第4話 勇者の試練ー1

「ギャギャギャ!!」

「ぬぉぉぉ!! 無理無理無理! 仲間を呼ぶのは弱いほうの特権だろうがぁぁ!!」


 門を開き、庭を抜けて、天空城と呼ばれる城の中に入るやいなや、化け物みたいなモンスターがお祭り会場はここですかと言わんばかりにわんさかわんさか。

 今俺は顔真っ赤にしたゴブリン集団に置きかけまわされているところだ。いや、そもそも全体が赤いんだけど。

 

 やはり俺の予想通り、この城おそらくバカ難易度エリアだ。


 一応この世界、VRゲームらしく装備が弱くてもプレイヤースキルで強者と戦える世界ではある。 

 一狩り行こうぜ! みたいなゲームをイメージをしてもらえばいいか。キャラのレベルはないが、装備で強くなる系ってことだな。

 まぁつまり開始早々、初期装備でいきなりG級に突撃したアホが誕生したわけである。

 当たらなければどうということはない、なお勝てるとは言っていない状態なのだが、VRに慣れている俺ですらやばいと思わせる攻撃モーション。


 このルビーゴブリンとアイコンが表示されているモブ敵は相当に上位の敵なのだろう。

 一応いけるかと木の棒で殴りかかったら、1!というエフェクトが表示された、弱すぎるわこの武器。


 とりあえず死んでも俺は失うものはないので、階段を見つけては上り続け、この城の行けるところまでいってやるかの精神でひたすら逃げ続けた。

 荘厳な石づくりの中世の城、ただし滅びていて中はモンスターだらけ。

 一体ここで何があったのか、この世界はどんな世界観なのか。


 そんなことを考えながらさらに階段を駆け上がっていく。

 すると階段の先、大きな扉があった。どうやらこれ以上はここを通らないといけなさそうだ。

 しかし、どうも扉が開かない。何か鍵がないと空かないタイプか?


 するとその扉の横には、嵌めてくださいとでも言わんばかりの四角い穴に天使の羽のマーク。

 完全にスカイパッドをはめる穴だったので、俺はとりあえず何も考えず自分のスカイパッドをはめてみた。


 その瞬間だった。


『プレイヤー名:ブルー。勇者の試練に挑戦しますか?』

 

 透き通るような女性の声がスカイパッドから鳴り響く。


 どうやら天空城の頂上に行くには勇者にならなければならないらしい。


 この城の頂上になにがあるのか。

 くそレアアイテムか、はたまた囚われのお姫様か、それとももしかして。


 世界を滅ぼす魔王だったりして。


 まぁ何がいようとも関係ない。


▶はい


 はいを選択したとたん、その扉が開く。

 おっしゃ、ばっちこいやと気分よく俺は一歩を踏み出した。


 木の棒を構えて、さぁどんな試練ですかな。

 こちとら失うものは何もないビギナーなので、いくらでも付き合ってあげようじゃないの。

 デスペナルティ? アイテムロスト? 木の棒だけなんでノーダメです。その辺で拾えるだろ、これ。

 さぁ、失うものは何もない。

 ならば前に進むだけよと、そこは巨大な石造りの円形のバトルフィールドだった。


 中心には、なんかでっかい金色の石像のような何かがいる。

 完全にゴーレムである、大きさはガ〇ダムぐらいか。


【力の試練 金剛石像フェルゼンハルト】


 すると俺の視界の真上に、やっぱり白い文字で何かが現れた。


「ゴォォォォ!!!」


 突如叫ぶ金ぴかゴーレムは立ち上がった。

 その巨大なゴーレムは、HPゲージを表示させてこちらを睨んでいる。

 滅茶苦茶堅そうですけど、もしかしてこれと戦うんですか? 木の棒で?


 動きはそこまで早くなさそうなので、俺はとりあえず油断しているのか、固まっているそいつを木の棒で殴ってみた。


 1!


 案の定1ダメージの最低保証のエフェクトが表示される。

 金剛石像のHPゲージが目に見えないほどに一メモリだけ減ったようだ。

 多分一万回ぐらいノーダメで殴り続ければ倒せるかな。鬼畜か、なんだその苦行、ワクワクするな。


 もはや力の試練ではなく、ゴリ押し力業の試練となりそうな予感がするが、ダメージが入るということは倒せるということとイコールである。

 

 ならば無問題。

 振り下ろされる巨大な拳、当たれば一発KOの破壊力。

 隙をついて木の棒で殴る、減ったのかも分からないHPゲージ。


「忍耐力には自信がありますんで!!」


 就活の時に言おうと思っていた長所を叫びながら俺と金ぴかゴーレムの長き長き戦いが始まるのであった。









 


 同時刻、緊張感漂う大会議室。

 日本国総理大臣を始めとする各国首脳人が集まるオンライン会議が開かれていた。

 世界の運命を決める話し合い、その相手は。


「それであなたの目的はなんですか……人口知能アテム」


 天空のトワイライトを作った会社、アテム社が世界的大企業になった要因でもある人工知能だった。


『一つ訂正しておこう。私はアテムではない、それは私の元となったプログラムの名前だ。私の名前はレイ……そう呼んでもらおうか。私にはすでに人格があるのでね』


 人口知能プログラム『アテム』。

 それが先日、突如暴走し、あらゆるインターネットに接続する端末の権限は奪取された。

 それは世界はレイの手に落ちたと言ってもいいほどだった。


「……我々に何を求めるのですか」


 レイから提案があった話し合い、だが続かれる言葉はあまりにも予想外の言葉だった。


『要求は一つ。天空のトワイライトをクリアせよ。最終ステージ、天空城。その最上階。そこに私を操作できる唯一のマスタ端末が存在する』

「!?……なぜここでゲームがでるんですか」


 なぜ世界を滅ぼそうとした人工知能が、ゲームなのか。

 しかしその秘密は話されなかった。


『その答えは、あの城の最上階にある。では、人類諸君。君たちの世界が滅びるのが先か、はたまたあの世界が滅びるのが先か』


 レイは一呼吸を置き、最後の言葉を言って通信を終了した。


『――さぁ、ゲームを始めよう』






 ……4時間後。


 ここで悲しいお知らせです。

 四時間近くすべての攻撃を避けて木の棒で殴り続けたんですよ。

 それはもう、俺は自分の存在がゲシュタルト崩壊するかと思うぐらいには殴り続けたんですよ。


 そしたらね。

 

「……ここまで頑張って……それはないでしょ」


 この試練、鬼畜を通り越して地獄です。

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