君にはショートカットが似合うけど

蘆原.n.四七

第1話 シニカル・ラブ・ソング

 この本を開いた貴方は、私と同じく2018年12月1日を覚えている魔女か、後世にその炎が宿った魔法少女であろう。その日について聞くと、多くの人々は「その日は曇っていたな」と覚えているだろうが、炎の血が流れている我々はまず灰の空を思い浮かべるはずだ。羽ばたくカラスから抜け落ちたそれのような、天蓋となって夜空を覆う無数の羽。


 ああ、私は早まってしまった。貴方がその日のことを十分に知るためには、2018年12月1日からもっと過去に遡る必要がある。だが、心配ご無用。物語の導入というのは必ずしも時系列の最初に位置する必要はなく、その日に至るまで膨大な数の文字を用いる必要もない。ただ、こうして書かれている私の文章の前に、まず彼女がいることを覚えて欲しい。そう、彼女、景浦かげうら七鶴なつの証言は、とある再会から始まる。




 Act1. シニカル・ラブ・ソング


 2018年11月29日、ある公園に二人の女性がいた。二人とも少女には見えない姿で、下手な合成写真みたいな光景だった。ジャケットもズボンも靴もバックも黒一色の服装だがネックレスだけオレンジ色にしている一人、イエローのフードとジーンズ、それにスニーカーのもう一人。黒一色の方は滑り台に腰を下ろして足を伸ばしていて、フードの方はブランコに乗っていた。日没後から、彼女たちは20分以上何も喋らないままだった。


「似合うね、ショートカット」


 黒一色の景浦七鶴が、やっと沈黙を破った。


「ええ。洗う時間も短く、爽やかです。お姉さま、いいえ、え-と」

「何?」

「七鶴さんもおススメです」

「七鶴さん?」

「いやですか?」

「ううん。お姉さまよりはマシだね」

「はい、お子様ではありませんから」


 何処か拍子抜けの会話。景浦はそうなっても仕方ないと思った。4年ぶりの再会――それもあまり良い別れ方とは言えない相手との再会だった。それに、子供にとっての時間の長さは大人のそれとは違うものだ。景浦が思った以上に彼女は変わっていた。


「るいるいってもう19歳?」

「はい。あの時のおねえ……七鶴さんと同い年になりました」

「うん。私も思った」


 19歳と11歳。27歳と19歳。どうしても響きが違う、景浦はそう思った。景浦は少女時代の板羽(いたは)琉衣花(るいか)は知っていても、大人の板羽琉衣花については何も知らない。時間の長さがそうであるように、大人と子供が過ごす時間と大人同士で過ごす時間は違うものだ。


「七鶴さん、右足は、やっぱり」

「うん、治らんよね。残念だけど」

「今はどうなさ……どのように過ごしてますか?」

「やってるよ、仕事。翻訳。あまり稼ぎは良くないけど、フリーランスだからスケジュールも自分で組めるし、一人で生きれるようになった」

「素敵です!」


 いきなり目を光らせる板羽に、景浦は困ったように「あはは、そうかな」と答えた。19歳と言っても、板羽みたいな箱入り娘がすぐ就職する訳ではあるまいし、そのまま大学に進学しただろう。大学生にとって社会人はとにかく偉く見えるものだ。


「るいるいはどうしてる?」

「琉衣花の方が良いです」

「あ。ごめん。もう子供じゃないんだもんね。琉衣花はどうしてる?」

「私は日本女子大学に通うことになりました」

「おー」

「あと、魔女のための仕事をやるつもりです」

「え?」


 今この文章を書いている私の身分がそうであるように、魔女や魔法少女のための仕事は存在する。だが、『大波』が見えない一般人にとって魔法少女の存在証明はひどく難しい。見えざる者、信ずることなかれ。したがって、世の中に魔法少女の存在を知らせようとしても、珍しいケースを除ければ、およそ精神病として処理されるか集団幻覚だと言われるか、どちらかだ。仕事の範囲もずいぶんと狭くなる訳だが……おや、道草を食いすぎたな、彼女らの物語に戻ろう。板羽はこう反問したそうだ。


「驚きました?」

「うん、だって魔法少女の会が……」

「あそこは嫌です。反吐が出る」


 景浦は板羽がそこまで強烈な表現を使うとは思わなかった。景浦は会話を繋げず、板羽を見つめるだけだった。板羽は板羽で、吐き出すように景浦にこう聞いた。


「七鶴さんはいまだに集会に?そんな所、早く抜けた方が良いです」

「ううん、あんまり活動してないよ。もう私なんて役立たずなだけだし」


 否定しようとする板羽の視線が景浦の右足で止まってしまう。景浦の視線もそこに向かっていることに気づいていたのか、板羽はそのまま口を閉じた。


「それにしても、集会でなければ、どうやって仕事するつもり?」

「時代は必ず変わります」

「?」

「まだは言えなくても、方法はあるってことです」

「それはよかった。それにまだ大学1年生でしょう?焦ることないって」

「2年生です」

「あー」


 また気まずい沈黙が訪れる前に、景浦が滑り台から腰を起こす。板羽が安心するように、右足を手でぽんぽんと軽くたたくことも忘れず。けれども、足を引き摺ってしまうのはどうしようもない。「4年間かけて来た足だ、いきなりこの瞬間だけ重くなるはずないだろう」と、景浦は心の中で自分にそう言い聞かせた。


 板羽は景浦を駅まで追ってきたが、お互い行く方向が違い時間も遅くなったので、その日は連絡先を交換してから別れることにした。景浦が乗った電車の中はほぼ満席で、人が乗車するというよりは、体を無理やり押し入れるという表現が正しかった。

 扉の上に付いたディスプレイにニュースが流れる。「理由不明の電車故障事故、いまだ調査中」という文字列に景浦の目が留まる。景浦は首元に手を当てた。黒一色の服装には似合わない可愛いらしいネックレスから、ほのかな熱気が景浦に伝わってくる。


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 当日、午後5時――電車のゆれに合わせてオレンジ色の夕焼けが反射され、ネックレスが黒色のジャケットの上でキラキラと輝いた。人目に付くような姿だったが、ファッションのバランスの問題というより、疲れた景浦七鶴の顔色がネックレスとの相反していた。翻訳という仕事に努めている以上、景浦に長い外出は珍しいことであり慣れないものだった。父親はもっと実家にいてほしそうだったが、彼女はこれ以上居座ると電車が混んでしまうと言って東京へと向かった。


 景浦は山手線に乗ってから、やっとほっとすることが出来た。1年ぶりに戻ったあの家で、母親の残り物を見た瞬間からずっと胸くそが悪かった。それらと一分一秒も過ごしたくなかった。景浦がようやく忘れられそうだった傷口がまた開きそうだった。

 景浦の母親は、自分の運命とは自分で開拓するものだ、そう信じていた。ちょうど1年前の今日、その言葉を実践するように母親は自分の手で最後も決めることにしたそうだ。遺書にも「解放」という言葉が何度も書かれていたと。父親からの電話を聞いて駆け付けた時はもう遅かった。病院で死亡が確定された時、景浦はあまり涙を流さなかった。むしろ羨ましいとまで思えた。精神を蝕む病気に支配される前に自分の手でやっつける、いつも通りの強い人。その空洞は大きくてたかが涙では満たせなかった。


 夕焼けのせいか、眠気のせいか、それとも寂しさのせいか。彼女は気付かなかった。電車のこの揺れが普通ではないことを。


 多くの場合、その兆候は水が流れる音から始まる。誰かが閉め忘れた蛇口が出すような音からソレが始まり、湧き出す泉水の音となり、やがて『大波』へと変わる。だが、ソレは地上の液体とは違って質量も持たず感触もない。すくなくとも一般人にとってはそうだ。


 けれども、電車のガラスはソレの圧力に耐えなかったのか、ごなごなに割れてしまった。いきなりの騒ぎに人々は悲鳴を上げて、景浦も席から離れ体をすくめた。その時、彼女の耳に鱗の摩擦音が聞こえた。


 景浦はやっと思いついた。

 この電車は『発光魚類の群集移動』に紛れ込んでしまったのだと。


 逃げ道はもう封鎖された。幸いにも横の車両には少人数しかいなかった。人の群れを横切って、景浦は震える手でネックレスを握り、小さい声で懐かしい呪文を唱えた。


 君の仇は私の仇で

 また私そのもの

 私は自分さえ

 既に憎んでいる

 さぁ、その力と命を

 私の両手に!


 ネックレスが放つ強烈な桜色。胸を締めるような痛み。渇きと微熱。うなじまで届いた髪が一気に伸びて腰をくすぐる。魔法少女の変身に付きまとう典型的な症状たち。私から言わせれば、それは何度も味合う初恋のようなものだが、景浦にとってはもううんざりだったそうだ。


 それらを払うように、彼女は宙から現れたスレッジ―ハンマーを強く握って、そのまま振り下ろした。バン、そして、パキパキ。ハンマーの衝撃に耐えた発光魚類が抵抗を試す。ハンマーを押し上げようとするその頭は景浦の足に蹴散らされて、あっけなく列車の床に転がった。


 バン、今度は、ぐちゃ。


 潰された仲間を見つけた発光魚類たちは、一斉にえらを開き音なき怒声を発した。電車はもっと激しく揺れて、このまま続けたら転覆しそうだった。炎の血が流れていない人々には、奴らが見えることも聞こえることもなく、怯える以外に出来ることはなかった。つまり、景浦は勝手に暴れて良い状況ではなかった。


「分かった分かった。外で遊んであげる。お姉ちゃんにちゃんとついて来れる?」


 発光魚類風情が彼女の言葉を理解する訳はないが、挑発は確かな効果を発揮したようだった。掛かって来る奴らを見てから彼女は後ろを向いて、勢いよくジャンプした。スレッジハンマーがぐるっと回って、地面と平行状態となり彼女の足元に戻る。左足は問題なくハンマーを踏んだが、いつも右足が問題だった。右足をすべらせた景浦を置いて飛び出すハンマーを、彼女はぎりぎりに両手でつかんで、這いあがった。


「大丈夫……自転車乗りみたいなもん、だよ」


 自転車乗りというよりはバイク乗りに近い姿だったが、なんとか体のバランスが取れた。姿勢を低くした景浦を乗せたハンマーは、そのまま割れたガラスの間を抜け出し、電車から垂直に上昇した。


 追い掛ける群れの一部はガラスに身が挟まって動きが取れなくなったが、残りは彼女を頂点とする円錐形を描きながら空を泳ぐ。彼女は飛び出すハンマーの上で息を荒くしていた。もうアラサー、体力が以前とはずいぶんと落ちていて、魔力の消耗が激しくなっていた。一撃で全部仕留める、それが一番合理的な選択誌だった。


 彼女は上空から人がいない子供用の公園を見つけ出した後、自分のハンマーを抱きしめるように強く握った。


 ハンマーが空からUターンし、そのままドリルのように回転した。そして重力を味方にする急降下を演じる。彼女の専売特許「七鶴落とし」を見て発光魚類の群れが散開を試すが、避けられる奴は少数に過ぎなかった。ハンマーは無慈悲に彼らをにじっては燃やし、そのまま地面へ直撃した。


 衝撃波のように公園の砂が飛び散る。


 咳をしながら立て直そうとする景浦。彼女がハンマーを持ち上げようとしても、右足が邪魔になって姿勢を崩してしまった。残りの発光魚類がそれを見逃す訳がなく、砂の向こう側から彼女を包囲した。


 母親は自分で死を選んだのに、娘は居座って死が来ることを待つだけか。

 彼女は歯を食いしばりながら、そう思った。

 目の前で白い鎖が発光魚類を引っ張る前までは。


 引っ張られた奴の腹を、鎖で繋げられている白い鎌が切り裂く。


「そこのお方、じっとしなさい!」


 砂の幕に映るショートカットのシルエットが、白い鎖鎌で次から次へと発光魚類の数を減らしていた。景浦が知っている限り、そのような奇抜なアクセサリーを付けている魔法少女は一人しかいない。


 ぼーとその光景を見上げる景浦に向かって、女性は声を掛けた。


「もう終わりました。自分で立てますか?」

「るいるい……?」


 その質問に相手は大きな瞳がもっと大きくして、濃い眉毛を釣り上げた。景浦は確認するため同じ質問を繰り返した。


「板羽琉衣花、だよね?」

「お、お姉さま?」


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 どうにか午後9時なる前に家にたどり着いた景浦七鶴は、扉を閉めて靴を脱いで、そのまま着替えもせずにベッドに身を投げた。そのまま眠りに付けたいという気持ちで一杯だったが、それは避けるべきだった。景浦がフリーランスになってから学んだのは、フリーランスだからこそ規則的な生活と健康を守らないと、大損をするということだ。


 それに、午後の件に限っては、自分だけの問題ではなかった。


 景浦はベッドから身を転がしてバックから携帯を取り出した。彼女がメッセージアプリに文字を打ち始めて、その文字数が一桁を超えた時点で、彼女の親指が止まった。カーソルの瞬きが眩しかった。彼女はメッセンジャーアプリを閉じて、電話を掛けることにした。通話待機音が鳴る合間もなく、携帯から相手の熱情的な応答が流れた。


「先輩、ついに復帰ですか?!」


 あまりにも声が大きかったため、景浦は耳から携帯を離した。携帯に表示されている名前は鷹阪たかわき小桃こもも。当時の彼女は、魔法少女の会で活動している若手として名を馳せていた。


「いや、そんなんじゃないよ。事故に巻き込まれただけ」

「でも、久しぶりの七鶴落としですよ、僕も近くで見てみたかった」

「魔法少女が何言ってるの。とにかく、報告。うん、あの電車事故、『大波』だった。でも、発光魚類があそこまで群れるのは珍しいかも」

「そうです。集会の皆、話題にしてましたよ」

「皆って、小桃ちゃんだけでしょう?」

「とんでもないですよ。景浦先輩の名前を知ってる後輩は沢山います」

「悪い意味ででしょう、それ」


 今になって老人の魔女たちが彼女を見直す理由なんてない。四年前に集会からの除名まで追及された身だ。それについては、鷹阪と板羽が誰よりも知っているはず。


「あの、実はね、小桃ちゃん。集会には報告したくないことがあるの」

「と、いいますと?」

「今日、あそこで会ったの」


 景浦は一度喉を鳴らして、その名前を口にした。


「板羽琉衣花と」


 携帯の向こう側から、数秒間、何の音も返ってこない。


「そうですか。板羽様が。元気でしたか」

「板羽さまって、他人みたいに……」

「景浦先輩、僕は集会のメンバーとして無所属の魔法少女の活動に対して上層部に報告しています。板羽様の場合は特にそうです」

「お願い、小桃ちゃん。今回だけ見逃して」


 携帯から乾いた笑い声が聞こえる。それを抑えようと何度も咳ばらいをする音も。


「先輩、報告してもしなくても、永久除名という判決が動くことはありません」

「小桃ちゃん」

「板羽が元気でしたら、それで十分じゃないですか。集会の助力なんてなくても」

「小桃ちゃん」

「先輩。板羽の奴と僕、何年も顔合ってませんよ。もう同じチームでも友人でも何でもありません」


 そこまで言われると、景浦からもこれしか言うことがない。


「ごめん」

「先輩、その時のことは先輩の過ちではありません。僕がこうしているのも先輩のお蔭じゃないですか」

「うん、分かってる、ごめん」


 深いため息。指でデスクを軽く叩いた音がした後、二度目のため息。景浦は今でもその姿が想像できる。鷹阪は今頃、左手で携帯を持ちながら、右手はそのウェーブがかかった前髪を何度もかきあげているだろう。三度目のため息のあと、鷹阪は話を再開した。


「魔法少女の会はあくまで自由で平等な協力団体です」

「うん」

「所属のない魔法少女に関する活動報告は地域の動向確認のためだけ行われ、他の団体に所属している場合は追跡したりしません」

「うん」

「だから、板羽様が何処かの魔法少女や魔女団体に所属しているとすれば、僕も報告する義務はありません」

「……ありがと」


 景浦は通話を終えて、唸り声を出しながらベッドから体を起こした。疲れた日には右足が普段より言うことを聞かない。お風呂に入ってその右足を休めると良くなるが、今の状態で景浦がそうすると入浴中に寝てしまう。シャワーで我慢するしかない。頭からシャワーを浴びている間、景浦の頭に板羽が言っていたことが浮かんだ。


自分の髪もそんなに長くはないが、確かにショートカットの方が便利そうだな、と。あんなに背中を覆うぐらい髪を伸ばしていたのに、ばっさり切るなんて。


「私には無理だよ」


 景浦はそう呟いてから気がついた。それは髪のことだけではないと。

 彼女が母親を亡くした1年前と同じく、涙は浮かばなかった。


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 鷹阪小桃は携帯をデスクに置いて、気分転換のため背筋を伸ばした。


 鷹阪と板羽がもう名前で呼び合う仲じゃないとしても、様まで付けて遠慮する必要は全く無かった。鷹阪なりに感情を抑えるつもりでやったことが、余計に七鶴先輩のトラウマを刺激してしまった。もう何年も経ったことなのに。鷹阪は自分があの頃のガキに戻ったようで嫌になった。


「今の方が、景浦七鶴さん、ですよね」

「うわっ、びっくりした」

「ご、ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなかったんです」


 川口かわぐち志衣しえはまた頭を下げた。川口はクラスメイトからよく「サイリウム」と呼ばれていた。ぺこりと頭を下げていると、ポニーテールが揺れる姿がまるでサイリウムを上下に振るようだと。先生から何か質問された時も、野良猫の尻尾を踏んだ時も、人混みから抜け出す時も、プレゼントをもらった時も、悪口された時も、誰かに殴られた時も、川口志衣は頭を下げて過ごした。魔法少女の会から魔法少女見習いとして保護が必要と判断され、鷹阪がそれを受け入れ自分の家に連れて来た時も同じく頭を下げられた。鷹阪は川口と一緒に住み始めて何度も繰り返した言葉を、また口にした。


「君が謝ることはないよ」

「でも」

「僕が勝手に驚いただけだ。で、なんだっけ?」


「あの」と言いながら川口の指がデスクの携帯を示した。「ああ」と何気なく携帯を持ち上げた鷹阪が、一瞬止まって、二度瞬きをした。鷹阪の喉から今までとは全く違う温度の言葉が出て来た。


「どこから聞いていたんだ?」

「す、す、すみません」

「そんな話じゃない」

「盗み聞きをしようとしてしたんじゃなくて」

「志衣」


 志衣が鷹阪を見上げると、鷹阪がゆっくりと首を横に振る。


「もう一度質問する。どこから、どこまで、聞いた」

「あの、永久除名の話から、義務はありません、までです」


 鷹阪の両手で何度も掻き上げた彼女のヘアスタイルはもうパンク族のそれになっていだ。その時、川口が自分の手で口を防ごうとすることに鷹阪は気づいた。集会から保護を任された子を自分から不安にさせては、本末転倒だ。鷹阪小桃、今日で四度目のため息。


「志衣、正直に話してくれてありがとう」

「は、はい」

「僕も君が盗み聞きなんてする子じゃないと思っている」

「はい」

「でも今から、君と、僕と、七鶴先輩は共犯だ」

「はい…はい?」

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