第16話 天空のトワイライトを楽しもうー5
俺はゆっくりと顔を上げてみた。
うわ、人ってゴミをみるときこんな冷たい目をするんですね。
コメントでリオンって名前と教えてもらったが、アバターの上のアイコンも
おっと? 剣なんか抜いてどうするつもりですか? もしかしてまたバッサリですか?
「あなた、ゲームだからといって、何されても許されると思っているんじゃないでしょうね。ゲーム内でのセクハラ行為で刑事罰になった事例をご存じですか?」
「いや、ほんと悪気はなくてですね。自分初心者なんですが……かくかくしかじかで」
俺は木の棒が壊れてしまい鉄の剣を購入するためアイテム全て失ったこと、転移門ではなくスカイダイブをしてみたかったことなどを必死に伝えた。
スカイパッドのアイテム欄まで見せて、俺の無実を証明する。
ほんとに俺は悪くないんです。パンツ一枚になりたくてなったわけじゃないんですよ。ほんとですよ? まるで人をパンツ一枚になりたがる変態みたいな目で見ないでください。
「…………はぁ。事情はわかりました。アイテムボックスに何もないことも、初心者であることも認めましょう。確かに油断していたとはいえ避けられなかった私にも落ち度はあります」
「いやいや、全部悪いのはこっちだから! これは不幸な事故! 決してやましい想いがあったわけじゃないんだ!」
どうやら俺の無実は証明されたらしい。
一説では痴漢は痴漢と言われれば逃れられないらしいし、俺は配信してしまっているので記録も残っている。訴えられたら間違いなく負けるだろう。
するとリオンの横からクランメンバーらしき人が俺を一瞥し、リオンに話しかける。
「リオンさん、もう行きましょう、そんな初心者に私達は構っている暇はないんですから。天龍を早く倒さなければ」
「…………そうですね」
ため息を吐きながら、リオンがスカイパッドを操作する。
すると俺にフレンド申請が飛んできた。え? もしかしてそういう感じ? ツンデレ的な奴ですか? おいおい、仕方ねぇな。お友達から始めましょうね。承諾っと。
ピロン♪
お? 何か飛んできたぞ?
俺はスカイパッドのメニュー画面に手紙のようなアイコンに通知が来たので開いてみる。
するとそこには、何と木の棒と初期の民族衣装が付いていた。
「事故ならば……PKしてしまったのは申し訳ないので、お詫びです。フレンドでなければアイテムの送付はできませんから失礼ながらフレンド申請を飛ばさせていただきました。初期装備ですがクランの倉庫にあったのでよければどうぞ」
「まじですか!? 滅茶苦茶助かる! ありがとう、ええーっと」
「まだ名乗ってませんでしたね。私はクラン墓守の灯台のマスターをやっています。リオンです」
「リオンね。了解、あ、俺はブルーです! よろしく!」
だが怖いイメージだと思ったが案外優しいんだろうか。
ずっと不機嫌そうでビームでも出そうな目つきをしてるが。
「ブルー……人の名前を語って。……では、失礼します。二度と会うこともないでしょう」
そういってリオンは俺に背を向けた。
俺もスカイパッドを起動して、木の棒だけを装備した。
初期の民族衣装? 着ませんけど? ありがたいがだって縛りプレイ中なもんで。
さてといくか。俺は木の棒を右手にパンツ一枚で転移門へと向かう。
「あなたふざけてるんですか? もしかして防具なしで地上に降りるつもりですか?」
「え、えーっと。まぁ……そう」
「……私には関係ない話ですが、あまり気持ちの良いものではないですね。ふざけているようで」
おっとどうやら何か委員長の怒りスイッチに触れたのだろうか。
ふざけていると言われれば真剣なのだが、これを何と表現したものか。
しかし、会ったときから思ったけどなんかこの墓守の灯台ってギルド重苦しいな。
全員顔が真剣というか切羽詰まっているというか、正直見てて辛そうなんだが。
「……なぁリオン、このゲーム楽しんでる?」
ふとお節介が顔を出す。
「なんですか、いきなり。楽しむ?」
「いや、なんか辛そうだからさ。悩みがあるならきくぞ。あ、これなんか出会い厨っぽいな。えーっと、ゲームだしもっと楽しく遊んだほうがいいと思うんだよな」
なんかうまくいえないが、とりあえず楽しくゲームして欲しいなと素直に思ったんだ。
プレイスタイルにケチをつけるつもりじゃないが、というか先にケチをつけてきたのはあっちなのだが、それでもあまりに辛そうでちょっとお節介が出てしまった。
その瞬間、先ほどまで冷たい顔だったリオンの表情が、さらに怖い顔になる。
あ、完全になんか逆鱗に触れたかもしれん。
「私は! 真剣にこのゲームを攻略しています! しなければならない理由がある! あなたのように、適当にゲームをしているわけではありません!! たかがゲームかもしれませんが! ゲームを本気でやってバカかと思うかもしれませんが!」
まくしたてるように俺に怒鳴るリオン。
あーちょっと俺の言葉が足らなかったかもしれないな。
そういう意味じゃないんだ。
「あー悪い。言葉足らずだった。俺は真剣だよ、真剣に遊んでる」
「……真剣に遊ぶ?」
遊びって世間一般でいうとふざけているようなニュアンスがある。
女性が遊ばれたなんていうと絶対に、適当に扱われたというイメージになるしな。
でも俺にとって遊びの意味はちょっと違う。
むしろ遊びのために俺は生きているとすら思っている。
仕事も睡眠も食事も、生きるためにやることだ。つまり必須条件だな。
でもゲーム、つまり遊びは違う。
それは人間の自由意思の塊だとも思っているし、最も人らしい行動だとすらも思っている。え? ゲームをするためのこじつけだろ? まぁそれはそう。でも俺は本気でそう思ってるよ。だからさ。
「全力で遊ぶ。ってのが俺のゲームに対する考えなんだ。誤解させたならすまん。この半裸プレイも一種の本気なんだ」
俺は一応怒らせたようなので謝罪するように両手を合わせる。
まぁ理解できないとは思うが……。すると怒っていたリオンは逆に悲しそうな顔になった。
「……そうですか。あなたはこのゲームを楽しめているんですね」
そして背を向けて、消え入りそうな声で言った。
「私達もそうありたかったです…………では失礼します……私達の分まで楽しんでください」
その背は少し寂しそうに、まるで泣いているかのような声だった。
そのままクラン墓守の灯台はどこか別のエリアへと転移門から転移してしまう。
取り残された俺は何とも言えない気分になりながら顔面を両手でバシバシと叩き気持ちを一心。
さて、いよいよ地上におりて楽しむぞと転移門をくぐり地上へとワープ。
見渡す限りの草原や丘、そして雑魚的であろうモンスター達。
武器は木の棒だけ、裸一貫雑魚でも一撃もらえば致命傷。
「おっし……やるか!」
◇その日の夜。
リオンは、その日の目標を終えてスカイライトからログアウトした。
一般中流家庭に生まれ、本名を城ケ崎凛音という。
もともとゲームというものをほとんどやっていなかった凛音は、下の名前をリオンとしてそのまま登録し、キャラクターも自身の姿のまま作成した。だが今ではそれでよかったとも思っている。
「楽しむ……か」
だが凛音達にはゲームを楽しむ余裕はない。
「あっ…………」
VR機器のファントムを外してベッドから起き上がり、食事をと思った時だった。
まるで貧血のように倒れそうになる凛音、足に力が入らないで床に倒れてしまった。
「なんで……動きなさいよ!! 私の足でしょ! 動きなさいよ!!」
自分の足を何度もたたくリオン、でもやはりうまく動いてはくれなかった。
「昨日まではまだ動いてたじゃない……なんで……なんで私の体なのに……うっうっ」
どうしても動いてくれない体に、悔しくて涙が出てくる。
その音を聞きつけたのか、父親が部屋に入ってきてリオンに肩を貸して下まで運ぶ。
「凛音、大丈夫。ゆっくりいこう」
「……ごめん、パパ……」
「…………大丈夫だ」
「…………ごめんね。迷惑かけて……ごめんね」
消え入りそうな声で口を開く凛音、それを聞いて父は目を閉じながら優しく抱きしめる。そしてリビングへと凛音を連れて行く。
凛音は病気だった。
通称、――石化病。
簡単にいえば脳からの信号が神経を通して筋肉まで正しく到達しなくなるという病だった。
そのせいで体がまるで石になったように徐々に動かなくなり、いずれは何もできなくなる。ただしフルダイブ型のVRゲームは、脳から直接信号をキャッチするためその病気の影響を受けない。
だからいずれ凛音はあの世界でしか生きていけなくなる。
この病気の研究は進められているが、予算の影響か進捗はそれほどない。
それでも多くの人がこの病に苦しんでいる現状がある。
だから、凛音は……いや、トップクラン墓守の灯台の目的は一つ。
「少しは休まないと、凛音。もうずっとやりっぱなしじゃないか……」
「ううん………そんな時間ないから。絶対100億、いや、400億円。全部手に入れて……研究を進めさせないと」
ただの一般家庭の凛音達にできることはそれだけだった。
夢物語でもいい、死の淵にいるこの病気にかかって絶望している人達を照らせるように。
それがクラン墓守の灯台の存在理由。
メンバー全員がこの病に罹患、もしくは罹患している家族を持つ人で構成されたクラン。
「私に遊んでる暇なんてない。私がやらなきゃ……みんなのためにも私が……」
その中で凛音は、ゲームの才能に恵まれてプロ顔負けのポテンシャルを発揮する。
鬼気迫り、その実力はワールドクラス。
天空のトワイライトでは超が付く有名プレイヤー。
勇者候補とすら呼ばれていた。
でも。
「私が天竜を倒すんだ……みんなの光になるんだ」
この世界で生きていられる時間はそれほど多くはない。
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