随分長い間、二人はそうして抱き合っていた。

 払いのけるべきなのかも知れない、との考えが、章吾の頭に何度もよぎったのは事実だった。

 応じられない思いなら、払いのけるほうが優しさなのかも知れない。

 それでも章吾はそうしなかった。できなかったのだ。幼稚園以来の幼馴染が、はっきりと目に見える形で傷ついて縋り付いてきている。

 払いのけられるはずがなかった。

 「章吾が俺を好きじゃないのは分かってる。」

 涙混じりの熱い息を吐きながら、七瀬が言った。

 「……好きだよ。」

章吾はそう答えた。

 嘘ではなかった。大事な幼馴染、という意味においては。

 七瀬が求めている意味はそうではないと分かっていた。

 分かっていて、それ以外に答えようがなかった。

 嘘、と、七瀬が泣きながら笑った。

 章吾の胸に顔を埋めたまま、手探りで七瀬は章吾の頬を両手でくるんだ。

 「嘘つきの顔、してるね。」

 ふふ、と笑う七瀬の息が熱い。

 その熱が章吾からまともな思考回路奪っていく。

 「嘘じゃない。」

 また栓のない言い合いが始まりそうな空気がした。

 その空気ごと奪うように、章吾は七瀬に口づけていた。

 顎を無理やり持ち上げられた形のまま、七瀬は硬直していた。

 首を傾げるような形で七瀬の唇を塞いだ章吾は、内心で自分の行動に驚き、次のアクションを起こせなくなってしまった。

 だから、それは随分と長い口づけになった。

 七瀬の熱が、口移しで章吾に伝染る。

 七瀬の唇が、なんで、と動いたが声にはならなかった。だから章吾は、それに気が付かないふりをした。

 なんでかなんて、自分でも分からなかった。

 ゆっくりと唇を離し、目と目を見つめ合う。

 章吾は七瀬の目の中に、彼の痛みを探していた。

 七瀬は章吾の目の中に、多分、彼の正気を探っていたのだろう。

 そして所詮目を見つめ合ったところで、痛みも正気も見つけられなかった二人は、それ以外にどうしようもなくてベッドに転がり込んでいた。

 そのままベッドの中でただ抱き合っていられなかったのは、15歳という年齢のせいだったのだろう。

 もっと幼ければセックスなんて言葉も知らなかったし、もっと歳を重ねていれば、性欲を抑え込むことも容易かっただろう。

 ただ、その時二人は15歳だった。

 章吾にとっては、はじめてのセックスではなかった。その時付き合っていた同級生と、初体験を済ませていた。

 けれど、男とのそれはもちろんはじめてであったし、何分相手は幼稚園時代からの幼馴染だった。








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