8.愛しています
タイガ、カラス、ユエ、ルチル、リーフェル騎士隊長、フェルクハイゼン王と王子は、エンジェライトへ向かい、今回の事をエンジェライト王に報告した。
フェルクハイゼン王と王子の処罰は、直ぐには下さず、とりあえずは牢獄へ放り込んだ後、エンジェライト王は、
「すまぬ、直ぐにお主等の話を、もっと詳しく聞いてやりたいのじゃが——」
と、困った表情。
「リーフェルの事じゃが、こっちが解決次第、直ぐに、資金集めをしよう。どれだけ集まるかはわからんが、出来る限りの事はするつもりじゃ。大国であるダイア王国が同盟を結んでくれれば、ソレ相当の資金も手に入るのじゃが・・・・・・」
「ダイア王国は1000年王国には反対なのですか?」
カラスが問うと、エンジェライト王は少し考え込んだ。
「反対と言う訳ではなかろう、只、エンジェライトがダイア王国の支配下となるのなら、同盟を結んでも良いと言われておるのじゃ。こっちもプライドというものがある。くだらんプライドかもしれぬが、どうしてもダイア王国の名ではなく、エンジェライトの名で、天下統一を果たしたいのじゃ。すまぬ」
頭を下げるエンジェライト王に、それは絶対に譲れないプライドなんだなと思う。
「ダイア王国よりも大きな国が同盟に参加してくれれば、リーフェルも救われるのでしょうな。だが、ダイア王国が世界で尤も大きな国であり、人口も多く、あれ程の国は、今はもうないですからなぁ、ダイア王国も我が国を一番にと考えるのは当然の事・・・・・・」
と、騎士隊長がぼやく。
「とりあえず、リーフェルの民達も我が国で避難という事で留まらせておるので、暫く、ユエも騎士隊長殿も、この地におると良かろう。それからタイガ、よう頑張ったな、お主の話も後でちゃんと聞いてやるからのう」
「うん、でも、どうしたの? 何かあったの?」
タイガが不安そうに尋ねると、顔を真っ青にしたアスベストが走って来て、
「城下町にもいません」
と、今にも死にそうな顔で言う。
「アスベストさんが、エンジェライトにいるって事は、どんな大変な事が起こってるって言うの!?」
と、ルチルも心配になり、そう叫んだ。
「なに? 何があったの? 教えてよ!」
タイガがもう不安を隠せない顔で尋ねると、今度は、
「あのブタ野郎!! アイちゃんに何かあったらどうしてくれよう!!」
と、コーラルが親指の爪を噛み、イライラしながら、そう言って現れた。
「アイちゃん?」
と、タイガは首を傾げると、同時に、アイちゃん?と、ユエはカラスに小声で問う。
「タイガの妹です、つまり、この国のお姫様」
カラスはユエに小声で、そう説明。
「アイが家出したんじゃ」
エンジェライト王が、そう言うと、
「家出!?」
と、タイガとカラスは同時に、声を上げた。そして、タイガは、
「なんだ、何事かと思ったら、そんな事か」
と、安堵の溜息。
「そんな事?」
と、アスベストが、怖い顔でタイガを見て、聞き返す。
「そんな事だよ、くだらない。どうせお腹が空いたら帰って来るよ」
そう言ったタイガの背後で、
「次の食事の時間にも、アイちゃんが戻って来なかったら、その台詞、どう責任をとるんだ、タイガ」
と、コーラルが、アスベスト同様、怖い顔で言うから、
「そ、そんな大袈裟なぁ」
と、タイガは、苦笑い。
「ジャスパー殿の姿もなくてのう、恐らく、二人一緒におると思うのじゃが」
エンジェライト王がそう言うと、コーラルが、
「あのブタ! アイちゃんに何かあったら、干し豚にして、非常食にしてやる!」
と、物凄い迫力のある声と顔で呟く。
「不味そう・・・・・・」
そう呟いたタイガに、そういう問題じゃないだろと、カラスが肩を叩いて突っ込む。
「兎も角、タイガ、お主、アイの事を友達に聞いてみてくれぬか?」
「そんな事しなくても、どうせ直ぐに帰って来るよ。それにジャスパーさんが一緒なら大丈夫だよ」
面倒くさそうに言うタイガに、
「タイガ、今直ぐに探しにいかないと、どうなるか、わかっているのか?」
コーラルが怖い声で、タイガを睨んだ。
「わかったよ、行ってくるよ、行けばいいんでしょー! もー! アイちゃんのバカ!」
と、タイガは頬を膨らませ、城下町の友達の家へと向かう。
「アタシも探してくるわ」
と、ルチルも探しに行く。
「カラス」
皆、慌ただしく、アイを探しに行く中で、ユエが、カラスを呼ぶ。
「はい」
「アナタ、エンジェライトの姫をご存知なの?」
「はい、顔は見て、知っています」
「なら、アナタも探しに行きなさい」
「でも——!」
「ここはエンジェライト、ワタクシをどうにかしようなんて人はいませんから、安心して、行って来て下さい。騎士隊長さんも傍にいますから、大丈夫ですから」
それもそうかと、カラスは、わかりましたと頷き、エンジェライト王に、
「オレも探してきます、タイガは城下町にいるんでしょうか?」
そう聞いた。
「あぁ、申し訳ないのう、お主等の国が大変な時に——」
「いいえ、エンジェライト王、ワタクシがいなくなった時、タイガ王子もワタクシを探してフェルクハイゼンに来てくれました、この国の姫がいなくなったのなら、ワタクシ達も力を貸しますわ」
と、ユエが前に出て、エンジェライト王に言うと、エンジェライト王は、ユエのサファイアの瞳を見つめ、
「綺麗な瞳じゃな」
そう言った。
ユエの瞳をブラックだと言っていたのに、サファイアの瞳を、何も問わず、綺麗だと褒めた事が、なんとなく、今、ここで存在しているユエ姫様を認めてくれたようで、カラスは嬉しくなる。
さぁ、アイ姫を探し、見つけ出して、更にリーフェルの信用を高めるぞと、思った矢先、エンジェライト王の背後で、妃が、大きな樽の中を覗き込み、
「アイちゃーん」
と、呼んでいるので、カラスはガクンと力を失くす。
そんなカラスを見て、エンジェライト王は振り返り、そして、
「マーブル、そんな所にアイはおらんじゃろう」
そう言った。
「あら、いるかもしれないと思って」
「覗いておらんかったら、おらんじゃろう」
「ちっちゃくなっているかもって。ほら、妖精さんの魔法でちっちゃくなっちゃって、妖精さんに気に入られてしまったの、だから帰って来れなくなってるのかも。アイちゃん、とっても可愛いから、向こうでも気に入られてしまってるのよ」
「・・・・・・そうじゃな、わしが悪かった」
諦めたエンジェライト王に、カラスは突っ込まないの!?と思うが、タイガのあの性格は、この妃様譲りかと苦笑い。
「愛されているのね、ここのお姫様は」
ユエが呟く。
「負けず、愛されてますよ、リーフェルのお姫様も」
カラスが呟く。
ユエがカラスを見ると、カラスもユエを見た。
「愛しています、ここのみんなが、ここの姫を愛しているように。オレも、我が姫を愛しています、これからですよ、リーフェルのみんなが、アナタを愛して・・・・・・もっともっと世界中に、その愛が広がるのは、これからです!」
そうねと、ユエは微笑みながら、頷いた。
その微笑みは月の女神に相応しく、美しくて、この世の宝物みたいで、闇でも明るくなるようで、カラスは浮かれて鳴きそうになる——。
月の如く ソメイヨシノ @my_story_collection
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