殺人
人を、殺すべきだった。
まるで空き缶でも投げ捨てるよう一切の躊躇いもなく。
思い付きで取り返しのつかない場所へと行くべきだった。
生きる、それを死ぬまで継続させる。それは全然、大したことではない。
皆、洗脳されているだけだ。ただ列に並んでいるだけだ。そしてまとめて崖下へと転落しようとしているだけだ。
生きることは素晴らしい。おれにはとてもではないがそんな風には見えないな。寧ろその対極なのではないかとすら思えた。
知れば知るほどこの世界ってやつが嫌になる。
もうとっとと次の段階へと移行したかった。たとえその先が無でもここよりは遥かにましだろうという想いがある。それほどまでにこの場所は狂っている。
罠だ。
最初から仕組まれていて死ぬまでそこから抜け出せない。
視界の全てにうんざりだ。充分だ。ここは生きるに値しない。いや微かに素晴らしいものもあるのだが、それは自分とは一切、無縁だ。関係の無いところで行われている。手では触れられない。全ての綺麗事は空虚に通り過ぎる。
人を、殺すべきだった。
その対象は別に自分でも構わない。もう何もかも終わりにしようじゃあないか。ただ幼児が新しいことへ手を伸ばすよう人をぶっ殺してみるのだ。
おれは自分という名の人形を破壊する。
おれは知っている、これはただの遊びだ。人生、などと呼ばれるほど大袈裟な装置ではない。
残された連中のことなど知ったことか。適当に死ぬまで生きればいいさ。関係が無い。おれはもうそこにはいない。おれは別にお前らの笑顔を見るために存在しているわけじゃあない。ただ自分らしくあろうとしていただけだ。
もはや他人からどう思われるかなんて心底どうでも良かった。そんなことにこれっぽっちも気をかける余裕なんて無い。この不良品を一体どうやって処分するか? 頭にあるのはそれだけだった。
生きることは応急処置だ。取り敢えずそれをしなくてはならなかった。そのあとで何か前向きなことを考えようと思った。だがいつまで経っても終わらないのだ。永遠に応急処置。それをするだけで人生が終わりそうだ。
そんな馬鹿馬鹿しい話しがあるか? 生まれて、ただ頭がおかしくなって死ぬだけ。
これ以上ただ黙ってお行儀良く朽ち果てていくなら人殺しにでもなった方が数千倍ましだ。
それは自分のせいではない。
そうだろ?
おれは別に何も悪くない。だって最初からそうだったのだ。これは決められた筋書きだ。分岐点など何処にも無く、気付いたらこの場所にいたのだ。予め頭がおかしくなる因子を埋め込まれていたとしか思えない。
もう十分、罰は受けた。これ以上、何に耐えれば良いのかわからない。いるのかいないのかわからない神様を崇拝する気になんて到底なれなかった。
おれはぶっ壊れた。
もうこのまま続行することは不可能だ。
望んでいない結末へと真っしぐらに進んでいた。
回避不能。
ただの人間未満。そいつが用済みの人形のように転がっているだけ。そんな気持ちがお前らにわかるか? 最初から壊れていてけして返品は不可能だということ。
おれがそんなに悪いのか?
壊れてそれでも何とか頑張ろうと自分なりにやって来たんだ。
でも全ては無駄だった。
あるべき所へ着地するしかなかった。遠回りをし、そこへと至る時刻が少しずれただけ。もう何もかもを終わりにしてしまおう。
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