第18話 鍛冶クラン・ヘファイストスー1
私はビビヤン。
鍛冶クラン、ヘファイストスのクランマスターで、鍛冶スキルがスカイディアで一番高いプレイヤー。
リアルでも刀鍛冶として働いている鍛冶一筋30……おっと失礼20年のキャリアウーマンよ。
でも鍛冶ってどうしても女は舐められる厳しい世界だからさ、この世界でも男っぽい見た目をしてるの。
褐色肌で、スキンヘッド、でも乙女心は忘れたくないからメイクは欠かさずやってるわ。
でも最近はモチベが低いのよね。
いつも同じ素材で同じような強化ばかり、もっと私の心振るわせてくれるレジェンド級のメンズはいないものかしら。
そろそろ攻略クランにでも移籍してかっこよいメンズでも漁ろうかしら、そう例えばドラゴンこと、プロゲーマ龍一君とかね。
彼は凄いわよ、なんせレジェンド級のメンズだから。
私には特殊な力がある。
それはメンズを見たら内に秘める可能性を見抜く力。
男と女、どちらの気持ちもわかる私だから与えられた力ね。私はオカマスカウターと呼んでいる。つまりオカマは最強ってこと。
それにしても……はぁ、コモン、コモン、アンコモン、たまにレアは混じるけどその程度。
今日もうちに来るメンズ達のひっくい可能性を見つめながら、てめぇらチ〇ポ付いてんのかと罵倒したくなるわね。
きっと何も為さずに死んでいく悲しきオスよ、子孫も残せなさそうねとため息を吐く。
はぁどこかに私のスカウターをビンビンにさせてくれるメンズはいないかしら。
「こんにちわーー!!」
あら、新しいお客さんかしら。
あらあらまぁまぁ、パンツ一枚でお上りさんかしらね。
ビギナーには優しくがうちのモットー。さて、オカマスカウターON! …………はぁ? なにこれ、ナニコレ?
私のオカマスカウターがビンビンよ! すっごいビンビン! まだ上がる、まだ上がるの!? レア、スーパーレア、うそ、エピック……まだ上がる!? まさかレジェンド…………うっ! ボン! ……なんてことかしら、この子、可能性の獣……いや、化け物。
◇
「ここがヘファイストスのクラン……でけぇな」
俺はスカイディアの商業エリア一等地にあるクラン・ヘファイストスへとやってきた。
スカイディアには多くのクランが存在する。
クランとはプレイヤー同士で集まる集合体、 マップ情報の共有、獲得アイテムの共有、居住地スペースの入場制限などなど、まぁたくさんメリットがある。
そのクランの中でも一番多いのが攻略系クラン。
このスカイディアを探索し、冒険し、世界のストーリーを進めようとする者達だ。
龍一が所属する『ナイトオブラウンズ』もこれに属する。
クラン自体に属性はないが、どういったクランとして活動するかはこのスカイディアのシステムに登録することができる。
そうすれば多くのプレイヤーがクラン一覧から自分が所属したいクランを探したり、はたまた何か依頼をしたいクランを探せるという仕組みだ。
次に多いのが生産系クラン。
料理スキルを極めて食堂を開くクランや、栽培スキルを極めてガーデニングをして素材を売ったり、ただ花をめでるクラン。
釣り好き達によるひたすらとこの世界の釣りスポットを巡るというクランもある。
その中で一際存在感を持つのが鍛冶クランの中でも一番有名なヘファイストスという鍛冶の神の名を付けたこのクランだ。
一月で何千万スカイコインものレンタル料のかかるスカイディアの一等地。
そこにクランハウス兼鍛冶場を構えるそのクランは、毎月それでも黒字を出し続けるほどに繁盛している。
もはやこの世界のスキルだけで本当に商売しているといっても過言ではない。
そのヘファイストスで不動のNo1鍛冶師がいると聞いたが……。
「こんにちわーー!!」
俺が勢いよく扉を開けるとまるで高級ブランドの店構えでとても鍛冶場とは思えないが、このゲーム内装は自由に変えれるのだ。
完全に裸一貫の男が来る場所ではないし、そろそろ警備員に連れて行かれそうだなとびくびくしながらも大きな声で挨拶してみる。
どうぞ、と笑ってお姉さんが接客してくれたが多分中身がちゃんとあるアバターだな。
「すんません。ここで装備が作れるって聞いたんですけど!」
「はい、問題ありま――きゃ!? ビビヤンさん!?」
と思ったら横からオカマが出てきた。
褐色肌で、スキンヘッド、一瞬強面かと思うじゃん。でも化粧をして乙女っぽい雰囲気を出している。
それがさらに不気味さを醸し出しているのだが、一言でいうと嫌いじゃない。
なんか味があっていいよね、作られた美男美女ばっかりの世界より俺はこういう楽しんでるタイプの方が好きだよ。
でもちょっとすごい血走った目で俺を見てくるから怖いな。
「私が変わるわ。……見たところビギナーって感じだけど、何をお望み?」
「え、えーっとですね、始めたばっかりで……小さな骨を10個集めたんで装備を……」
すると横のお姉さんが困ったように口を開いた。
「ここは一応中級から上級までのクランでして……下級の装備なんかは別のクランが担当してるんですよ……それに結構お値段が……」
「いいわよ、私がやる。個人的にね」
「えぇ!? ビビヤンさん!?」
何かよくわからんが、やってくれるんだろうか。
ビビヤンさんと呼ばれたこのかっこいいオカマは、俺にウィンクしてついてこいという。
店の奥に連れていかれたがそこは鍛冶場だった。
多くの鍛冶スキルを習得したプレイヤーが鍛冶っぽいことをトントンとやっている。
「すげぇ、ゲームなのに本格的だ」
「ええ、そうでしょ。だからドはまりするのよ。もちろんリアルに比べたら何十倍も時間は短縮されるけどね、過程は本物と大差ない。だからスキルを習得するのも本当に大変なのよ」
この世界の鍛冶は、スキルだがちゃんと正しい手順そして正しいアイテムを使って行わなければならないらしい。
しかも手順をミスれば失敗までするのだが、どこまで本格的なのか。
もちろんゲームらしく例えば、鉄を叩くときなんかは一発でOKだし、リズムゲーみたいな感じらしい。
「さぁ、座って」
「うぃっす」
俺は鍛冶場においてある机に座ってビビヤンと対面した。
「改めて自己紹介するわね。私はビビヤン。この世界一の鍛冶師よ」
ピロン♪
「え? フレンド申請?」
突如飛んできたフレンド申請。
「単刀直入にいうわ、あなた何者?」
そして情熱的な目で俺を真っすぐ見る。
「すごく興味があるわ」
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