6.資金集め
アイは、自分の部屋で、窓をぼんやり眺めていた。
そして、風神で切った手の平の傷を見て、もう治っていると溜息。
「寒くなって来たわね」
と、鳥籠の中で、ピィピィ鳴くピッピに呟く。
トントンっとノックが鳴り、ジャスパーが紅茶を持って現れる。
「アイ姫、お茶の時間っすよ」
「そこ置いといて」
「あれから、ぼんやりし過ぎじゃないっすか? ここ最近、ヴァイオリンも弾いてないみたいっすね。部屋にいるんだから、ヴァイオリンでも弾けばいいのに」
「なんか日常に戻っちゃって、気が抜けちゃった。何にもやる気でないの」
「・・・・・・エンジェライト王に言わなくていいんっすか? エンドラフィの事」
「うん。だって、エンドラフィはこれからって時でしょ? アイが余計な口出しして、台無しになったら嫌だし、それにパパも忙しそうだし」
「王は資金集めが大変みたいっす」
「へぇ、おにいちゃんの婚約者のユエさんだっけ? あの人の国が潰れちゃってるとか聞いたけど、それを立て直す資金がないって事?」
「そうみたいっす、とりあえず月天子帝国っつうのがあるらしく、まだちゃんと出来上がってはないらしいけど、潰れた城よりはいいとかで、そこをリーフェルの拠点にするみたいっすよ。でもその帝国はまだ未完成だから、完成させるにも金が必要みたいっす。しかもあのエリアは貧民が多いっすからね、全ての貧民を助けるには、相当の金を要するでしょうし、ちょっとやそっとの資金や募金活動じゃあ、意味がないでしょうね」
「へぇ」
「エンジェライトはまだまだ王が現役っすから、とりあえず、タイガ王子が、リーフェルへ行き、ユエ姫様と、リーフェルを立て直すとか」
「へぇ」
「その内、タイガ王子にも子が出来て、その子がリーフェルを継ぐのかもしれないっすね、そしてタイガ王子はエンジェライトの王に、アイ姫はスノーフレークの王女として、18歳になったら、即位式を行うんでしょうね」
「でしょうね」
と、アイは、頬杖しながら、窓の外を見つめ、ぼんやりしたまま、頷いている。
風が雪を横に吹かせて行き、
「吹雪いてきましたね」
と、ジャスパーも窓の外を覗き込む。
「風を見ると思い出すね、アイツの矢が飛んで行くトコとか・・・・・・」
そう言うと、アイは何か閃いたらしく、突然、ジャスパーを突き飛ばし、部屋から出て行った。
「アイ姫ぇ! 怒られますよ、謹慎解けてないっしょー!? 俺、もう知らないからね!」
と、ジャスパーは持って来た紅茶をゴクゴク飲み干し、アイが座っていた椅子に座る。
アイは、あちこちの扉を開けて、王を探し、会議室の扉をバンッと開けると、そこにいた王に、
「パパ、話があるの!」
そう叫んだ。
「お主、何をしておるのじゃ、部屋から出るなと言うたじゃろう!」
「もう一週間も出てないわ! 充分でしょ!」
「じゅ!? 充分じゃと!?」
そこには、王だけでなく、コーラルやタイガ、それからユエ、カラスなどもいた。
アイはコーラルの腕を持ち、
「パパがしつこいの、アイ、もう充分、反省したのに!」
と、甘えるから、
「おい、許してやれ。もういいだろ。しかもあのブタと一緒の旅だったなんて、考えただけで、可哀想で、罰など必要ないだろう」
などと、コーラルが言うので、王は、顔を引き攣らせ、
「間違っておるじゃろう、アイ! お主が甘える相手はわしじゃろうが!」
と、怒鳴り出すが、その意見もどうなのよと、タイガは苦笑い。
「ていうか、あれだけの騒動起こしたのに、2週間、部屋から出るなってだけの罰が甘すぎだよ、ボクだったら、2週間、雪の中にいろって言われてそう」
タイガが、不貞腐れた顔でそう言うと、王とコーラルが、
「お主なら勘当され、雪山で一ヶ月の自給自足の独り生活じゃろう」
「お前なら勘当され、雪山で一ヶ月の自給自足の独り生活だ」
と、声を合わせ、言い放ち、タイガは、
「聞いた!? ねぇ聞いた!? 今の!!」
と、王とコーラルを指差しながら、カラスに言うが、カラスは苦笑いしかできない。
「ねぇ、聞いてコーラルさん」
「どうしたの?」
「あのね、アイ、とってもいい案があるの、資金集めの!」
「へぇ、どんな?」
何故コーラルに話すのかと、王は、泣きそうになる。
「お祭りをするの、只のお祭りじゃないわ、狩り大会! あのね、国から一人、代表者を出して、その代表者が、狩りをして、一番大きな獲物を仕留めた国が優勝なの、みんなが仕留めた獲物は、集まってくれた人達に料理として出せば、お金はかからないけど、充分なお持て成しになるわ、代表者が凄い獲物を捕らえれば、我が国が一番であるという所を人々にアピールできるし、人々も自分が住んでいる国が一番だって応援しやすいわ、戦じゃないから」
アイがそう話すと、コーラルは、
「・・・・・・面白いな」
そう呟き、王も、考えながら、頷くと、
「しかし優勝者には何を用意するのじゃ? それ相当のものでないと、誰も大会に出場せんじゃろう?」
と、腕を組む。
「そんなのメダルでいいのよ、ほら、騎士達の中でも一番偉い隊長さんとか付けてるような勲章メダル。お金はかかってないけど、お金では買えないもの。この大会を一年に一度、行えば、資金がたくさん集まるわ、人が集まれば、お金が動くんだから。それに、優勝した国は、一気に知名度が上がり、優勝した年は、きっと、多くの人が、その国を知ろうと、その国に訪れると思うの、そしたらエンジェライトだけじゃなく、頑張って優勝した国にも資金は入るわよね、そう考えると、多くの国が出場してくれるんじゃないかしら?」
王とコーラルは二人見合い、頷くと、
「その案で行くか」
と、二人、言葉を揃え、そう言った。
「タイガさんの妹さん、シッカリしてて、凄いわね」
ユエがカラスに耳打ちし、カラスも頷きながら、
「タイガ、お前、負けてんぞ」
と、タイガに耳打ち。
タイガはアイを、アイはタイガを見て、お互い、ベェッと舌を出す。
「アイの案で、もっと細かく練り直そう、ルールも決めねばなるまい。狩りの場所は雪解け山が良いな」
と、王が言うので、アイは、その山はピッピがいた山だと思う。
雪解け山は、エンジェライトより南の方角にあり、気候はエンジェライトエリアにありながら、しかも山という場所でありながらも、割かし暖かく、晴れた日は、雪が溶けて、小川が流れ、春のような陽気の時もあり、動物達もたくさんいる。
「アイちゃん、狩りなんて、よく思いついたね」
と、コーラルがアイの頭を撫でると、アイは嬉しそうに、えへへと笑う。
そして、二日後には、祭りの出場者を招く為に、各国へ招待状を出す事が決まった。
「獲物は鳥類だけで、弓と矢を使う。矢は3本までじゃが、一羽、射抜いたら、それが小さかろうが、大きかろうが、提出する獲物とする。3本の矢を全て使っても獲物が獲れん場合は提出なしと言う事じゃ。そうすれば、無闇やたらに動物を殺さず済むじゃろうし、鳥類に絞る事で、無理に大きな獲物を狙わずに済み、女性も参加できよう。そうじゃ、鳥類は珍しいものがおるからな、大きさだけでなく、珍しい獲物を捕らえた者にも優勝するチャンスがあるとしよう、それならば力だけでなく、運も必要とされるしな。集まった人々をあっと驚かせる獲物、それが良いな。多くの大衆もその方が楽しみが増えるじゃろう」
王が言う事をハイハイと頷きながら、ジャスパーがメモする。
タイガとアイは、ジャスパーが書いているメモをジッと見ている。
「所でジャスパー、お主、この大会に出てみぬか?」
「は?」
「祭りの一環じゃ、楽しんでやれば良い」
「無理っすよ、王子が出ればいいじゃないっすか」
と、ジャスパーはタイガを見る。
「タイガを出す訳いかんじゃろう、タイガが出れば、反則で勝ってしまうようなもんじゃしな」
王がそう言うと、タイガもコクコク頷いたその時、ドアが開き、
「そんな心配は必要ないだろ、なんせフェルドスパーの代表者はこの僕だから」
と、コーラル。嘘だろと、ゲッと声を出すタイガ。
そしてコーラルの横に立つアスベストが、
「スノーフレークの代表は私ですよ」
と、ニッコリ微笑み、タイガはゲゲッと声を出し、アスベストの背後からは、ユエが、
「リーフェルも出場しますわ、代表者はカラスです」
などと言うから、タイガはゲゲゲッと声を出し、嫌な顔。
「アスベスト、お主、何故スノーフレークの代表に? ルチル殿ではないのか?」
王が尋ねると、
「ルチルさんは、ベリル王国の代表者として出場する為、一旦、ベリルへ帰りました、勿論、大会が終わればスノーフレークに戻ってきます」
そう言うから、タイガは更にゲゲゲゲッと声を出し、冗談でしょっと泣きそうな顔。
「そうか、そういう面子ならば、こちらもタイガを出さねばなるまい」
そう言って、優しい表情を浮かべる王に、タイガは嫌な予感。
「そういう事だから、うちには招待状なんていらないぞ、参加でいいからな」
と、コーラルが言うと、アスベストもユエも頷いた。
「楽しくなりそうじゃな、そうじゃ、お主等、向こうでマーブルが淹れたお茶でも飲んでくると良かろう、ジャスパー、マーブルにお茶の用意をと——」
と、王はそう言うと、優しい笑顔で、ジャスパーを部屋から追い出し、コーラルとアスベストとユエも、部屋から追い出した。
ドアがバタンと閉まると同時に、
「タイガ、お主、あの連中に負けたら、どうなるか、わかっておるな?」
と、急に怖い顔をタイガに向ける王。タイガはゴクリと喉を鳴らし、コクコク頷く。
「良いか、なんとしても絶対に勝つのじゃ、弓と矢の特訓を始めるぞ」
コクコク頷きっぱなしのタイガ。
アイは、真剣な王に、溜息を吐きながら、
「祭りの一環が聞いて呆れちゃう」
と、呟く。
だが、それも仕方ないかと、アイは思う。
コーラルにアスベスト、ルチルに、カラスなど、世界各国の代表者が競っても、この4人が上位に上がる確立が高い。
エンジェライトは下手すれば5位になってしまうだろう。
3位以内なら兎も角、5位など、中途半端な順位をつけられたら、祭りを開いた張本人が笑い者だ。
しかも、代表者が代表者なだけに、こちらはジャスパーを大会に出場させ、他の国に優勝を渡すという楽観的な遊びと見れなくなってしまった。
タイガは荷が重いと泣きそう。
アイは、そんなタイガを励まそうとするが、
「でもさ、1位になったら、ユエさんが喜んでくれるんじゃない? 見てて思うんだけど、おにいちゃんよりカラスさんの方が愛され度高いと思うんだよね、ここでカッコイイとこ見せとかなきゃヤバくない? あ、でも、カラスさんが負けたら、リーフェルは負けになって、ユエさんの負けになる訳だ? でもカラスさんが勝ったら、おにいちゃんはユエさんに、自分の護衛より頼りない人に付いて行けないわって思われちゃう訳だ」
そんな事を言い出し、どうすりゃいいんだと、タイガは頭を抱える。
「でもさぁ、ほら、所詮、おにいちゃんって、レオン叔父さんやコーラルさんの二番煎じだし、しかもパパの後釜だし、誰も期待してないから適当に頑張ればいいんじゃないの?」
結局、アイの台詞は励ましにならなくて、タイガは余計、泣きそう。
「まぁ、頑張ってよ、同じエンジェライトって事でアイはおにいちゃんを応援するから。この案を出したのはアイ、そして、頑張るのはおにいちゃん。なんて素晴らしい兄妹のコンビネーションなのかしら、このコンビネーションがうまくいかなかったら、誰のせいなんでしょう? アイじゃない事は確かね」
「・・・・・・アイちゃんさ、ボクにプレッシャーかけて楽しい?」
「うん」
「あ・・・・・・そうなんだ・・・・・・楽しんでるんだ・・・・・・態々ありがとう・・・・・・プレッシャーかけてくれて——」
「どういたしまして」
落ち込むタイガと、笑顔のアイ。
この二人、誰に似たんだかと、王は、苦笑い。
そして、また日は流れ、招待状が世界中の国へ送られた。
「アイ姫、エンドラフィへの招待状はなかったっすよ、王も知らないんすよ、エンドラフィが復活した事。俺も言ってないし。つーか、エンドラフィってまだ御伽噺で終わってる世の中ですからねぇ、話しても俺達の言う事、信じてくれるかどうか」
ジャスパーがそう言うと、アイは頷き、
「いいの、エンドラフィは大変な時期だろうから。こっちはこっちで資金集めが大変な時期でしょ? この祭りでリーフェルを立て直せるだけの資金が集まるのかしら」
今は資金問題で頭が一杯と言う態度と台詞だが、本当はエンドラフィが出場すれば、シンバに会えるかもしれないのになぁと思っていた。
そして、あれからエンドラフィはどうなったのかなぁと、そればかり考えていた。
地中の国のエンドラフィが人々に受け入れてもらえるように、何か考えでもあるのだろうか、皆が目覚めてから、いろいろと思う事もあり、若すぎる王に、混乱など招いてないだろうか、たくさんの財宝はあったが、あれだけで、あの大きな地中の王国の資金は足りたのだろうか、近辺となる他国との行き来は行ったのだろうか。
アイは部屋に戻ると、いつもピッピに、そんな話ばかりしていた。
「ねぇ、ピッピ、国を復活させるって大変・・・・・・誰かに助けてもらえわないと、身動きとれないし、幾らお金があっても、人がついてきてくれないと、意味がない。パパは結構凄いのかも。若い頃、たくさんの人の協力もあって、こんな素晴らしいエンジェライトを手にしたんだから・・・・・・大半、ママのおかげね、きっと——」
狩り大会を名目とした祭りは、順調に進められ、当日は快晴で、朝からたくさんの国の王と代表者となる者がエンジェライトに訪れた。
そして、各国の民達も我が国の応援をと、朝から城下町も大賑わい。
パンパンと花火が鳴り、小さな子供達は大はしゃぎ。
朝からエンジェライト王も妃も大忙し。
まずはエンジェライトへ来てくれた客人達への挨拶もあり、タイガはいつもよりキチンとしたプリンスコートを身に纏い、アイもいつもより素敵なプリンセスドレスを身に纏う。
「おにいちゃん、良かったね、大成功になりそうじゃない?」
「始まったばかりで、まだ成功するか、わからないよ」
「大丈夫よ、人が集まってくれれば、後は楽しめばいいだけなんだから」
「アイちゃんが機嫌損ねて、その笑顔を祭りが終わるまで絶やさなければいいけど」
「どうしてアイが機嫌損ねるのよ?」
「いっつもイベントあると夕方には疲れたとかシンドイとか言ってぐずぐず言うじゃん」
「子供の頃でしょ!」
「今もボクより子供でしょ」
「たったの3歳の差でしょ!」
「大きな差だよ! それに・・・・・・まだまだ小さいからね」
と、上からタイガの手が下りて来て、アイの頭を撫でるから、その手を弾き返した。
「女の子だもん、身長は低くてもいいのよ! ユエさんくらいに身長がなるのは、後ちょっとよ!」
「大きな差だよ! ちゃんとボクの言う事を聞くんだよ、ア・イ・ちゃん!」
と、タイガは勝ち誇った顔。
「うるさい! 年齢や身長の事言うなんてズルイんだから」
言いながら、アイは、これ全部、シンバに言って、言われた事だと思い出す。そして、
「もう勉強みてあげないから。間違いだらけでパパに提出して、叱られればいいんだわ」
と、言い放つと、スタスタと先に王の間へと行くので、タイガは焦って、
「ちょっ、待って、アイちゃん、嘘、嘘、嘘! 勉強みてくんないと困る!」
と、アイを追い駆ける。
二人が王の間に顔を出すと、王の座に座ったエンジェライト王の目の前には、それはもうたくさんの人が集まり、賑やかに過ごしていた。
エンジェライト王の隣にタイガと妃が座り、妃の隣にアイが座った時、ふと、会場となるこの場所に、緑色の髪が見え、アイは立ち上がり、その髪の者を見ようとするが、それがシンバなのか、人込みの中、全く見えない。
ジャスパーが、アイの傍に来て、
「アイツ、来てますよ」
と、耳打ち。
「え!? アイツって・・・・・・」
「エンドラフィの王!」
「だって招待状は出してないって」
「きっと風の声で祭りの事を聞いたんじゃないっすかね、招待状はあくまでもチラシみたいなものっす、参加は自由参加で、国の代表者として1名出るならば、どこの国だっていいんすから。でもこれでタイガ王子が優勝するのは、更に難しくなったぞ」
ジャスパーにそう言われ、そうかと、アイは目を輝かせ、益々、緑色の頭の者の顔を見ようと、背伸びすると、
「何しておるのじゃ、座りなさい」
と、エンジェライト王に言われ、仕方なく、椅子に座る。
王の方から、祭りの事を説明され、狩りについての話も続く中、アイは、緑色の髪の者を見たくて、でも、頭しか見えないから、向こうがこっちを向いているのか、わからなくて、手も振れないと、そわそわ。
そして、出場者は、一人一人、ここで武器を置いていく事になり、エンジェライトが用意した弓と3本の矢だけを持って、雪解け山に向かう。
道中はエンジェライトの騎士達の案内の元、山中も至る所に騎士達が待機しているとの事。
タイガは参加する為、動きやすい格好に着替え、弓と矢をもらう。
アイは、緑の髪の者を探そうと、人込みに入り、今、腕を掴まれ、振り向くと、ダイア王国のパールだった。
「なんだ、パールちゃんか」
「あら、誰と思ったの?」
「ほら、エンドラフィの王となった彼が来てるみたいなの」
「そうなの? 緑色の髪の人なんていたかしら? 気付かなかったわ」
「沢山の人が来てるからね、それよりパールちゃんも参加するの?」
「えぇ、この日の為に弓と矢の訓練を受けたわ、女王陛下から、せめて5本の指に入りなさいと命じられたけど、無理そうね」
「まだわからないよ、獲物は大きさだけじゃなく、珍しいものでもいいみたいだし、力とか関係なく、誰でも充分、優勝可能なルールだから。それより・・・・・・聞いてもいい?」
「なにかしら?」
「あの日の・・・・・・あの後・・・・・・エンドラフィが復活した後、パールちゃんは女王陛下に怒られたりした?」
「まぁね、でも、エンドラフィに戦う気がない事やまだ大きな動きがない事などで、少し様子見するみたい。とりあえずエンドレイクがある大陸からはダイアは手を引いたわ、だから、あそこはもうダイアの領域じゃなくなったの。こちらから仕掛けても負けてしまう戦いには、女王陛下は手を出さないのよ。でも、こっちにはまだ迷いの森の——」
と、そこまでパールが言うと、
「アイちゃん」
と、ユエが声をかけて来て、アイの腕を引っ張った。
「不審者がいるみたいよ、だからあっちでワタクシと一緒にいましょう」
小さな声で、そう言うから、不審者って、もしかしてシンバの事!?と、アイは思う。
皆、弓と矢を持ち、雪解け山へと向かい、余裕で残っているのは、フェルドスパーのコーラルと、スノーフレークのアスベスト、リーフェルのカラス、ベリルのルチル、勿論、エンジェライトのタイガだけとなり、アイは、シンバはもう行っちゃったのかなぁと溜息。
コーラルとアスベストは、一本一本、矢を手にとっては、質を確認している。
カラスとルチルは弓の具合を調整している。
城下町からタイガの友達がたくさん来て、タイガと話を始める。
「タイガ、負けるなよ!」
「うん」
「大丈夫だよ、タイガならダントツだって!」
「それはどうかな、結構、厳しい」
「えぇ!? タイガが厳しいってどんなだよ!」
「でも頑張るよ、頑張らないと、お父さんに殺されるかも」
「うへぇ、やっぱ厳しいんだ、お前の父ちゃん!?」
男の子達がタイガを囲み、そんな話をしてると、
「タイガくん」
と、町の女の子達が、男の子を掻き分け、タイガの前に出た。
「頑張ってね、これ、作ったの、良かったら食べて」
と、可愛い包装紙に包まれた焼き菓子を差し出され、タイガはニッコリ笑い、
「ありがとう」
と、受け取るから、女の子達はきゃあきゃあと、タイガを囲んで、騒ぎ出す。
男の子達は、舌打ちし、
「こういう時のタイガってムカツクんだよなぁ」
と、ぼやく。
「おにいさん、大人気ね、女の子にモテモテで、嬉しそう」
と、にこやかに言うユエに、
「ヤキモチ妬いてあげて下さい。その方が喜びますよ」
と、大人びた口調で、アイが言うから、ユエは、思わず、ハイッと頷く。
「ねぇ、ユエさん、そんな事より、不審者って?」
「え? あぁ、なんかね、緑色の髪をした少年がいたらしいの、それで騎士達が警戒してるのよ、アイちゃんも危ないから、王の傍にいた方が——」
「本当に来てるんだわ!」
と、アイは走り出し、そのアイの背にユエが呼び止めるが、アイは止まらず、自分の部屋に駆け込んだ。
そして、ピッピを籠から出し、
「聞いて、ピッピ、アイツが来てるのよ、狩りを終えたら帰って来るわ、そしたら、ピッピの事、紹介しなくちゃ!」
と、部屋の中、飛び回るピッピに、アイが話しかけていると、アイの部屋を掃除しようとやって来たメイドがノックもせず、扉を開けてしまい、ピッピが逃げ出した。
「ピッピ!」
「も、申し訳御座いません、皆様、王の間に移動しておられると思っていましたので」
と、申し訳なさそうに頭を下げるメイドを無視して、アイは、ピッピを追い駆ける。
だが、この部屋に続く通路は、メイドが掃除の為、大きな窓が開いていた。
ピッピはそこから大空へ向かって飛んでいってしまった。
「ピッピー!!!!!」
アイの呼ぶ声に、振り向く事もなく、飛んでいき、空の彼方、見えなくなるピッピ。
もう傷も治り、本当は自然に返してやらなければならなかった。
ピッピもそれを望んでいたのかもしれない。
だが、アイはピッピを手放せなかった。
もしかしたら、大きな鳥に襲われてしまうかも。
もしかしたら、また怪我をしてしまうかも。
もしかしたら、ちゃんと餌がとれないかも。
いろんな不安が、ピッピを縛り付けていた。
それに何より、ピッピは一番の友達だった。だが、振り向いてさえくれなかったピッピに、そう思っていたのは、自分だけなのかと、アイは悲しくなる。
そして、俯いた途端、涙がボロボロと零れ落ちた。
泣きながら、凄い顔で、部屋に戻り、メイドに掃除はいいと言うと、ドアを閉めて、ベッドの中に転がり込んだ。
メイドは、王と妃に、アイが部屋に入ってしまったと告げ、妃であるマーブルは、アイの部屋を訪れた。
「アイちゃん、話は聞きましたよ、でも、そろそろ帰してあげないといけなかったでしょう? 小さな籠の中、その方が可哀想だったかもしれないわ」
「ママ・・・・・・でもね、今日は駄目だよ」
と、アイは涙をボロボロ落とし、
「どうしよう、雪解け山にピッピが戻ってたら。みんなの獲物になっちゃう」
そう言うと、ワァッと泣き出し、マーブル妃は、困った顔で、
「大丈夫よ、ほら、ピッピは小さいし、珍しい野鳥でもないし、誰も狙わないわ」
そう言うが、そんなのわからないと、アイは泣き続ける。
「ほらほら、泣き止まないと、皆さんが戻って来た時、折角のアイちゃんの可愛いお顔が台無しよ、それに、そんな顔してるとコーラル王子とアスベストさんが、物凄く心配してしまうでしょう? またパパが二人に怒られちゃうわ、アイちゃんに何かしたのかってね」
グスッと鼻を鳴らし、頷くアイだが、涙はそう簡単に止まってはくれない。
「明日、お祭りも終わって、一段落したら、一緒に捜しに行きましょう、ね?」
アイは頷きながら、涙を拭くが、直ぐに涙は溢れてくる。
「ねぇ、ママ、教えて」
「なぁに?」
「ピッピが喋ったら、アイの事、友達って言うかな」
「勿論」
「ホント?」
「アイちゃんが友達と思ってるなら、向こうだって思ってるわ。アイちゃんがママダイスキって思ってるから、ママだってアイちゃんダイスキって思うのと同じよ」
アイは笑顔で頷き、マーブルに抱き付く。
「さぁ、顔を洗ってらっしゃい」
アイはマーブルに言われた通り、顔を洗ったが、真っ赤な目は腫れてしまい、鼻の頭も赤くて、ブサイクな顔になってしまった。
こんな顔で、人前に出るの嫌だなぁとは思うが、それでも出なければと、王の間へ戻る。
「そろそろ誰か戻って来る頃じゃろ」
王は、アイの泣き腫らした顔については、何も聞かず、そう言った。
アイは頷き、自分の席に座る。
各国の王達も同席の中、次々と代表者が戻ってきて、捕らえた獲物を王達に差し出し、騎士が獲物の大きさを量り、記録していく。
捕らえられた獲物は早速、厨房へと運ばれ、今夜の宴の準備で、料理長は大忙し。
エンジェライトの民達の女性達は料理長の手伝いをし、マーブルが厨房を覗くと、今日はいいからと、追い出され、マーブルは王の隣の席に戻る。
アイは、獲物が運ばれる度に、ピッピじゃないかと、ドキドキしている。
タイガはまだ戻らない。
「ねぇ、パパ、不審者がいたって聞いたけど」
「あぁ、わしも聞いたが、髪が緑であると言うだけで、別に不審な動きはないようじゃ」
「・・・・・・緑の髪って聞いて、何か思い出さない?」
そう聞いたアイに、王は、アイを見て、
「何かとは?」
そう聞き返す。
「だって、緑の髪なんて人間、いないじゃない? ほら、知らない? 御伽噺や神話に出てくる風の民の話。まるでソレじゃない?」
「そうじゃな」
と、王はそれだけ言うと、特に興味もなさそう。
溜息を吐き、アイは、運ばれてくる獲物を見る。
よく知っている代表者の中で、最初に戻って来たのはアスベスト。
次にルチル、そしてコーラルとカラス。
皆、大きな鳥を抱え、持って来た。
アイはピッピがいなくて、ホッとする。
知人の中で、ピッピを獲物として捕らえていたら、怒れないような気がするからだ。
無論、怒る怒らないという話ではなくなるだろうが。
「おにいちゃん、遅いね」
言いながら、アイは溜息を吐いて、俯く。
心なしか、ポニーテイルの大きなピンクのリボンも、アイの感情に合わせたように、しんなりしているように見える。
コーラルやアスベストは、アイが、元気がない様子なので、少し心配そう。
しかも泣き腫らした顔が、気になり、ルチルにも、どうしたのだろうかと、話をしている。
それに気付いた王が、アイを見るが、確かに仏頂面で、このまま、ここに座らせておくのも良くないかと、部屋に戻っていなさいと言おうとした時、タイガが戻って来た。
それは大きな鳥で、皆が、どよめき、ダントツの記録を出した。
タイガはニコニコの笑顔で、コーラルやアスベスト、ルチル、カラスに、ピースして見せ、これで王に怒られなくて済むと一安心して、ふと、王を見て、その横に座っているアイの仏頂面に気付き、
「うわっ、また機嫌悪いの、うちの姫」
と、カラスに耳打ちで尋ねる。
「ユエ姫様の話では飼っていた鳥が逃げたとか」
「ピッピが? そりゃ仕方ないよ、そろそろ自然に帰した方が良かったんだし、窮屈だったんだよ、ピッピも」
「だが、不安なんじゃないか? 今日は狩り大会。自分が提案した事だが、もしも可愛がっていた鳥を、誰かが射止めていたら、そう思うと、悲しいんだろう」
「そうだろうけど、いちいち泣き虫なんだよな、直ぐ泣くもん」
「お前が言うな」
と、カラスに突っ込まれるタイガ。
「だって、ボクがそれぐらいで、あんな顔で王族の席に座ってたら、お父さん、激怒りするよ、アレ、アイちゃんだから許されているようなもんだよ」
「お前もいちいち拗ねるな、くだらない事で」
「だってさぁ」
「兎も角、この祭りが成功して良かったじゃないか、この様子なら、多くの資金が手に入りそうだ、お前の妹の御蔭だよ、オレはお前の妹に感謝している。この祭りの提案者だからな。これでリーフェル復活に一歩近付けた訳だし。そういう意味でも、オレは、お前より、お前の妹を支持する。不貞腐れた顔で座られていても全然オッケー! アイ姫様万々歳!!」
と、カラスがそう言って、タイガがカラスを突き飛ばし、二人で笑っていると、突然、ざわついていた空間が、一気に静まり返り、タイガもカラスも何事かと、見ると、現れた代表者が、緑色の髪と瞳で、タイガもカラスも息を呑む。
「アイツ、山で見たけど、何者なんだ? 狩りをする様子もなかった」
カラスが呟き、
「獲物も持ってないしね」
と、タイガも呟く。
「着ている服も見慣れないな、なんだあの広い袖」
と、タイガの背後で、コーラルが呟いた。
「不思議なカラーの持ち主ですね、殺気などは全く感じませんけど」
と、コーラルの隣でアスベストが呟き、
「しかもまだ小さな少年よ」
と、ルチルも呟く。
また皆が、ざわざわし始める中、アイは、その少年をシンバだと、ジッと見ている。
シンバは、スタスタと王の前に行くのかと思いきや、アイの前に跪き、それにも皆、驚いたが、獲物もないのに、なんだろう?と、騎士達も、唖然と、不思議な色の髪と瞳のシンバを見ている。
そして、シンバはスッと手を差し出すように、上げると、袖から、ピィッと鳴く野鳥が出てきた。
それはピッピである。
生きたまま捕らえたのかと、また、皆が、驚くが、一番驚いているのは、ピッピをよく知っているアイと王、そして妃、タイガである。
「ピッピを生きたまま!? しかも生け捕りとかじゃなくて、まるで懐いてるみたいだよ!?」
と、タイガが驚きの余り、思わず、誰に言う訳でもないが、そう叫んだ。
緑色のふわふわの羽毛を纏った綺麗な野鳥。
だが、別に珍しい鳥と言う訳ではない。
シンバはアイを見て、ニッコリ笑い、
「帰りを待っていてくれる人がいるから、飛び出せる、そう言ったのはアイだよ」
と、今、ピッピが羽ばたき、アイの手に戻る。そして、
「友達を紹介したかったみたいだ」
などとシンバが言うから、アイはきょとんとした顔をすると、シンバの袖の中から、たくさんのピッピと同じ種である野鳥が飛び出した。
まるで手品のようで、皆が、おおおっと声を上げ、大拍手。
「ピッピの友達?」
「そうみたい。アイの事、紹介したいってさ。ねぇ、逃がしてあげなよ、ピッピは帰って来るよ、アイの手の中に」
シンバがそう言うと、アイはコクンと頷き、手を広げ、ピッピを放した。
城の中、鳥達が飛び、空を舞うかのよう。
王はパチパチと拍手をし、
「見事じゃ。お主、どこの国の代表者じゃ? アイとは知り合いなのか? ピッピも知っておるようじゃのう」
そう言うと、シンバは、王の方へ体を向かせ、ペコリと頭を下げると、
「この度は、盛大なお祭りの成功、心より、お喜び致します」
と、丁寧な挨拶をする。
「ですが、資金はまだ足りないのでは?」
そう聞いたシンバに、王は、少し考え、シンバをジッと見る。
シンバは目を逸らす事なく、王を見つめ、王は、その瞳に頷きながら、
「そうじゃな、足りぬ」
そう言った。
アイは、まだ足りないんだと、俯く。
折角の資金集め、少しの足しにはなっただろうけど、やはり、もっともっと多くの資金が必要で、国というものは大変なんだなと、アイは思う。
「どうでしょう、その必要資金、我が国が全額出すというのは——」
シンバの申し出に、王も、アイも、そこにいる全ての者が、驚いた。
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