一輪

綴。

第1話 一輪

 のんびりとした昼下がりに私は散歩をしていた。湿度は高くジメジメとした不快な日。


 ふと小さな花屋さんの前を通る。

 小さな寄せ植え用の花や紫陽花がニコニコと笑ってくれている。


 私はしばらく眺めていた。

「いらっしゃい!」

「ちょっと見せて貰っていいですか?」

「どうぞどうぞ!」


 植物を育てるのが苦手な私は、お花屋さんに並ぶ花を楽しむのだ。

 サボテンでさえ、連れて帰れば枯らしてしまうから。


 お店の奥に並ぶヒマワリと目があった。

「あら、ヒマワリ!」

「少し早いけどね、綺麗でしょ」

 私はヒマワリの笑顔を見る為に、お店の中に足を踏み入れた。


 すると何かに呼ばれた様な気がして、辺りを見回すとたくさんのカーネーションが並んでいた。赤と白、ブルーと白、ピンクと水色、黄色と白、鮮やかなグリーンと黄色……全部が2色に染まったカーネーションだった。


「昔は白か赤くらいしかなかったのにね、今はこんな風に色を着けたものが人気らしくてねぇ」


 可愛いけど何だか可哀想……。


「へぇ」

 私はカーネーションをしばらく見つめて、その中から一輪を選んだ。

「これ、下さい!」

「え、これでいいの?こっちの方が綺麗に染まってるよ?」

「はい、これ下さい!」



 私は一番色の付き方が悪いカーネーションを選んで連れて帰ってきた。


 花びらのフチがまだらな水色で、少し褪せたピンク色。

 まるで勝手に色をつけられるのを最大限に拒んだかのように見える。



 綺麗な水を入れて花瓶に飾ると、こっちを向いてくれる。


 もういいよ、自分の好きなように好きな色で咲けばいい。

 私はあなたが枯れるまで、毎日新しい水を入れ換えるから。


 今日もカーネーションは、少し大きめの花瓶の中でこっちを向いている。

 窓から吹く優しい風がレースのカーテンを揺らすと、ちょっぴり微笑んでくれた。



        ─ 了 ─

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一輪 綴。 @HOO-MII

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