思い出
「ねえ」
「ん?どした?」
「私たち10年後どうしてるかな?」
彼女は嬉しそうに、でもどこか悲しそうに僕にそう言った。
「どうしてるって、そんなのまだ分かんないけどさ。多分一緒にいるんじゃない?」
「そっか。一緒に何やってるかな?」
「うーん、今みたいなこと話してるかもね」
僕がそう言うと、彼女は少し笑って
「そうなるといいなぁ」
とため息混じりに言った。
ほんの2年前の思い出。
もちろん、僕がこんなことを思い出しているということは、彼女は"僕の"彼女ではなくなっているということ。
失恋した時はあれこれ別れたワケを考えるものだが、僕にとってのワケはこんな日常の会話だった。
ひょっとするとあの時彼女は、僕との未来を真剣に考えてくれていたのではないだろうか。あんな彼女の不安そうな悲しい表情はあの時以外見たことがなかった。そんな真剣な彼女に僕は分からないなんて答えをした。
あの時の彼女の笑顔はきっと、僕への笑顔では無かったのだろう。彼女自身の未来の決断だったのだ。
あれから程なくして、僕は彼女と別れてしまった。学生から社会人になるまでずっと一緒だったからなのか、まだ家に帰ってくるような気がする。むしろ、付き合っている頃よりも愛してしまっているような気がする。
知り合いが教えてくれるのだが、彼女はもう別のパートナーがいるらしい。
「里美ちゃんなんか男の子といたよ」
「里美ちゃん、この間見た人と付き合ってるらしいよ」
「なんか指輪まで買ったらしくてさ」
「結婚するかもだって」
僕は嬉しい振りをして、その報告を毎回聞いていた。強がったせいで僕はますます苦しかった。
「ちょっともう、あいつのこと忘れたいかな」
この一言がどうしても言えなかった。
最初に話を聞いた時に言えばよかったのに、強がって平気なフリをした。
別に周りは強い自分を求めている訳でもないのに、僕は強い自分を求められていると勘違いしている。
自分でも気づいている。ずっと前から気づいている。
でも言えないのだ。
たった一言、少し口を開くだけでいいのに。
少し悲しい表情をすればいいのに。
夢の中で君を殺せたら San Zee @3Gsan
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