【コミカライズ決定】【神回配信】ようこそ、輝かしきストリーマーの世界へ ~『妹を救うために最強に挑んでみた』動画が盛大にバズり、超有名配信者になった件~

KAZU@灰の世界連載中

半裸なのに強いんじゃない、半裸だから強いんだ。

第1話 難しいから燃えるのだ

 赤き月が照らす夜、俺は父を殺した。


 世界を滅ぼす魔王の真の姿は人間の王、そして俺の父だったのだ。そしてその父に育てられた俺が世界を救うという中々のマッチポンプ具合シナリオだったが、思ったよりも楽しめたな、このゲーム。とりあえずこの髭面おっさんが全部悪かったとファイナルアンサーが出たので荘厳な音楽流れるエンディング中、ずっとボコボコにしておこう。よくも木の棒一本で息子を魔界に放り出したな、毒親め。


 そしてVRゲーム『ファザー・ファンタジー』の世界はエンディングを迎えた。

 

 思わず仮想の涙がこぼれる。この画面を見るために一体どれだけの時間を使ったのか、俺はVRヘッドセットを取り外して、魂から叫んだ。


「ついに……ついに……VRゲー100選、フル完走じゃおらぁぁ! 二度とやるか、こんな鬼畜縛り!! 糞たのしかったわぁぁ!!」


 深夜であるにも関わらず、俺は叫ぶ。

 スプーンで穴を掘り続けて数十年、ついに脱獄が成功した冤罪の囚人のごとく叫ぶ。ご近所さんすみません、でももう一回だけ叫ばせて。完走じゃおらぁぁぁぁ!!


「お兄ちゃん、深夜だよ……ゲーム?」

「悪い愛理。起こしたか」


 すると俺の一つ下、高校一年生の妹が隣の部屋からパジャマ姿で目をこすりながら俺の部屋に入ってくる。

 すまない、あまりの達成感にテンションが上がりすぎた。


 俺が今何をやっていたかというと、フルダイブVRアクションゲームの名作100本組手だ。

 とあるサイトで閉店セールもびっくりなほど投げ売りスプリングセールがやっていたので全部買った。

 そして、すべてをいつものごとく鬼畜のような縛りプレイでクリアするというマゾいことをやっていた。


 我ながらバカだと思う。

 春に始まったセールで買ったゲームを夏休みになってやっと全て終えたのだから。

 だが男、天野蒼太。一度やると決めたことは最後までやり通す。まさか四か月近くかかるとは思わなかったけどな!


「しかし……記念すべき100本目だからと滅茶苦茶縛りきつくしたから中々にハードだったな。まじで丸三日かかったぞ」

「お兄ちゃん、縛りプレイ好きだね」

「その言い方は少し危険だぞ、マイシスター。ゲームのとつけなさい」


 俺はベッドから降りて水でも飲もうと我が家のリビングへと向かう。

 愛理は眠たそうに自室へと戻っていった。


 今は学校は夏休み、自由にゲームができる長期休暇中。

 だから俺は友人たちが海だ、山だ、恋人だなんて青春を謳歌している中、縛りプレイという牢獄で服役するつもりだ。

 俺は縛りプレイが好きだ。エッチな意味ではない、ゲームを制限付きでプレイするということだ。

 

 特に防具をすべて捨ててパンツ一枚、紙装甲縛りプレイが大好きなのである。


 先ほどクリアした最後の100本目なんかは某魂シリーズで有名な会社の死ぬのが当たり前です。君は何回死ねるかな? とでもいいそうな鬼畜げーを糞縛りプレイで攻略した。

 事前知識無し、防具無し、セーブ無し、クリアするまで睡眠なしという地獄の四重奏カルテットでラスボスまでAtoZ。

 

 思いついたときはこれはフィナーレに相応しいなとワクワクしたものだが、やれ始まってみると俺はこのまま死ぬのではないかと思うほどにきつかった。

 ラスボスがおほほ、私はあと進化を二回残していますよ。死ねおらぁぁ! と初見殺しを放ちまくってきたときは百合系の薄い本でむふふとしてたらアブラギッシュで汚いおやじが間に挟まった時よりも殺意が沸いたものだが終わってみればなんと清々しい気分なのだろうか。


 例えるなら理不尽な目にあって追放された勇者パーティから「すまない、俺たちが悪かった。戻ってきてください」と土下座されるときよりも清々しい。


 この趣味を友人に話したら、NTRは愛していないとNTRれないので純愛と同義なんだと力説した時ぐらいおかしな目で見られた。まぁ理解できないのも無理はないが、これがなんとたまらない。NTRじゃなくて、縛りプレイのほうがね?

 

 あともう少しというところでミスして死んだときの絶望とイライラ、それを乗り越えた時の脳がクラクラするような多幸感。俺は童貞彼女無しだが、多分S〇Xよりも気持ちいい。


「さて、次はどんなゲームをやろうかな」


 俺はグラス片手に外に出て、月を見ながらすでに次のゲームに思いを馳せていた。

 

 ゲームが好きだ。


 三度の飯よりもゲームが好きだ。


 バカ難易度が好きだ、ありえないほど鬼畜げーが好きだ。

 誰も乗り越えたことのないような高き山だからこそ誰よりも早く登りたい。


 だから今はひたすらにゲームを楽しみたい。


 なぜならこの自由な時間もあともう少しで終わりだからだ。


 俺は夏の少しじめっとした空気を肺に満たして、妹の愛理と二人暮らしの家に戻る。

 俺たちは兄妹の二人暮らしだ、両親は昔、死んでしまったから。


 だから今は亡き祖母の実家で二人暮らし。

 お世辞にも立派な家ではないが、光回線だけは俺のわがままで通っている。

 あと東京なので土地としてはすごくいいところだな。

 

 だが、親のいない我が家には収入源がない。

 両親と祖母が残してくれた遺産や保険金のおかげで生活ぐらいは問題ないし、俺も高校卒業までは余裕でいける。だが一生食っていけるほどではないし、大学に二人もいけるほどではない。


 だから俺は高校卒業と同時にゲームはほぼ引退し、働くことを決めていた。


 せめて愛理だけでも大学に行かせてやりたいしな。


 引きこもり、ゲームばかりしている俺と違って勉強が得意だ。


 しかも飛び切りの美少女で、学年を超えて話題になるほどだ。

 俺の友達は全員、妹の連絡先を紹介しろというから、オフパコしませんかと俺に来たスパムの連絡先を送っといた。

 あの時はバチクソにキレられたな。


 俺はそんなこともあったなと半笑いで水を飲み干し家に戻る。


 俺の残された唯一の家族、最愛の妹は俺が父親代わりに守ってやらないと。


ピロン♪


「ん? あぁ、愛理のスマホか」


 グラスを洗っているとリビングに置きっぱなしになっていた愛理のスマホの通知が鳴る。

 明日の朝アラームが鳴らなかったんだけど! と叫んで遅刻しそうになるのが目に見えるなと俺はそのスマホを部屋にもっていってやろうと手に取った。


 ふと通知が来た画面を見る。


 怪しげなアプリの通知だった。そもそもこんな深夜に届く通知が普通なわけもない。

 なんとなくだ、そのハートとピンクのアイコンが何となく俺の焦燥を掻き立てる。

 嫌な予感がした俺は自分のスマホでそのアプリ名を検索した。


 こういう時、俺の勘は大体当たる。


 確かに我が家には金がない。

 だからこそ、愛理を大学に行かせるために俺は高卒で働き、学費と生活費を稼ごうと思っていた。


 だがそのことで愛理が反対し、「なんでお兄ちゃんばっかり犠牲になるの!」と喧嘩になった。


 ほんの数日前のことだ。

 でもだからって。


『ご登録が完了しました! ラブダディ!』


「……愛理、お前……それはないだろ」





あとがき。

ゲーム大好き、天野蒼汰君の英雄譚。

よかったらフォローしてくれると作者は小躍りします。

祝 コミカライズ決定しました。

第一章最高なので、是非第一章までは呼んでね。

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