第7話 勇者の試練ー4

 いや、そんなうまい話はないと思いましたけどね。

 でもさ、レジェンド級だよ? 凄く惜しい気持ちになったわ。

 この世界のレジェンド級がどんなもんかは知らないけど、伝説っていうぐらいなんだから相当だと思う。

 と色々言いたいことはあるのだが、多分壊れること前提だったんだろうと潔く諦めて俺は次の試練へと向かう。


 また同じようにスカイパッドを当てはめて扉を開くと同じ円形のバトルフィールド。

 力、技、ときたが、さて次はなんだろうか。というか一体いつまで続くんだ? 俺まだこのスカイライトの世界観すらわかってないんだけど。

 そんな思いをしながらも開いた扉の中に入ると、金色の甲冑の騎士? フルプレートの黄金戦士が中央に立っている。


 いつもと同じ円形のバトルフィールド。

 しかし今度は、地面に星座のマーク? 12個の星座が円形の床にまるで時計の数字のように描かれている。

 間違いなく、この星座に何か理由があるのだろうが、この12等分されている床のエリア。さて一体……。


 とりあえず俺はスカイパッドを起動する。

 なんとこのスカイパッド、ネットにつながり検索できるのである。

 細かいことは気にするなと言いたい気持ちは分かるのだが、まぁ完全にiPadである。

 でも確かにわざわざこの世界からログアウトしてネットに繋がなくてはならないのは不便だ。ならこの世界でネットに繋がったほうがいいよね。

 SNSを五分起きにチェックしないと死んでしまう病の人とかいるだろうし、配信設定なんかもこれでできるらしい。勇者の試練が終わったらあとでやろう。

 

 俺はそのスカイパッドで星座の名前と日付ぐらいを調べておく。

 あーそうね、見たら思いだすわ、一応昔覚えてたけどうろ覚えだったので。

 とりあえずこの知識だけで何とかなるのか? まぁなるようになるかと若干投げやりになりながら俺はスカイパッドをしまって一歩踏み出す。 


 俺がその部屋に足を踏み入れた瞬間だった、いつものように白い文字が表示される。


【知の試練 十二星座のシーケンス】


 まぁ案の定、力、技、の次は知でしたね。

 ということはなんか考えて戦う系だろうけど、そういうの滅茶苦茶好みです。

 技術で倒すのも好きだし、謎解きしながら倒すのも大好き、結局全部大好きなんですけどね。


 星座と黄金甲冑は色々アウトのような気がするが、そんなものはせいせや! という掛け声とともになんとかなるだろう。

 すると、その黄金フルプレートの剣士は剣を抜いた。

 俺もじゃあ鉄の剣を抜いて、まずは攻撃モーションの予測から。

 どうやら結構正当な剣士タイプらしく、攻撃方法はオーソドックスかな。


 ある程度避けることに集中しながら、俺は黄金戦士の出方を見る。

 まずは攻撃モーションから把握していこう、なんせ俺は一撃もらったら即死ですからね。

 こんな真剣にやってますけど、パンツ一枚ですから俺。


 先に仕掛けてきたのは黄金騎士。

 案の定オーソドックスな突き、切り払い、打ち下ろしと攻撃事態はそれほど大したことはない。

 さっきの骸骨侍に比べたらぬるいぬるい、止まって見えるぜ。

 ある程度攻撃を避けた俺は、よっしゃ、そろそろ反撃といきますかと一撃を入れる。


「……へぇ?」


 だが0! まったくの0ダメージ。

 滅茶苦茶堅い? いや、そんなことはないだろう。だってあの糞固い金ぴかゴーレムですら1与えたのだからそういうことではないはずだ。

 きっと何かからくりがあるのだろう。

 俺はもう一度切りつけてみる。


 やはりダメージは0。

 戦いにはなるが、こちらのダメージは一切通る気がしない。

 これは困った、さすがにノーヒントではこれ以上わからんぞ。


 俺がどうしたらと部屋からヒントを得ようとキョロキョロしながら戦っていた時だった。

 

 ゴーン!!  


 何かを知らせる鐘の音がフロアに鳴り響く。

 俺はスカイパッドを指でウィンドウを構えて召喚し、現在の時間を確認する。

 時刻は朝6時23分、朝日が昇るからそろそろ眠る時間だなと思ったが、時間が中途半端すぎる。

 一体なんの鐘の音? 鐘の音といえば時刻を告げる何かだと思ったのだが全然わからん。


 結局わからずに、俺はそのまま戦いを続けた。

 ジャストガードがもしかして鍵なのか? と思ってリスク承知でやってみたが、やはりノーダメ、全く関係ないようだ。

 正直結構詰んでいるんだが、もう少しヒントくれませんか?


 そんな悪戦苦闘を続けていると、また鐘の音が鳴る。


 ゴーン!!


 時刻はまた中途半端、全然わからずまた俺は避け続けるだけ。

 そろそろ30分になろうかというところだが、また鐘の音が鳴り響く。

 三回目、時間は6時47分。

 どうやら12分起きになっているようだ。

 

 12……12……星座の数、あとは月。ほかには……時計。

 バラバラだったピースが少しずつ繋がっていく感覚。


 その時俺に、稲妻のごとき衝撃で天啓降りる。


 この敵と相対してから12分ごとに鳴り響く鐘の音。

 もしかして時間と星座を絡めているのかもしれない。


 ははーん、謎は全て解けた。俺の予想が正しければ鐘がなってからの時間と星座が連動しているな。

 なら一月の星座、やぎ座。正確にいえば12月から1月だが。

 この絵が描かれている場所の上で、鐘がなってから一分以内に攻撃したらどうだろう、いや、これ完全に正解だろ。

 我ながら天才かと思いながら、俺は次の鐘の音を待つ。

 

 ゴーン!! 


 きた! 俺はヤギ座の星座の上で、待機する。

 黄金騎士の振り下ろしをジャストガード! これだけ攻撃を見れば余裕ですわと完璧なタイミングでガードを成功させて、反撃する。

 するとどうだ、やはりHPが減ったではないか。

 

 どうやら正解を引いたらしい、この程度で知の試練? 片腹痛し。

 既に金ぴかゴーレムのせいで丸一日不眠でやっていた俺のテンションは深夜のハイテンションへと移行していた。


 ならばとラッシュするが、最初の一撃で減った以上は減らなかった。はぁ? 一体どういうことかと思ったが、あ、そうか。

 二分経過後に次は水がめ座の上で一撃当てないといけない感じね。了解了解。


 俺はスカイパッド片手に時間を計測しながら戦う。

 水がめ座も成功、うお座も牡羊座も成功。これは順調だなと思った時だった。


「ウォォ!!!!」


 黄金騎士が吠えだした。

 瞬間、体が一回り大きくなったかと思うと速度が一段階上昇、見たこともない攻撃モーションが追加された。

 なるほどね、あなた宇宙の帝王フリーザ様タイプのボスでしたか。


 どうやらある程度HPを削れば形態が変わり強さが変化するタイプのようだ。

 しかもですね。

 

「はぁ?」


 床の星座のマークが入れ替わりだした。規則正しくならんでいたのに10秒ぐらいの感覚で、ランダムに切り替わります。

 はい、糞げーの始まり始まり。

 廃人ゲーマーの俺でなきゃ普通にボコられる攻撃をしてくるラスボス級の敵を動く星座のマークの上でタイミングよく攻撃入れろって? なにこれ、リズムゲーでしたっけ? 

 

 だが糞難易度はいくらでもOKよ。

 俺はこの程度じゃへこたれませんぜ、と頑張ってみるが5つ目の星座は時間内に攻撃を入れることができなかった。

 また12分待つしかないかと思ったら。


「…………全回復しやがった」


 黄金騎士のせっかく減らしたヘルスが全て戻りました。

 なのに形態はそのままで床の星座も動き続けていると、それにおそらく四つの星座で一段階進化したということは、おそらくおほほ、あと二回変身を残していますよという絶望すらも待っている。


 ははーん、了解しました。

 これ今までで一番鬼畜です。知の試練じゃありません、血の試練、いや血尿の試練です。


 このゲーム作った開発陣が俺の今を見たら滅茶苦茶笑っているだろう、というか見てるかもしれん。

 ならば、意地でもクリアしてやらないと、気がすまねぇ。


「絶対クリアしてやるわ!! こちとら、72時間ぶっ通しでゲーム余裕です!!」







「これブルー君だ。これブルー君だ!! 絶対ブルー君だぁぁ!!」


 レイレイは興奮しながらその配信を見続けていた。

 力の試練では技量がそこまでわからなかったが、技の試練は間違いなく彼だと思わせる天才的な技術だった。

 いまだ同接1、完全に埋もれている過疎配信だがコメントしようかとても悩む。

 集中している彼の邪魔はしたくない。


「ブルー君、ブルー君!! はぁはぁはぁ……ブルー君!!」


 だからレイレイは顔を赤くしながら画面にへばりついた。


 ずっと憧れていた彼のプレイに興奮しながら。


 今は私だけが見守ってあげるね。と恍惚の表情を浮かべる。

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