15-2 人たち

 彼らは弱き存在だ。平等の名のもとに勝手に選別され、そして差別され、努力ができないこと、結果が残せないことに喘いできた者たちだ。こうして他人のせいにして、自分は悪くないと正当化し、結局何もかもが信じれらなくなる愚かな人たち。

 自分たちを救おうとしてくれていたメンフィスさえも、その疑念から殺害し、ろくな算段も持ち合わせずに、ここまで来てしまう。

 だけど努力ができないこと、考えが浅はかなこと、空気が読めないこと、理性や理論ではなく感情で動いてしまうこと、これらすべてが当人の怠けによる問題であり、自らの選択でなし得たことなのだろうか。それは違う、生物学的、統計学的に割り出される落ちこぼれという摂理なのだ。

 現代社会はそれをないがしろにしてしまった。生物であるが所以を、共同体であるが所以を、メンフィスを殺したレジスタンスも、対空砲を撃った者も、テクノロジーの選別でエリアに住まう者よりも、ずっと人間らしく、そして生物らしい。少なくとも私よりは。

 砲撃で消し飛ばされた私は肉片と化した。体の四分の三が焼却された私は人間とは呼べないただの肉片だ。

 だがその肉片から細胞が作られ、私の体は再生していく。何もないところから骨髄を形成し、骨を形成、そして筋繊維、そして外皮を再生していく。復活するのは先ほどまで剥き出しになっていた金属義足ではない。それは確かな人間の足だった。

 いま私の体に母が作り出した再生細胞が作用している。残った細胞が失われた細胞を生み出し、新たな肉体を作り出しているのだ。

 これがリアンの残した本当の違法義体の姿なのだ。私は生まれたままの状態で、そして生まればかりの肉体でその地面に立っていた。

 インプラントもニューロチップもない、そしてタブレットも拳銃もナイフも、洋服するすらも着ていない原初の人間。それがいまの私の姿だった。


「ば、化け物が……」


 そんな私の姿を見た人々は断末魔を上げた。突きつけた拳銃からも畏怖と悲鳴がにじみ出る。

 私はその言葉に対して、言い返すことができなかった。まるで言葉をいまだ持たない原始人のように、ただ黙ってじっとレジスタンスたちを見つめていた。

 それは沈黙の同意である。私も同じことを思っていたのだ。

 そのあまりの恐怖にレジスタンスの男が発砲した。その弾丸は肩に命中するが、血はすぐに止まり、再生する肉により弾丸が押し出され、コンクリートに薬莢と共に血の付いた弾丸が転がった。

 恐らくもう私が人間であることを忘れている。その目はアメコミのビランを見る目に等しかった。死なない人間というのは人を殺す人間と同じくらいに恐ろしいものだ。

 私は地面に立っている、ただそれだけを意識していた。

 その時である。その男が頭から血を流し、その場に倒れた。

 その瞬間、機関銃の銃声が基地中に鳴り響いた。人々はその弾に貫かれ倒れていった。滑走路に血だまりができ、コンクリートに染み込んでいった。その遺体の中には戦地で少佐に助けられた女の子も含まれていた。

 皆、一様にたった一発の銃弾で死んでいった。もろくか弱い体はもう二度と動くことがない。

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