3
随分長い間、二人はそうして抱き合っていた。
払いのけるべきなのかも知れない、との考えが、章吾の頭に何度もよぎったのは事実だった。
応じられない思いなら、払いのけるほうが優しさなのかも知れない。
それでも章吾はそうしなかった。できなかったのだ。幼稚園以来の幼馴染が、はっきりと目に見える形で傷ついて縋り付いてきている。
払いのけられるはずがなかった。
「章吾が俺を好きじゃないのは分かってる。」
涙混じりの熱い息を吐きながら、七瀬が言った。
「……好きだよ。」
章吾はそう答えた。
嘘ではなかった。大事な幼馴染、という意味においては。
七瀬が求めている意味はそうではないと分かっていた。
分かっていて、それ以外に答えようがなかった。
嘘、と、七瀬が泣きながら笑った。
章吾の胸に顔を埋めたまま、手探りで七瀬は章吾の頬を両手でくるんだ。
「嘘つきの顔、してるね。」
ふふ、と笑う七瀬の息が熱い。
その熱が章吾からまともな思考回路奪っていく。
「嘘じゃない。」
また栓のない言い合いが始まりそうな空気がした。
その空気ごと奪うように、章吾は七瀬に口づけていた。
顎を無理やり持ち上げられた形のまま、七瀬は硬直していた。
首を傾げるような形で七瀬の唇を塞いだ章吾は、内心で自分の行動に驚き、次のアクションを起こせなくなってしまった。
だから、それは随分と長い口づけになった。
七瀬の熱が、口移しで章吾に伝染る。
七瀬の唇が、なんで、と動いたが声にはならなかった。だから章吾は、それに気が付かないふりをした。
なんでかなんて、自分でも分からなかった。
ゆっくりと唇を離し、目と目を見つめ合う。
章吾は七瀬の目の中に、彼の痛みを探していた。
七瀬は章吾の目の中に、多分、彼の正気を探っていたのだろう。
そして所詮目を見つめ合ったところで、痛みも正気も見つけられなかった二人は、それ以外にどうしようもなくてベッドに転がり込んでいた。
そのままベッドの中でただ抱き合っていられなかったのは、15歳という年齢のせいだったのだろう。
もっと幼ければセックスなんて言葉も知らなかったし、もっと歳を重ねていれば、性欲を抑え込むことも容易かっただろう。
ただ、その時二人は15歳だった。
章吾にとっては、はじめてのセックスではなかった。その時付き合っていた同級生と、初体験を済ませていた。
けれど、男とのそれはもちろんはじめてであったし、何分相手は幼稚園時代からの幼馴染だった。
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