14-4 対面

「私の母を知っているのですか」


「君は人工授精で生まれた人間だ。今やテクノロジーに汚染された人間はもうすでにパドロフの計画に組み込まれている。だけど君だけは違う、君の母は再生細胞の研究者だった。そして彼女は自らの細胞から君を作り出した。その細胞はリアン・リーの母に受け渡され、リアン・リー本人が君の細胞から違法義体を作り上げたんだ。その時にフォースギアに接続するための神経プラグも取り除かれた。そのため、いまの君はテクノロジーの介していない完全な人類なんだ」


「だけどパドロフ議長は私を消し去ろうとしていましたよ」


「だから時間がない。君の意思が少しでも新時代に傾けば、君はあちら側に吸い込まれてしまう。でもグランドコンピューターを破壊しても君だけは生き残ることができる。人類の命運は君にかかっているんだ」


 その時であるヘリコプターに大きな衝撃が走った。ハッチから外を覗くと、尾翼から黒煙が上がっていた。そして地上には僅かな人影と、訓練基地の対空砲の硝煙が確認できる。

 恐らくステルス戦闘機が国連タワーに突撃するときに放たれた砲撃と同じものである。


「ユリサキ、ここから飛び降りろ」


「少佐はどうするんです?!」


「俺の体じゃここから飛び降りたら、木っ端みじんだ。だけどお前なら助かる。だから早く!」


 私は戸惑いながらも深く頷いた。


「俺もすぐに向かう。地上で待っていろ」


「少佐、どうかご無事で」


 私は炎上するヘリコプターが飛び降りた。高さ数百メートルからのダイブは慣れている。だけどそれはパラシュートあってのことだ。私も内心不安だった。だけど少佐はこの高さからでも耐えられる耐久力を持っているといった。

 私の義体は再生細胞でできている。そのため脳が完全に破壊されない限り、細胞が再生を繰り返し、体を補完するのだ。そのため鉄の耐久力をも超えた途轍もない力を出すことができるのだ。

 垂直に落下した私に地上が徐々に近づいてくる。私は体を丸め、着地の態勢を作った。地上からは人が消え去り、辺りは静まり返っていた。だが車が動いていたし、電気も止まっていない。災害は起こらず、ただ穏やかに地球が脈動していた。

 もうすでにこの社会は人類がいなくともなんら変わりなく動き続けているのだ。その根幹を担うのは人ではなく、AIなのだ。

 AIは人と違って一つの意識が存在する。それは実態を持たずクラウド上のインフラにのみ存在していた。

 AIは〝誰か〟や〝どこか〟ではなく、〝誰も〟であり〝どこも〟なのだ。

 少佐のグランドコンピューターとはこの世界そのものであり、その全てを無に帰すことが目的だ。

 もはやそれは人間のテクノロジーに対する劣等感とエゴイズムだ。だけどパドロフ議長の言っていた新世界と少佐の掲げる新世界は行為こそ違えども、本質は同じように思えた。

 私は丸めた体を翻し、大きな衝撃音と地響きと共に地上に降り立った。

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