第9話 失われたペンダント

 分厚いカーテンに閉ざされた小さな窓を打ちつける雨音は、次第に大きくなってきていた。


 私もマリーも、ずっと無言のまま、小さなテーブルの上のろうそくを見つめ続けている。




「――申し訳ございません、わたくしの魔力が至らぬばかりに」


 平謝りするマリーに、


「いいのよ、マリー。あなたはやれることはやったんですもの――」


 励ますように、私は呟いた。








 一時間ほど前のこと。


「アリシア様、そろそろお食事を召し上がらないとお身体にさわりますわ」


 マリーにそう言われて、


「ええ、この屋敷の者も来ないみたいだし、誰か呼んできてくれるかしら?」


 私が何気なくそう言った次の瞬間、




『カチャン』




何かが閉まるような音がした。




「――?」


「アリシア様、どうされました?」


「――マリー、今、物音がしなかったかしら?」


「――そういえば」




 しばらく沈黙が続いたけれど、


「あまり気にしないで、マリーは行ってきて――」


 私がそう言いかけた時だ。






「アリシア様!ドアが、ドアが開きません!」


「――えっ?」


「どうやら、魔法で封印されているようです」


 マリーの言葉に、さすがに私もただ事ではないのを察した。




 マリーが開錠の呪文を唱え始める。


 ――十分、十五分、二十分。マリーはあらゆる魔法を試しているようだったが。






 あれから小一時間試しても、無理だった。


「――本当に申し訳ございません」


「いいのよ。――マリーほどの魔法の使い手でも無理だったら、仕方ないわ。――ペンダントも見つからないし――」






 私は、マリーが魔法で鍵を開けようとしている間、ペンダントを探していた。


 あれが無ければ、私は魔法が使えない。


 もしここから無事に出られて、魔法学院に着いたとしても、ペンダントが無ければ――。




 私は部屋中を探したが、どこにも見つからなかった。


 ――もしかして、ドレスやアクセサリーと一緒に、誰かが持ち去ってしまったのだろうか?






 ――ううん。


 人を疑うのは、良くないことだわ。


 きっと、何かの手違いで荷物を置き間違えられているのだろう。


 そう、思うしかなかった。






 その時だった。


 ガタガタガタッ――


 激しく部屋が揺れる。


「――マリー、何かしら――」


 ――部屋全体がますます揺れだす。


「――地震か何かでしょうか?」


 マリーはろうそくの火を消した。暗くなった部屋は揺れ続け、――そしてドアの向こうで爆発が起こる。




「アリシア様!」


 マリーが爆風から私をかばうように、私の前に躍り出る。




「――アリシア、大丈夫かっ!?」


 その声は、爆風の向こう側から聞こえてきた。


 ――その声を、私は知っている。私はマリーの手を振り払って、声のするほうに駆け出した。




「アーク!!」

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