第二話 コンビニ



「それがリプ欄眺めてたら知ってるっぽい人がその連中の事を〈黒典教〉って呼んでたっす」

「り、リプラン? コクテンキョウ? さっきの太陽の黒点の事か?」

 聞き慣れない単語に首を傾げているとスマホを見たままククリは口を開いた。

「リプ欄ってのはまぁ……誰でもコメントが出来る伝言板みたいもんす。それはどうでもいいんすけど、コクテンキョウは字で書くと『黒い辞典の教え』でコクテンキョウみたいっすね」

 もうすっかり慣れたと言わんばかりにネット知識皆無のあたしの質問を軽く流すと、ククリは色々なアイコンと読み慣れない語調の文面が延々と連なっている画面を目の前に示した。その中からククリの言っていた〈黒典教〉の文字を何個か見つける。この画面の見方はよく分からないが、綴られている文言は何やら不穏な内容だ。幾つか抜粋するとこの様な事が記されていた。

『最近増えたよな〈黒典教〉』

『勧誘に来たの無視してたら二時間も玄関の前にいて怖いから警察呼ぶ羽目になったぞ』

『この間の工場の火災の時、この映像に似た服装のヤツがいたらしい』

 ……とにかくマトモではない集団である事は分かった。怪しいからと言って工場火災と紐付けるのはどうかと思うが、街中での不審な行動の動画を観るとそれもなくは無い気がしてしまう。

「さっきも聞いたけど太陽の黒点と黒典教に何の関係があるんだ?」

 互いに名称が近しいくらいしか共通点が見えてこないけどな。そこにどんな因果関係があるのかは気になる所だ。

 そんな風に考えていると、ククリの口から衝撃の答えが返ってきた。

「いや、なんか名前が似てるなーって思って」

 なんの悪びれる様子もなくククリはそう言った。真剣に考えを巡らせていたあたしが馬鹿みたいじゃないか。一体この時間はなんだったんだという怒りがふつふつと湧いてきて、次の瞬間にあたしは吼えていた。

「ばッッか野郎。はぁ〜、マジメに聞いて損した」

 衝動的に怒鳴りつけて、カウンターの上の煙草のケースを手に取って乱暴にケースを振るった。しかし煙草の吸い口が頭を出さず、何度か振るってようやく空だという事に気付いた。

「あークソ」

 呟いて空箱を投げ捨て、やり場の失った喫煙欲を頭を掻いて誤魔化す。すぐに脳内はコンビニに行かなければならないという使命感と義務感に支配される。これがヤニを吸ってしまった人類の罪深さなのだ。我ながら頭では分かっていても、この感覚には抗えない。

「ちょっとコンビニ行ってくるわ。店番よろしく」

「あ。コンビニ行くなら私も行きたいんすけど」

「いや店番してろよ」

「誰も来ないんだから良くないっすか?」

「おい! 舐めやがって……! はぁ、もういいや」

 ククリに言う事を聞かせるよりこっちの方が折れた方が話は早い。どうせコンビニ行って帰ってくるまで二十分もかからないだろうし。


 そうして二人でコンビニに行って事務所の前まで戻ってくると、出る時には明かりを消したはずの事務所から明かりが漏れていた。

「あれ? 電気消したよな」

「消したはずっすよ」

 

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