15-1 人たち
懐かしい。
それが最初の感想だった。この地面、この景色、訓練生時代の毎日が脳裏によぎる。ただ一つ違うことがあるとすれば、この基地内にインプラントを施していない人間が入り込み、私に対して銃を向けているという点だ。
砂ぼこりが晴れると、私たちを狙った男の正体が、レジスタンスの協力者であることが分かった。
「まさか国連軍にスパイを送り込んでいたとはね」
「貴様、何者だ……化け物めっ」
そう叫んだのは、港でメンフィスと共に現れたレジスタンスの男たちだった。そこにはメンフィスの車に乗っていた女の子もいた。その全員に武器が支給され、無数の銃口が私に向かっている。
「メンフィスを殺したのね」
男の胸には国連職員のバッチがあった。
「ああ、あの女はやっぱり政府の人間だ。お前もそうなんだろ!」
「だからあなたたちは弱者なのよ」
すると男は下唇を強く噛みしめて叫んだ。
「殺すぞ!」
「殺してみなさい!」
「殺してやる……」
足の震えた拳銃にまで伝わり、照準がずれていた。上空から落ちてきても傷一つない、そんな化け物を目の前にして、大の男が小鹿のように震えあがっている。
「その前に答えるんだっ。この世界に何が起こっている。住人はどこに消えたんだ?」
「皆、テクノロジーと融合してしまったわ。ある意味ではあなたたちの反乱は成功したわよ。この地球上に残るのは確固たる生きる意志がある者のみよ」
その瞬間、悲鳴が上がる。
対空砲の周りに人だかりができ、一目見ると皆後ずさりを始めた。
「どうした!?」
「こいつも消えやがった」
砲台の近くにいた男が叫んだ。
「見ての通り、インプラントをした人間、新時代を受け入れた人間は姿が消える。あなたたちもこの反乱を終えた時、この世界で生きる意味を失えば、ああして消え去るわ」
「なんとかしろ! どうすればいい!」
男が私に胸倉をつかみ上げたが、だらりと垂れ下がった腕が揺れ動くだけ。私は何も答えず、この男の力に身を任せた。
「ただ一つ言えることは、受け入れない意思を持つことよ……」
私はそう言うと、男はその場に倒れこむような膝をついた。肩を落とし、拳銃が手から零れ落ちる。
「もうどうしようもないというのか。俺たちも、俺たちのレジスタンスも、人類も、そしてこの世界も……」
「昔は王が権力を持ち、暴力によってそれを打倒することができた。だけど国家や法律ができ、地球上の国全体が連携し合うことで、大きな国際的な社会体制が形成された。社会が大きくなればなるほど、反乱を起こすことは難しくなる。だけど現代はそれすらもない、もう反乱を起こそうとすることすらもできない。つまり人を殺そうとすればその武器が消えてなくなる。そんな時代なのよ」
その時である。対空砲が火を噴いた。
たった一瞬だった。砲撃が私の体に命中し、吹き飛んだ。右半身が溶け、体は焼け焦げた。恐怖に打ちひしがれた誰かが撃ったのだろう。私の体は訓練基地の滑走路を転がり、消し炭となった。
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