13 力の満ち欠け

「今の日向は、ただ『化』で少し身体能力が上がってるだけだ。そこに『強』で力を上乗せするイメージを持て」

「イメージ……?」

「そうだ。とにかく本気で来てみろ」

 黎が、私を見つめる。獏に対峙していた時の、ぎらぎらとした眼差しだ。呼吸、筋肉、すべての動きが見透かされている気がする。

 

 少しずつ間合いをはかりながら黎に近づく。いきなりイメージを持てと言われても分からない。私は、昨日の黎の戦う姿を思い出しながら右脚を蹴り上げた。が、その蹴りが届くことはなかった。目の前にいた黎が、ふっと霞んだからだ。確かにそこにいたはずで、蹴りは確かに腹に入ったように思えたのに、その感触はない。

「えっ?」

 視界の左端に、青い閃光が見えた。

「ちゃんと見てたか?」

 次の瞬間、黎はやはりすぐ目の前にいた。そして、その右手は私の首筋に振り下ろされようというところで止まっている。

「見てたけど、見えなかった」

 私は正直に答えた。昨日の獏と黎の戦いは、素早すぎて目で追えないのだと思っていた。違う、見えなかったのだ。


「それが俺の力の引き出し方だ。」

 黎が右手を下ろす。実践ならば死んでいたかもしれないと思うと、首筋に寒気が走った。

「……どういうこと?」

「俺は、月の満ち欠けをイメージして石の力を利用してるんだ」

 黎が言うには、月が光を反射するように、石の力を自分が反射するイメージを常に持っているらしい。今の手刀は三日月のように鋭く。そして、はじめ消えたように見えたのが新月。新月は、自分の姿さえ石の裏に隠すような感覚。昨日、紫煙の夢境を消し飛ばし登場したときは、満月。

「夢境に囚われると普通の人は動けなくなるように、俺たちも力が落ちる。だから、満月のように明るく照らす意識をもって、外から攻撃すんだ」

「私もその満ち欠けのイメージで戦えばいいってこと?」

「いや、日向も、自分なりに力を引き出すイメージを確立させなきゃなんねえ。親父は、うちの池の海水の流れと、池に映る月の姿をイメージしてたらしいしな。親父の感覚は俺には分かんねえけど」


 黎は、私が自分なりの『強』の感覚を掴めるまで付き合うと言ってくれた。私はひたすらに黎に向かい続けた。加減しながらも黎は時折私に攻撃を浴びせる。攻める、守る、攻める、守る。その繰り返しに何時間を費やしただろうか。

 次第に、黎の身体に常に『強』の力が漲っているのが見えるようになってきた。今までは三日月の青白い閃光しか見えなかったのに、すべての『強』の動きが手に取るようにわかる。青い光は、黎の身体を包み込みながら月の満ち欠けのように形を変えている。まだ対応はできないが、次にどんな動きが来るのか予測はできる。


 私の日長石は、初めて『香月』と呼びかけた時、自発光するかのように内から輝いた。まるで、太陽が自ら燃えて光り輝くように。確か、太陽は原子同士がぶつかり合う時のエネルギーで燃えると中学で習ったような気がする。そんな、何かと何かのぶつかり合い。そうやって私も『強』を引き出せないだろうか。私の石の力と、何か、もう一つ。そうだ、相手の力を――


「少し休むか?」

「待って、今何か掴めそうなの」

「なら続けるぞ」

 黎の『強』が、大きくたわむのが見えた。

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