第8話 勇者の試練ー5

~知の試練、開始からやはり20時間後。


「うげぇぇぇ……やっと終わった」


 俺は最後の星座のマークの上で最初の三倍ぐらいになった黄金騎士を打ち倒した。

 案の定二回進化したが、それ以上に星座のマークが見えなくなったのがきつすぎた。


 ランダムに場所が入れ替わるだけできついのに、しまいにはこれは何の脳トレですかと言いたくなるような床の星座マークが入れ替わってから二秒後に見えなくなるとかいう悪魔の所業。

 それが10秒起きに起こるもんだからもう俺の脳みそはオーバーヒート。

 何度も時間制限に間に合わず全回復する黄金騎士。

 それでも苦節20時間、何とかノーダメでクリアできたのは本当に俺は自分を褒めてあげたい。


 もうこれクリアでいいだろう、さすがに俺の脳みそも限界なんですが。

 するとやっぱり俺の眼の前にスカイパッドが突如現れて、勝利を告げた。


『プレイヤー:ブルー。知の試練クリア。奥にお進みください』 

 

 と思ったが、どうやらまだあるらしい。

 ここまで一回しか死んでない俺がいうのもあれだけど、これクリアできた奴いるのか?

 まじで俺みたいなちょっと特殊なバカ以外は投げ出すぞ、絶対。すでにプレイ時間40時間を超えたんですが。

 世間一般的にいえばプレイ時間40超えたら相当やりこんでる分類のゲームになるはずですけどね、なのに俺まだこの世界何もわかってません。

 というかスカイディアの探索も全然してないし、やばいわこのゲーム、時間が溶ける溶ける。


 とりあえずここでぼーっとしてても仕方ないので次にいこう。

 ここまで来たなら何が何でも最後までクリアしなければ腹の虫がおさまらん、というか腹の虫が早く飯をくれと叫んでいる。

 そういえばここでログアウトしたらもう一回入れるんだろうか。


 俺はスカイパッドでログアウトボタンを押そうとして見る。

 すると勇者の試練は最初からの挑戦になりますがよろしいですかと聞かれた、うん、廃人しか勇者になれないってことですね。

 まさか勇者とは、職業不定の人しかなれないということだろうか。いや俺がまだ装備が弱すぎるだけなのか? そりゃ実際は回復アイテムもバフアイテムもあるもんな。

 裸一貫、鉄の剣だけで勇者になろうとする酔狂な奴は俺ぐらいか。

 ある意味、勇気とは何かを体現している気もせんでもないが、とりあえず俺はまたスカイパッドをはめ込んで次の扉を開く。


「……玉座の間? と……なんだこれ」


 やはり頭上に現れた白い文字。


 その部屋は玉座の間というにふさわしい大広間だった。

 だがボロボロだった。

 真っ赤な赤い絨毯は、血で汚れ、石づくりの壁は大きな穴がいくつもできている。

 何かと何かが争った跡のような、そんな広間。


 だがそれはすぐにわかる。


 なぜなら俺の目の前には巨大な化け物の石像があった。

 巨大な体躯は、金ぴかゴーレム並みに大きく、筋骨隆々の悪魔のような角の生えた化け物。

 その化け物は仰向けで玉座の間の床に倒れており、苦痛の表情で石になっていた。

  

 そしてその胸の上には一人の人間? いや、人間かはわからないが人型のような何かがその化け物に剣を突き刺して同じように石像になっていた。


 なんだろうか、多分だけどこの化け物と人間が戦って化け物を封印した。

 そんな歴史を感じる石像だった。

 あまりの光景に俺があっけに囚われながらその石像に向かって一歩前に出る。


【心の試練 天空の勇者トワ】


「へぇ?」


 次の瞬間、空中に光が集まったかと思ったら石像になった人間に瓜二つの何かが現れた。

 空を滞空し、剣を一本携えて、勇者ですと言わんばかりのかっこいい服を着ている。

 その人は俺をずっと見つめていた。


 そして。


「ふふ、そんな恰好でここまで来たのは君が初めてだよ。えーっとブルー君」


 普通に話しだした。

 どうやら意思疎通できるタイプのNPCか、俺のパンツ一枚を見て笑い出した。

 なんだ結構可愛い顔でわらうじゃねーか、というかめっちゃイケメンだな。女性人気凄そうな爽やか系王子様って感じ。

 

「これは俺の正装だからな。色々聞きたいんだが……」

「うーん、ごめんね。質問には答えられない。今から僕と戦って力を見せてほしい。僕が君を認められたら……そしたら僕の後を継いでもらいたいかな」

「継ぐとは?」

「…………君が次の勇者ってこと」

「ほう」


 名前が出た時点で分かっていたが、やはりこいつ天空の勇者ってやつなのか。

 なら後ろのあの化け物は魔王的な奴ですか? 滅茶苦茶に強そうですけど。


「じゃあ、始めようか」


 ――ぞわっ。


「――君の心が折れるまで」


 その瞬間、俺はあの雷光のサム=ライに感じた時と同じ寒気を感じる。

 圧倒的な死の感覚。

 次の瞬間、滑空してきたと思ったら俺の眼の前で剣を振り上げている勇者トワ。


「うぉぉ!?」


 何とか通常のガードはできたが、おれのHPは削られる。

 え? 嘘でしょ残り一割もないんですけど。


「すごいね。初撃止めたのは君が初めてだ」

「そりゃどうも」


 少し嬉しそうに笑う勇者トワ、だが返す刀で回転しながら俺に切りかかる。

 そしてそれを見て俺は悟った。 

 あぁこれは受け止めきれない、かといって避けることもできないわと。

 とりあえず精一杯剣でガードはしてみたが、ガードを貫通し、俺にダメージを与えてくる。


 一瞬で削り取られた俺のHPゲージ。

 そして完全に0になった。あっさり過ぎる結末。

 ここまで頑張ってきてこれが結末かよ。


「……くそ」

 

 俺が悔しさに声を漏らして死を待っていた時だった。


 おかしい。

 いつもならここで視界が暗転するのだが、一向に視界が暗転しない。

 俺は何がと目を開けると真っ暗な世界で目の前にウィンドウが一つ。


 コンティニュー?

▶YES

 NO

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る