14-2 対面
「あなたの目的はビックブラザーかしら」
「そうではない。人類とテクノロジーの融合だ」
「これ以上のテクノロジーの融合は人間性を失うわ。もうすでに地球全土の人間を監視してるあなたはこれ以上に何を求めるというの?」
「君には特別に見せてあげよう」
パドロフはそう言って、手を叩いた。
その瞬間である。隣に立っていたバレン兄妹の姿が消えた。風の吹く屋上には二人の洋服だけが残っていた。私はいったい何が起こったのか分からなかった。
「人間は分子の塊だ。彼らは新時代を受け入れたんだ。そのため肉体が不要になった」
「彼らは今どこにいるの?」
「上位世界だよ。そこでは人とテクノロジーと神が一つになっている。それがマーキュリー計画だ。この計画の本当の目標はそこにある。人類はAIと交配し、新たな生命体へと進化するんだ。そしてその進化のゆりかごはこの地球ではない。それは完全な精神空間となる。その時、不要となった肉体は分子構造を解体し、この地球に還る。これは地球と人類の双方を救う唯一の道と言えないか。だから君も受け入れるんだ。もう準備は整っている。さぁ早く」
リアンの言った通り、私たち人類は知らず知らずのうちに、人間という肉体を変えられていていたのだ。だがこの世界に抵抗することもできない。もうすでにそれは人々の同意もなしに始まっているのである。
恐らくミアの義体の技術はこの男の言ったマーキュリー計画に使われた。現にフラガは肉体を破損した状態で立ち上がることができた。もうすでに脳は肉体を超えていたのだ。そこで不要となった肉体はこうして消えてなくなる。
私はこのどうしようもないやるせなさに拳を握りしめるしかなかった。
「ふざけんな! フラガは私が殺す予定だったんだ」
「この期に及んで、何を言い出す? まぁいい、きっと君も新しい世界を気に入るはずだ」
「私が受け入れると思うか」
「君の現在の意思なんて関係ないんだよ。もう君はすでに受け入れてしまってる」
パドロフはそう言うと、両手を広げた。そしてその手を叩こうと振りかぶる。
その瞬間である。背後から強風が吹き上げてきた。私の髪の毛も激しくなびかれ、背中を強く押される。
振り返ると、ビルの下から一台のヘリコプターがホバリングして現れた。
「伏せろ、ユリサキ!」
その叫び声と共に、短い破裂音が鳴り響く。軍用ヘリコプターに搭載された機関銃が火を噴き、私の目の前に立っていたパドロフの肉体を木っ端みじんに砕いた。
私はゆっくりと顔を上げると、管制AIに制御され、ホバリングを続けるヘリから一人の男が降りてきた。そして私にそっと手を差し伸ばし、パドロフを見つめながら言った。
「生きてるか」
私はそこに立っていた人物を見て、震えあがった。
「なんで……」
ヘリコプターから降りてきたその男は亡くなったはずのシグマ少佐だったのだ
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