7.1000年王国への条件
皆、驚きすぎて、言葉も出ず、静まり返る。
「お主、その必要資金が幾らかわかっての発言なのか?」
「勿論です、我が国はエンジェライトの1000年王国に賛同したく思っておりますから」
「あぁ、そうか、賛同国は、どこの国でも受け入れるが——」
「但し、条件が幾つかあります」
「そうじゃろうな、いいじゃろう、とりあえず、その条件を聞こうではないか」
「条件その1、迷いの森の解放」
「迷いの森? ダイアの騎士達が警備しておる森の事か?」
そう聞き返しながら、ダイアの者を目で探す王。
女王陛下は仕事があるのでと、この祭りに来ていない。
だが、代表者は来ていたなと、パールを見つけると、パールは強張った顔をして立っている。これは何かあるなと、
「その森を開放して、何があると言うのじゃ? 中に入ったら迷ってしまうじゃろう」
シンバに、そう尋ねた。
「開いて放つではなく、解いて放つ方の解放です」
「なに!?」
「森の中、今も尚、捕らわれの身になっている我が国の民達がいます、見ての通り、緑色の髪と瞳で、我が種族は人の目から見たら、見慣れぬ容姿に、怖いかもしれませんが、捕らわれている者達は罪を犯した訳ではありません、人に危害を加えるような者達でもありません。どうか、エンジェライト王、アナタの方からもダイア王国に願い出てもらえませんか!」
「・・・・・・そういう話ならば、同盟に賛同するしない関係なく、力を貸そう」
「本当ですか!」
「あぁ」
頷く王に、アイは嬉しくなって、俯いて微笑む。
「では、条件その2、我が国は、最近、復活しました。この容姿で気がついたと思われますが、我が国は神話に登場するエンドラフィです」
その台詞に、皆、驚きの声を上げる。
「お主はエンドラフィの者じゃと言うのか?」
「はい、エンドラフィの王をしております」
まだ小さな少年なのに王という地位なのかと、更に驚きの声が上がる。
「我が国には、多くの民が眠りから覚め、王の言葉を聞いてくれています。ですが、やはり、意見が食い違う事が多々あり、最も考えが纏まらないのが、人間に対して、この先、エンドラフィがどう接していくかと言う事です。神話でも御伽噺でも、ご存知の方はわかるでしょう、神の種族と言われた我等風の民と、人間達は相反するもの。ですが、人間を支配したり、戦を仕掛け、人間を全滅に追いやったり、チカラで捻じ伏せるような事は絶対にしたくありません。ですからエンジェライト王、我が国に来て、人間は味方であると言う事を、我が民に教えてやってほしいのです!」
「・・・・・・人間が味方であると言う事を——?」
「駄目でしょうか?」
「全ての人間が味方とは言い切れんじゃろう、人間同士、争う事もあるのじゃから」
「エンジェライト王、アナタは味方になってくれませんか?」
「わしは・・・・・・まだお主の事も、エンドラフィの民の事も知らぬが、敵ではない」
「それで充分です! 敵ではないと、我が国へ来て、演説して頂けませんか?」
「それでお主等種族は、人間を味方だと・・・・・・敵ではないと思うと思うか?」
「わかりません、でも、やってみる価値はあると思います」
「・・・・・・」
「もし、うまくいって、我等種族と人間が仲良くなれば、もっと人の暮らしは便利になります、魔法のような力は人間にだって扱えます、それを伝える事ができれば、世界はもっと平和にもなります」
「・・・・・・そこまで言うなら、いいじゃろう、やってみるだけやってみるとするか」
「ありがとうございます、では条件その3!」
シンバはチラッとアイを見て、また王に目線を戻し、
「姫を我が国の妃に下さい」
そう言った。そればかりは、考える間もなく、王は、立ち上がり、
「駄目に決まっておろう!!!!!」
そう叫んだ。アイも立ち上がり、
「な、何言ってんの! 大体、年下の癖に、有り得ないわよ!」
と、シンバに言うから、シンバはアイを見て、
「何って、お前みたいな姫、オイラ以外、誰がもらってくれるっつーんだよ!」
そう吠えた。
「はぁ!? これでもアイは結構モテるのよ!」
「へぇ」
と、耳を澄まそうとするシンバに、
「聞かなくていいの! 風の声なんて!」
怒鳴るアイ。シンバは笑う。
「大体、アイの事、好きでもないじゃない。それにアイの事、何にも知らない癖に」
「何言ってんだよ、お前をよく知ってる王族なんて、オイラ以外いないだろ」
「そんな事ないわよ!」
「へぇ」
「風の声を聞く前にアイをとーってもダイスキでアイの事をよぉーく知ってる王子を紹介するわ!」
と、アイが言うので、そんな奴いるのかと、シンバの顔が真剣になる。
「コーラルさん!」
アイに突然呼ばれ、コーラルは、戸惑うが、シンバが振り向き、
「どいつだ!?」
と、強気に聞くので、コーラルは手を挙げ、一歩前に出て、
「僕だが」
そう言った。シンバはコーラルを見ると、
「オッサンじゃねぇか!!!!!」
と、アイに怒鳴るので、コーラルは、
「ぶっ飛ばす」
と、怖い顔で拳をあげ、タイガが止めに入る。
「いいのよ、年齢なんて関係ないもの!」
「だったら、オイラが年下っていうのも気にすんなよ!」
「そ、それは・・・・・・それにアイをよく知ってるなら、アイがエンジェライトから出て行きたくない事もよく知ってるでしょ! エンドラフィなんて駄目よ、遠すぎるもの!」
「条件その4!」
突然、王に向き直り、シンバがそう言うので、王は、ビックリしながら、頷く。
というか、シンバとアイの言い合いに、呆気にとられてしまっている王。
「アイをスノーフレークの王女に即位させるって話はなしにして下さい」
「なんじゃと? それでエンドラフィに行かせろと言うのか?」
「そうではありません、アイはエンジェライトをとても愛しています。だから、ずっとエンジェライトの姫として、ここに置いてほしいのです」
「そういう訳にはいかんじゃろう、スノーフレークは——」
と、王のその言葉を止めたのが、マーブル妃。
「いいんじゃないですか」
と。
「マーブル?」
「私の兄に、第三王子が生まれたのをご存知でしょう? 第一王子はフェルドスパーを継ぎ、第二王子は、エクハウトを継ぐ予定だそうです。そして第三王子をスノーフレークの王にと、申し出が来ております。やはり王子たるもの、国の王を務めさせたいのでしょう、その話を受け入れてはどうですか? その話が進めば、オニキス王国に生まれた姫を是非スノーフレークの世継ぎへ嫁がせたいと、オニキス王からも話は来ているのですよ。その時はダイア王国が同盟に賛同しなくても、オニキスは賛同するとの事です」
王は、黙り込み、鼻で溜息を吐くと、考え込んだ。
「いい話ではないか」
と、レオンがカツカツと足音をたてながら、歩いてくる。今、アスベストもルチルも、レオン登場に頭を下げる。
「仕事が長引いて遅くなった。折角だから祭りの楽しみである宴だけでも参加しようと思って来たんだ。こちらとしては、育て甲斐のある王子を受け入れる事に、何の問題もない。今からでも王子として、俺の下に付け、タイガより素晴らしい王子として育て上げてみせる。そして、何れ、エンジェライトをスノーフレークの支配下に1000年王国を築いてみせよう」
レオンがそう言うと、勘弁してよと、タイガは呟く。
エンジェライト王は、溜息をひとつ。そして、
「良いじゃろう、その方向で話を進めよう。アイはエンジェライトに残る」
そう言った。アイの顔はパァッと明るくなるが、
「じゃが、そうすると、おかしな話になるな。お主はアイと結婚したいのではないのか? なのに、その条件は変じゃろう」
と、王は眉間に皺を寄せ、シンバを見る。
「我が種族は寿命が短いんです。勿論、中には長生きする者もいます。でもオイラが長生きするとは限りません。アイと結婚しても、オイラがいなくなった後、アイはエンドラフィで寂しく過ごすのかと、そんな事を考えたら、苦しくなります。アイには帰る場所が必要で、だから、いつでも、アイの場所を開けておいてほしいんです」
成る程と頷く王と、
「いいんじゃないかしら」
と、にこやかな妃。
「ママ! 勝手にいいとか言わないでよ! アイはね、まだ結婚なんてしないわ!」
「勿論! アイもオイラももう少し大人になってからの話だけど、婚約者として、繋がってればいいだろ?」
「だから話を勝手に進めないで! アイは大人になっても・・・・・・」
アイは、エンジェライトを出て行き、遠くに行く事など、考えられないと、俯く。
「帰りを待っていてくれる人がいるから、飛び出せる、そう言ったのはアイだよ!」
そう言ったシンバに、アイが顔を上げると、ピッピがまたアイの手の中に戻って来た。
「アイ、人間と神の架け橋になってよ。きっと、オイラ達、うまくいくよ」
「・・・・・・口喧嘩ばかりになるわ」
「楽しいよ、オイラは」
「・・・・・・」
「アイはオイラといるの、楽しくない? オイラに会いたくなかった?」
アイは黙って俯いてしまう。そんなアイに、
「無理に返事をせんで良いのじゃぞ、別に資金はこれから集めればいい事じゃし、そのまま黙っておれ」
そんな事を言う王の腕をギュッと抓るマーブル妃。
「・・・・・・アイは人間だから、受け入れてもらえないわ」
「オイラがアイの味方だよ」
「・・・・・・」
「アイが人間の世界でオイラの味方でいてくれたように、オイラもアイの味方でいるから」
アイは、『アイちゃんが友達と思ってるなら、向こうだって思ってるわ。アイちゃんがママダイスキって思ってるから、ママだってアイちゃんダイスキって思うのと同じよ』と、マーブル妃が言っていた事を思い出す。今、顔を上げて、シンバを見つめ、
「アイね、本当はずっと会いたかったよ」
そう言ったアイに、シンバはへへへっと鼻を擦り、
「オイラも」
と、笑う。気持ちは同じなんだと、アイはシンバを見て、ニッコリ笑い、頷いた。
落ち込む王と、複雑な気持ちだが、とりあえず、この場の雰囲気を考え、喜んでみるコーラルとアスベスト。
そして、素敵と目を輝かせ、乙女の顔になるユエ。
「おい、タイガ、お前の存在、ますます危うくないか?」
と、カラスがタイガを見て言う。
「なんで?」
「とりあえず、この祭りの優勝者はあの少年に決まりだろ」
「そ、そうかな、でもさ、ほら、お父さんが勝てって言った相手に、あの少年は入ってなかったから」
「何の話だ?」
「え? ボクの存在の危うさ?」
「あぁ、まず、お前はユエ姫様と何れ結婚。子も生まれるだろうが、所詮、その子は王族と言っても人間の子。だが、お前の妹の結婚相手は神の種族だろう? 神と人間の間に生まれた子は・・・・・・どう考えても、この世界の頂点に立ちそうじゃん」
「うわっ、嫌な事言わないで! ボクの子だってきっと凄くなるよ!」
「どうかなぁ、ユエ姫様に似れば兎も角、お前に似てたらなぁ。その点、アイ姫はシッカリ者、あの少年は神、どっちに似ても王者の風格ありそうじゃん」
と、カラスは腕組。
「カラス、本当にボクよりアイちゃんを支持するんだ!?」
「だって、本当にアイ姫様々だろ、資金全額出すって言うんだぜ、あの少年! それタイガの御蔭じゃねぇし」
「うわっ、そういう事言う!?」
と、タイガは不貞腐れる。
ルチルはジャスパーが、余りにも微笑ましそうにアイとシンバを見ながら、独りでウンウンと頷いているので、
「あの二人の事、知ってたの?」
と、聞いてみる。
「まぁね」
「いいわね、アンタ、大して役に立たないのに出番多そうで」
嘆くルチルと、役に立っていると怒るジャスパー。
「——ところで、お主、名を何と申す?」
「風の言葉でシシ、人の言葉でシンバ。エンジェライト王、アナタと同じ名ですね」
名を聞くんじゃなかったと、王は、額を押さえ、溜息。
自分と同じ名の王を退かせる訳にもいかず、これでは認めるしかないと、またも溜息。
その後は、アイとシシの婚約パーティーも兼ねて、盛大な宴が行われた。
そして、牢獄に入れられていたフェルクハイゼン王と王子も、祝いの日という事で、釈放された。
罪は謝罪だけの軽い刑で済まされ、だが、悪巧みはもうできないだろう。
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