真夜中の公園
おれが初めてそいつに会ったのは真夜中の公園だった。
おれは死に場所を探していた。自殺しようとしていた。
予め用意しておいた安い縄を握り締めぶらぶら歩いた。
深い考えはなかった。
もう駄目だ。ただそう思っただけだ。
そいつ、は公園の小さな池のほとりにいた。
おれの足音に気付くとこちらへ振り返った。おれは歩みを止めそいつをじっと見てみた。なんつーかまあ怖いもんなんて何も無いけど。
おれはストゼロを飲んでいた。頭の中いっぱいにそいつの成分が満たされた。視界に映る世界の輪郭はあやふやだった。それでもそいつの姿だけははっきりと見えた。おれは言った。
「あのさあこの辺に自殺に適した木は生えてる?」
そいつは無言で左右に首を振った、扇風機の羽みたいに。くるくると回りやがてぽろりと頭が落下した。そいつは胴体だけになった。立ち上がるとそいつは歩き出した。どうやらついて来いという意味らしい。
途中おれたちの立てる物音を聞きつけホームレス達が顔を出したがすぐに引っ込めた。何か良からぬ雰囲気を察したようだ。おれは飲み終わったストゼロの空き缶を池に向かって投げた。早速、次の缶を開ける。ぷしゃ。
「この世界は狂ってる」
自分の声を自分で聞いた。
そいつは暫くすると歩みを止め椅子に座り込んだ。その隣りに当たり前のようにしておれも座った。ぐびりと飲む。
「わかってる、そんなことはわかってるんだ」
おれは弁明した。まだ何も訊かれていないのに。そいつの意思が直接おれの頭へとなだれ込んで来たのだ。
少しは考えるふりをしてやってもいい。まだ時間はある。だが思考は直線的に進んだ。
「お前は死神か?」
そいつは黙り込んだ。
頭は無かった。
胴体の部分だけだった。おれはそいつの腹をぎゅっと掴んで持ち上げてみた。分厚い皮の下には別の何かが隠されているようだった。
「なあ、そんな仕組みでおれを騙せると思ってるのかよ?」
中は全くの別物だった。そいつは言った。まるで自動音声のような無機質な声で。
「あなたは昨年、男子児童に対する強制猥褻で有罪判決を受けそして昨日、釈放されましたね」
おれはごくりとストゼロを飲んだ。トロピカルフルーツ味だった。ただ本物を模した全くの別の何かだった。トロピカルフルーツとは一切、関係無いだろう。
おれは事件を他人の口から聞かされても(そんなもんか)としか思わなかった。世の中もっと悪い奴はいる。
「あなたは自分の人生が嫌になって終止符を打つためここへやって来たのでしょう?」
「あんたが案内してくれるのか?」
「天国も地獄もありません。それはあなたたちが勝手に用意したものです。この先に人間の考えた範疇のものは何一つありません」
「それを聞いて安心したぜ」
おれは飲みかけのストゼロをそのまま椅子に置き立ち上がった。ちょうど目の前に適当な木が生えている。
翌日、ほんの少しの衝撃を近隣住民に与えそれもすぐに消えた。置かれたストゼロにまだ中身は入っていたがけして蟻がたかることはなく、嫌な予感を察知して皆、迂回した。
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