13-4 突撃

 バックパックをその場に置き、ファイティングポーズをする。


「たった一人で俺たちを相手するつもりか」


「無駄口叩いてないでやるわよ。私に時間稼ぎは通用しないわ」


「このクソ女が」


 SPたちが襲い掛かってきた。慈悲かそれともプライドか、一斉に襲って来れば良いものの、SPは一人ずつ襲ってきた。私は最初に襲ってきた誇り高き、SPの足を払うと、ネクタイを掴み上げ、そのまま屋上から突き落とした。

 フォースギアで、ありながらスーツなど着ているから、こうやって掴まれて負けるのだ。ただの遠隔操作をしているだけのロボットなのにも関わらず、人間らしい体裁を保とうとするからだ。

 私の戦闘を見ていた他のSPは考え直したのか、すぐに拳銃を取り出し、発砲した。放たれた弾丸は私の太ももを貫いたが、微動だにしない。ゆっくりと振り返り、人差し指で自分の額をぐりぐりと押し付けて言った。


「ここを狙いなさい」


「やはり違法義体か……」


「それがどうしたの?」


 私はおもむろに走り出し、SPたちの懐に入った。どんなに短い時間であろうと、だが相手にできるのは一人である。そのため他のSPを奪った拳銃で牽制しながら制圧していった。

 それでも敵は多数、なおかつ精鋭部隊だ。一人倒すたびに、体のどこかしら銃弾を食らう。それでも膝をつくことはなかった。

 私が屋上から投げた捨てたSPがフラガに当たっていないだろうか。いや仮に当たって落ちていたしても私の知ったことではない。

 だがSPたちの足止めで、ヘリコプターがついに浮上し始める。このままみすみす逃すわけにはいかない。私は最後のSPの胸を蹴り上げると、そのままバク転し、バックパックを開いた。

 中からグレネードランチャーを取り出すと、サイトを覗き、躊躇なくトリガーを引いた。グレネード弾はヘリのプロペラのスリーブで炸裂し、メインローターを吹き飛ばした。動力源を失ったヘリコプターはそのまま垂直に落下し、屋上へ不時着した。これでもうここから逃げ去ることはできない。私はグレネードランチャーを捨てると、ゆっくりとそのヘリコプターに近づく。

 すると中から初老の男が降りてくる。何度も見た男だった。テレビで、インターネットで、大人気タレントもないのに、この顔を知らない者はいない。その男に向けられる感情の一つは賞賛と賛同であり、そしてその倍以上の憎しみと悲しみを孕んでいる。

 私も後者だった。


「まったく派手なことするな、君も」


「パドロフ議長……」


 あの時、終戦宣言をした男だ。マーキュリー計画を実行し、特殊警察を作り上げ、そしてリアンを殺した男である。

 さらにその後ろから拘束されたミア・バレンが姿を現した。彼女は話には聞いていたが、実際の姿を見るのは初めだった。

ミアはフラガの妹とは思えないほどに華奢で、その上、非常に可愛いらしい顔をしていた。純情無垢なその瞳は人を殺していない瞳だ。私が見てきた科学者の顔とは違う。人生に絶望し、生きる希望を研究以外に失った。そんな濁った瞳ではなかった。だけど私はそんなリアンの瞳が大好きだった。

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