第3話 ようこそ、天空のトワイライトへ。
「はぁ!? してない、してない!」
ぶんぶんと頭が捥げそうな勢いで全力で首を振る愛理、なんだ、してないのか。
それはよかった。本当によかった。
「あ、もしかしてアプリ見ちゃった? あれ友達と遊びでいれただけでもう消してるから!」
「そ、そうか! それはよかった。とりあえずな、金に関しては俺が頑張るから気にするなよ!」
「りょうかーい」
そうして愛理は自室へといってしまった。
俺は胸の中にずっしり残っていた胸やけのような気持ちがすーっと消えて安心する。
そして自室へと戻り、配信の準備を始めた。
これで憂いは無くなったが、うちがお金に困っているのは本当だからな。
愛理の大学費用もさてどうするかと思っていたし、配信者になれるならそれに越したことはないし挑戦はしてみよう。
「……これで配信できてんのか? よくわからんが」
配信の設定をする。
フルダイブ型のVRはWEBカメラなどを必要としないため設定さえすれば即配信できるのが利点だな。
設定はよくわからないが、とりあえず移っているらしい。同接0、まぁ当たり前か。
さっそく天空のトワイライトをインストールしてプレイを開始する。
【天空のトワイライトのインストールが全て完了しました。起動準備完了……キャラメイクを開始します】
色とりどりのカラフルな起動画面が切り替わる。
雲の上の神殿? 目の前には女神様?
気づけば雰囲気のある雲の上の神殿で、滅茶苦茶美人な女性が両手を組んで祈りを捧げていた。
キャラメイクか、ネトゲではあまり推奨されないが、自動生成でいこう。
やっぱり自分の方が没入感もあるし、龍一の話では配信者はそれが多いらしい。
Vの者が今は無数に乱立しているので、リアルは逆に珍しいから差別化できると。
【キャラメイク終了。起動します…………では、天空の騎士に幸運を。いってらっしゃい】
にっこり笑う女神様、滅茶苦茶服装エッチだな。
なんて思っていたら直後、視界は一瞬で切り替わる。
さぁ、ゲームスタートだ。同接0!
「…………う、うぉぉぉ!!??」
気づけば俺は遥か天空から真下に向かってスカイダイビングしていた。
浮遊感は軽減されているとはいえ、心臓の音が聞こえてきそうなほどに跳ねる。
落下先はどうやら、巨大な城が立つまるでラピュタのように空に浮かぶ巨大な国?
そのさらに下には、果ても見えない地平線と広大な世界、噂によると地球と同程度の広さを持つ仮想世界――トワイライト。
いきなり空から自由落下させるなんて、鬼畜という名の吊り橋効果かもしれないが、いきなり心を鷲掴みにされたようだ。
「……まじかよ! これがゲームのクオリティか!?」
全世界登録ユーザ1億人に到達しかけている、今最も遊ばれているゲーム。
なのに今だ誰もメインシナリオ攻略者は存在しない。
最高にして、最難関、圧倒的なクオリティで他の追随を許さない最強タイトル。
この無限に続くかのような幻想的な景色を見て、想像を掻き立てられないのならゲーマーじゃない。
俺は落下しながら両手で、自分の髪をかき上げるように頭を掴む。
その世界全体を遥か天空からもう一度見下ろして、無邪気な笑顔でいつものように言った。
「――燃えてきた!」
【Presented by アテム。ようこそ、天空のトワイライトへ】
空から落ちていると、画面の上部に天空のトワイライトの開発元である日本の企業アテム社のロゴが表示された。
世界的IT企業であり、人工知能のリーディングカンパニーのアテム社が開発したこともあり、最新技術が惜しみなく使われていると聞く。
特にNPCは人間と見間違うほどだとも。
さて、一体どんな世界が広がっているんだろうか。
そろそろ地面に着地か、と思ったらどんどん減速し、眼下に広がる天空の国に着陸する頃には、ぶわっと空気のクッションにでも落ちたように優しく包まれた。
すると俺の視界上に、真っ白な文字で文字が表示された。
【天空の国 スカイディア 天空城前・泉の広場】
どうやら、ここはスカイディアという国らしい。
事前知識0で来たけど、ネットで名前だけは何度も聞いたな。巨大なメタバース空間だとかなんとか。
俺が着陸したのは、上空から見えたあのでっかい城の前にある噴水がある広場だった。
この城は天空城というらしい、そのまんますぎるな。
周りを見渡せば、プレイヤーだろうか。まるで街中のような世界が広がっていた。
みんな強そうな服を着ていたり、おしゃれな服を着ていたり、そもそも大分リアルとは違う顔なのだろう、あまりにも美形。
あのロリっ子とか中身絶対おっさんだわ……っとそんな邪推をしながら俺は世界を見渡す。
俺の服装はというと、白を基調とした若干民族衣装感のある服だ。
「しかし、一体どんなゲームエンジン積んでんだよ」
それにしても世界があまりに現実に近すぎる。
後ろの噴水の水なんていや、これリアルと何が違うん? ってほどに流体がオブジェクトとして再現されて、なんと触ると触感すらも再現していた。
現実と触覚は、完全にリンクしていないだろうけどそれでもここまで再現するか、開発陣は一種の変態だな。
「お若いの……スカイディアは初めてかの?」
振り返るとそこには、いかにもお助けキャラですよという感じの優しそうなお爺ちゃんが、フォフォフォと笑っていた。
どうやらNPCのようだが、初心者を助けてくれる存在なのだろうか。
「はい、そうです!」
「そうかそうか、ならばまずは『スカイパッド』がいるじゃろう。ちょうど一つ余っておるのでな。お前さんにやろう」
するとそのチュートリアルお爺ちゃん――縮めてチュー爺が胸ポケットから取り出したのは、青色の平たい石、うんこれはiPad! 失礼、スカイパッド!!
全体的に青い石で、画面は完全に液晶ですね。裏は羽? 天使のマークみたいなものが書かれていた。
どうやらこのスカイパッド、いわゆるメニュー画面らしい。
ログアウトやマップ機能、はてはアイテムボックス、写真機能なんかも常備しており、おそらくゲーム内でのシステムメニューを担っているようだ。
「この世界でわからないことがあれば儂に聞くが良い。ずっとここにおるからな。だがまずは地上に降りて探索するのがよいじゃろうな」
「うぃっす! 何もわかりませんけど色々やってみます!」
「うむ、楽しむことこそが一番大事じゃぞ。だが後ろの天空城はまだお前さんでは早いステージじゃからな。いかぬほうが良い」
「うぃっす! 難しいんすね!」
俺は元気よく返事をしてチュー爺と別れた。
そして後ろの天空城を見る。
禍々しい城、おそらく相当難易度の高いエリアなのだろう。初期装備の俺では厳しいはずだ。
なら決まっている。
「おじゃましまーーす!!」
俺は天空城へと入場した。
ピロン♪
同時接続数:1
「本物だったらいいのになー。ブルー君」
ブルーの配信に初めて視聴者が現れた。
チャンネル登録者数200万人を超える超有名配信者。
顔出し美少女セクシー系JK配信者、レイレイの愛称でガチ恋勢の多いアイドルのような存在だった。
レイレイはふと新規配信者の中にブルーという名前を見つけてクリックした。
ブルー、それはほんの数か月前からばったり聞かなくなった名前。
突然現れて、ネット格ゲー界隈を荒らしに荒らしていった無名の天才で、そのときレイレイも戦っている。
「昔滅茶苦茶にされてから……ずっと探してるんだよ」
そんな彼女が蒼太に感じた実を焦がすような敗北感、再戦したくても突如消えてしまった苛立ち。
怒りに嫉妬、憎悪に羨望、負と正の感情をごちゃ混ぜにし、ミキサーにかけたらよくわからないものへと昇華した。
「ブルー君、どこにいるの? 私ね、ずっと探してるんだよ? ねぇ? どこ? ねぇ……どこ? ねぇねぇねぇねぇ…………どこ?」
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