翌日、七瀬は一限から真面目に授業に出て行った。きっちり章吾の分の代返もしてくれるのだろう。

 章吾は一人の部屋で、ベッドから起き上がれずにごろごろと転げていた。

 謝り方が分からなかった。

 女とホテルに行ったけど勃たなかった。

 そこまでは事実だ。

 だけどその勃たなかった理由を、七瀬が好きだからと言ってしまえば嘘になる。

 今日の講義は三限までだ。七瀬が帰る前に、答えを出しておかなくてはならなかった。

 ベッドの中で丸くなったまま、章吾は少し眠っていたらしい。玄関のドアが開く音で目を覚ました。

 七瀬だ。

 静かに寝室のドアが開き、七瀬の白い顔が覗く。

 「具合は?」

 ぽつりと問う、不機嫌な声。

 「……悪いよ。」

 大丈夫? と、七瀬がベッドの傍らまでやってきた。こういえば七瀬が寄って来ると、章吾には分かっていたのだ。

 「バファリン飲む?」

 問いかけながら章吾の顔を覗き込んだ七瀬の腕を、章吾が掴んだ。

 「え?」

 戸惑ったような七瀬の声。構わずその身体をべッドに引きずり込んだ。

 「やめてよ。そんな気分じゃない。」

 暴れる七瀬を力ずくで抑え込む。泣かれたらどうしよう、と、ちらりと頭に過ぎった。章吾は七瀬の泣き顔に弱い。

 「やめて。」

 やめてよ、と繰り返しながら暴れていた腕は、いつの間にか章吾の背中をきつく抱いていた。

 セックスしたら罪が許されるわけではない。分かっているけれど、この二人暮らしを継続させるために章吾ができることは、セックスくらいしかなかった。

 荒い息を吐く七瀬の唇をふさぎ、シャツに手を突っ込んで肌に触れる。

 このベッドで何度も繰り返されてきた行為だった。

 「……章吾に触られたら、俺が何がなんだか分かんなくなるからだろ。」

 ひくひくとしゃくり上げるように喉を鳴らしながら、七瀬が章吾をなじった。

 「……俺が今七瀬とセックスしたいからだよ。」

 うそ、と七瀬が呟いた。

 嘘か本当かなんて、章吾自身にももう分からなかった。

 七瀬が顔を背けていたのは最初の何分間だけで、それが終わると彼はいつものように章吾にキスをねだった。

 体中の粘膜を繋げること。ただの粘膜接触なのに、それでなにかを分かった気になって、許したり許されたりするのはなんだか滑稽な気がした。

 それでも自分たちにはそれしかない。言葉を重ねたら、きっととんでもない齟齬が生じて、もう二人では暮らせなくなる。

 それは、嫌だった。

 男の七瀬を受け入れきれていないくせに、それはどうしても嫌だったのだ。





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