第2話 俺、配信者を志す

 それはいわゆる出会い系アプリ、そしてパパ活アプリだった。


 通知には登録しましたのメッセージ、つまりまだやってはいないことはわかる。


 数日前になんでお兄ちゃんはいっつも私のために人生を犠牲にしようとするの! と喧嘩したのが引き金だろうか。

 そんなつもりはなかったのだが、でも愛理は昔の事故のことを思い出していたのかもしれない。

 

 そんなとき愛理が「じゃあお金があればいいんだね」といったのを覚えている。

 その結果がこれなのか? 自由意志なら100歩譲っても……いや、だめだわ、だめだめ。法律的にもアウト!


 翌日、俺は頭を抱えながら人生で一番テンション低く朝食をとっていた。

 

「お兄ちゃんなんか変だけど大丈夫?」

「愛理……、いや、なんでもない」


 言い出せねぇ……。

 パパ活してるのかなんて、俺は愛理に言えなかった。

 プライバシー的にも、気まずさ的にも。


 愛理は滅茶苦茶に美人だ。

 

 小動物のような小柄な体に、ちょっとだけでふわっとしたツインテールはその童顔な顔に良く似合っている。

 見ただけで庇護欲をそそられるような雰囲気、その大きな瞳に見つめられると思わず守りたいと思ってしまう。

 それでも既に大人に足を踏み入れてしっかりと高校1年ながらに色気もあり、胸も……まぁこれからに期待だ。

 どこかのアイドルグループにいてもおかしくはないし、もしいたら人気は間違いなく出るだろう、そんな美少女が俺の妹だ。


 つまりパパ活したならば間違いなく大成功を収めてしまう見た目をしている。


 容認するべきなのか? 我が家は自主性を重んじているが、これは兄として止めるべきなのではないか?

 

 しかしわが家にはお金がないのは事実であり、「私はブランド品で身を固めたいの、文句があるなら稼いでから言って、このごくつぶしのゲーム廃人!」なんて言われたら俺は泣いてしまうぞ。


 さて、こういうときはあいつの知恵を。



「というわけでどうしたらいいですか、龍一様!! 私にその全国模試3位のお知恵を貸してください!!」

「まじかよ、愛ちゃんが……パパ活……」


 俺は親友に相談しにきた。

 サングラスに帽子をかぶり、まるでアイドルの変装のような見た目。

 だがこいつには確かに必要だろう。


 帽子をとると髪を銀色に染めて耳にはピアス、高校生の癖にホストみたいな糞イケメン。

 名を『雨神龍一』、プロゲーマーであり、超がつく人気配信者であり、全国模試上位で、実家が金持ちで、中学まで野球をやってた頃の元バッテリー。

 アイドル並みの人気者で、チャンネル登録者数は300万人を超えている。


 この世のすべてを手に入れた男、『雨神龍一』こと通称:ドラゴン

 いわゆるインフルエンサーだ。


「金なら貸してやろうか? 腐るほどあるぞ」

「いや、我が家の家訓は友達に金を借りるなだ。金は関係を壊すし、俺はお前とそうなりたくはない」

「別にあげてもいいんだけどな……まぁでもこれはいいタイミングか。んじゃお前が稼げ」

「稼ぐ? ……そうか! 俺がママ活すると!」

「アホか。お前にはもっとすごい才能があるだろ。さんざんネットゲーム荒らしといて」


 俺は首をかしげる。

 はて、俺に金になるような才能があったか? あるとすれば忍耐力には自信がありますが。72時間ぐらいなら全然ゲームできます。ネットゲームだって一年前に片っ端からやりまくったぐらいだぞ? 


「配信者だよ。お前、ゲームの配信者になれ」

「へぇ? 配信者? 俺が? イケメンでもないのに?」


「別に顔は関係ねぇよ。むしろお前ぐらいのほうが普通で親しみがある」

「褒めていると受け取っていいのか?」

「はっ!」


 一般的に、駆け込み乗車しようとしたら目の前で電車の扉が閉まった人を鼻で笑うような行為は喧嘩を売っていると同義だろう。

 ここがゲームの世界なら、今すぐ俺は剣を抜いていた。よかったな、この世界に銃刀法があって。


「つうわけで配信者になってみろよ。VRゲームなら特別な備品もいらないし」

「……稼げるか、わからんけど。わかった、やってみる!」


 配信者なんてやったことはないが、俺に適正があるのだろうか。

 龍一のようにイケメンではないし、まぁゲームは得意なほうだとは思うが。


「あと天空のトワイライト、始めようぜ。今配信者として活動するならあれ一択」

「あぁ、あの史上最高の?」


 龍一の口からでたタイトル、天空のトワイライト。

 今世界を賑わらせている史上最高と呼ばれるクオリティのゲーム。

 俺も噂だけは聞いていたが、プロゲーマーのこいつも参戦してるのか。


「基本プレイ無料。まぁいろいろと教えてやりたいがお前ネタバレ嫌いだもんな。だからとりあえず勝手にどうぞ」

「了解。とりあえずやってみるわ。ありがとな、龍一!」

「おう」



 その日の夜。

 俺は仁王立ちで玄関で待っていた。

 愛理は図書館で勉強だといっていたが、そろそろ帰るだろう。


「ただい……お兄ちゃん。って……なにしてんの?」

「愛理よ。そこに座りなさい」

「え? なに? 夕飯の準備をしないとなんだけど」


 俺は愛理を無理やり座らせる。


 そして言った。


「お兄ちゃん、配信者になって稼ごうと思っているんだ!」

「配信者!?」


「そうだ、だからな。お金のことは心配しなくていい。本当に心配しなくていいぞ!」

「むしろ心配なんですけど……」

「それでだな。えーっと、とりあえず、だな……」

「なに?」


 そして俺は意を決して言った。


「パパ活はやめてくれ!!」

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