とてもまともなふり
まともぶっているだけだ。
それが上手くいってるだけだ。
たまたま今は周囲を騙せているだけだ。
これから先はわからない。
何故なら本質はまともではない。
異常者。
ある日、突然、理由も無く発狂するかもしれない。それは全然おかしなことではない。
あり得る。
今までは人も殺さずまともなふりをし続けて、それが成功していた。だがぎりぎりの攻防は常に内側で行われていたことを忘れてはならない。
もう限界だった。
そしてそれはとっくに通り過ぎていた。
だからおれはもう降伏することに決めた。諦めた。
これ以上、運命に抗うことをやめた。
もう十分、頑張った。
これからは思うがままに生きよう。
殺人をすることにした。
殺人。
それは全然おかしな行為ではない。
異常者にとっては至極、当たり前のことなのだ。
コップの水が溢れるようなものだ。いちいちその理由を考えるだけ無駄だ。
最終的にはこの星が在ることが悪いことになる。
おれのことを善人だと言う者もいた。
何もわかっていないのだ。見る目が無さすぎる。
最初から間違っていた。
生まれたことが誤りだったのだ。
修正不可。
おれの人生はぐらぐらとして、まともではない条件のもとに成り立っていた。
最初からやり直すしかないのだ。
まず破壊するしかない。
他に方法は無い。
来世があるのかどうかは知らないが別に無くても良い。
ただもうここにはうんざりだ。もう二度と見たくない。
幼い頃からここはおれの居場所じゃないと勘付いていた。成長とはそれが実態と化すだけだった。
間違ってこの星にやって来てしまった。
そういうことを言うと家族はしくしく泣いた。何もわかっていない。おれはより良い提案をしているのだ。おれにとっては今この瞬間こそが地獄であって、それが終わった死という状況は好ましいものであるということがわからないのだ。
自分の本当の気持ちすら打ち明けられない。こんなものが家族と言えるだろうか?
一体どこまでおれを追い詰めるつもりなのだろう?
笑って、この世界はほっこりしていますねみたいな振る舞いを強要される。ただ表面上はうまくいっているという姿が見えればそれで良いらしい。
本当の気持ち? 何もかもを爆殺してこの星を更地にしたい、出来ないからやっていないだけだ、出来たらとっくにやっている。
こいつは失敗作だ。
どう考えたってそうだ。いや考えるまでもない。結果は既に出ている。
方程式はよくわからないが、答えだけはここにある。そいつが揺らぐことはない。計算式を逆算してどうして失敗したのかが解明しても大した意味は無いだろう。
「十分、頑張ったよ」
おれがそう命令を下しても心臓は鼓動を止めることはなかった。こいつはおれの家族、以上に馬鹿なのだ。おれが社会的に不必要な今すぐ消えるべき存在なのだということをどうしても認められないのだった。
「血液、送りやあす! ふあい! おおー!」
そんなことを四六時中やっている。噂では真夜中もやっているらしい。いい迷惑だ。
内側の臓器までおれの言うことを聞いてくれないのだ。孤立無援。おれの味方は一体、何処にいるんだ………。
もう、疲れた。
この不良品の自分ってやつを引き摺って歩くことに疲れた。
よくここまでもったものだ。
それだけは自信を持って言える。勲章を貰ったって良い。だが誰もそれを認めてはくれなかった。
けどいーんだ。
せめておれ一人だけは味方であってやりたい。お前もう十分やったよ、そろそろこの人生ってやつに蹴りをつけてもいい頃合いなんじゃないか?
涙がこぼれた。
そんな言葉をついに誰からも掛けては貰えなかったから。
表面上の付き合いだけだった。あいつらはけして友達や恋人なんかではなかった。そのような特別な関係性をおれはついに他者と築くことが出来なかった。
みんなが心の中で何を考えているのかわからなくて不気味だった。言ってることとやってることが真逆だったりして、その度におれは怯えた。
もうけして若くはない。
これから先、自分の人生に起こり得ることなんて容易に想像、出来る。今までを参考にしこれからを予測するだけだ。何も起こらない。ただそれだけ。そして息を吸って吐くだけで苦痛を強いられる日々。
哀しいことなんて何も無い。
振り返る。
多分、ただ事故のようなものに遭っただけなのだろう。何か大切なものが失われてしまったおれ。そしてそれは他人の目からはけしてわからない「なんで?」「どうして?」わかったふりをされるだけ。今日この日までに起こったありとあらゆる不条理を羅列し導き出した明確な答え。
煙草を吸って吐いた。その行き先をぼんやりと見つめた。おれの命もそんな風にして境界線も無く霧散してくれれば良いのに。じりじりと反応を起こし、燃え、本体を全て灰に還して………。だがたった一つでさえ自分の望みなどこの場所では叶いやしない。
この場所で上手くやろうと言う試みは終わった。今ここにいるおれはその段階を通り過ぎていた。実験し、そして失敗に終わったおれだ。なんとか上手くやろうともしたが無駄だったおれだ。長い長い遠回り。でもやるだけ無駄だということがわかった、それだけでまあいいか。
おれと世界はけして分かち合うことはなかった。おれはこの世界を憎み、世界はこのおれを憎んだ。
おれはそれでもまだ犯罪も犯さずまともな社会の一員として機能しているふりをしていた。不良品がまるで自分が健全であるかのように擬態しているだけだ。くくくっ。
笑える。
もうどうにもならないんだろうな。
自分が何を考えているのかこのおれにもよくわからない。何がしたい? この思考回路は既に侵食されているのか? おれなんてもう何処にもいないのかもしれない。
うんざりだ。
疲れた。
最終的にはそれ以外の感覚など無くなるのかもしれない。外野で何か喚いている。知ったことか。お前ら全員、死んじまえ。
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