夜桜
部屋の扉越しに「桜が咲いたよ」と家族に声をかけられた。すっかり外が暗くなってから起き出して、どこか急かされるような気持ちで用水路沿いの花を見に行く。すっかり満開の桜はこんな夜中でも美しく、街灯の光を反射して淡く光っているようだった。桜を眺めながら、とぼとぼと用水路沿いを当てもなく歩いた。
桜が咲いたって自分の生活は何も変わらない。自分以外の人たちは毎日キラキラしていて、見ていると死にたくなるから明るい時間は外に出ない。コンビニに寄って、ジュースと菓子を買うと店員に「桜が満開ですね」と声をかけられた。何も答えられずに、頭を下げてコンビニを出る。夜風に吹かれて、ちらちらと散る桜を見ていたら、ぽろぽろと涙が零れた。せめてこの涙があの夜桜と同じくらい綺麗だったら良かったのに。
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