れてはいけないからな。

 でもちょっと小躍りしそうになる。半裸だからさすがに危ない人にしか見えないのでやめておこう。


 とりあえず何しよっかな、あ、そうだ!

 俺は広場に戻って、いつもその辺を徘徊している徘徊老人こと、チュートリアル爺に話しかける。

 

「チュー爺! 教えて!」

「ほぉほぉほぉ……お主か。まさか勇者の力を継ぐとはな……これも何かの思し召しかの。して何を聞きたい?」


 お、確かに会話に補正が入っている気がするぞ。

 

「色々聞きたいんだけど、まずは一文無しの俺にできることを教えて下さい」


 くっそ雑な質問だけど、この高性能チュートリアルお爺ちゃんなら何とかなるだろう。


「そうじゃな、まずは金を稼ぐのが先決じゃろう。お前さん着る服もないようじゃからな」


 まぁ服があっても着るとは限りませんけどね!

 なんせ今縛りプレイ中なもんで! なんならこのままずっとこれで行こうかと思ってます!

 ハンデじゃないぞ、一撃もらったら終わる緊張感が俺をさらに強くするんだ。つまりバフだな。パンツバフと呼ぼう。


「地上には降りたかの? モンスターやアイテムを拾ってこの国のギルドで換金すればスカイコインに還元できるぞ。それにモンスターを倒せばスカイコインも手に入るしな。スカイコインから円への還元は当日のレートによって左右するから気を付けることじゃ」

「円? なんすかそれ」

「お前さん何も知らんのぉ……これが勇者で大丈夫なんじゃろうか」


 それからチュー爺は俺に色々なことを教えてくれた。

 滅茶苦茶助かる、事前知識0できましたからね。そんなんで勇者継いじゃって困ってたんすよ。

 しかしどうやらこの世界、噂でちらっと聞いたがリアルマネーを稼げるらしい。

 おいおい、ゲームをして我が家の家系が助かってしまうなんて、一石二鳥だな。これは盛り上がってまいりました。


 そして地上に降りるには、スカイダイブを決めるか。転移門から地上の転移門へとワープすることで移動できるらしい。

 この世界には転移門と呼ばれる遺物が多くあり、その遺物はスカイパッドを使って起動できる。

 さらにギルドと呼ばれる場所でモンスターの素材なんかは換金できて、依頼を受けたりもできるらしい。

 基本的には金策はこの依頼を受けたり、地上で探索を行うか、リアルでバイトしてこいとのこと、世知辛すぎん? 


 でもこの世界、武器の強さよりもプレイヤースキルのほうが重要視されているらしい。

 そういえば勇者の試練も最弱の武器でクリアできるような設計だったもんな。

 

 俺はチュー爺にお礼を言いながら、とりあえず地上への転移門とやらに向かうことにした。


 さて、一体どんな世界が広がってるのかな。

 トワに託された四人の王ってのも気になるが、まぁとりあえずは天空のトワイライトを楽しもう!










 徘徊する老人は、その背を見詰める。


「トワや……いい子を見つけたのぉ。……儂ももう少し頑張るとするか」


 スカイライトにはいくつも噂があり、その複雑な世界を解き明かそうとする考察クランも存在する。

 

 その中で一つの有名な考察がある。


 チュートリアルお爺さんは、広場でずっと徘徊しているスカイディアに住む唯一の人間だ。

 プレイヤーの質問に優しく答えるが、世界の核心に触れるようなことは一切教えてくれない。

 それ以外の人は一体どこにいったのか、なぜこの国にはゴーレムしかいないのか。


 だがこの世界の生き物は見えないところでもまるで生きているかのように生活をしている。

 なのに、あのお爺さんはずっとあの城の前で徘徊している、24時間だ。


 そしてもう一つ、チュートリアルお爺ちゃんには、影が存在しない。

 はじめはバグかと思われたが、一向に修正される気配がないことからそれは仕様ではないのかと思われている。


 つまり、実は彼は、いやスカイディアの住人は全員。


「この不甲斐なき王にも……まだやれることがあればいいが」


 既に死んでいるのではないかという考察だった。

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