13-2 突撃

「まぁ誤差でしょ、ここまで来たら後戻りはできないわよ」


「ああ、分かっている」


 私はすぐに座席の裏においてあったバックパックを肩にかけると、ポッドを蹴破り、外に出た。もうすでにフォースギアの警備兵の足音が聞こえてくる。


「廊下はすでに囲まれてそうね」


 私はそう言うと、オフィスの入り口付近に、ガス弾を投げつけた。そのガス弾は対フォースギアに用に作られた代物である。水蒸気状の粘着成分のある液体が空間を包み込み、フォースギアの視界を奪う。人間には瞼があり、まつげがあり、そして目を瞑ることができる。

 フォースギアに取り付けられている眼球はお飾りで、額にある小型カメラでの視界のほかにも、操縦者は後頭部から発せられるARソナーで正確な空間を把握しているのだ。そのためそのセンサーに粘着物質が張り付けば、センサーとの通信が断絶され、ノイズが入った状態になる。

 一度そうなってしまえば、こちらもものだ。兵士たちにとって私たちは瞬間移動して見えるだろう。まるでラグの酷いゲームのように。

 この五年もの間、無能力者はただ暮していたわけではない。エリアの端で、またその外で、不死身の兵士であるフォースギアに対しての様々な策を講じてきた。この兵器もその一つである。

 私とフラガは敵の懐に飛び込むと、次々に制圧していった。


「上下どっち?」


「上だ」


「階段を使うわよ」


 フロアを制圧した私たちは階段を使って上階へと急いだ。


「上から来るわ」


「また警備兵か」


 階段の壁を利用し、身を隠すが、敵は機関銃を連続照射し、弾幕を張っている。これでは近づくこともできない。


「さっきのはもう使えそうにないわね」


「なら力づくだな」


 フラガは私のバッグパックから手榴弾を二つ取り出した。そのピンを外すと、一つは敵に向かって投げ、もう一つは口に加えたまま走り出した。ピンを外すと、それを蹴り上げ、敵の懐で爆破させる。


「さすが元特殊警察だわ」


「力技は得意なんでね」


 階段を昇り、次の階に到着すると、私はフラガに言った。


「で、妹さんはいまどこ?」


 するとフラガはタブレットを見ながら渋い顔をした。


「急速に登ってやがる。いったいどこに向かっているんだ……」


「多分、逃げるつもりだわ」


「屋上かッ」


「このまま階段を昇っていても間に合わないわ」


「ならどうする!? エレベーターのほうが危険だぞ」


 私はフロアで立ち止まり、ビルの廊下の先を見つめた。そして自分の手のひらに目を落とすと、眉間にしわ寄せながら呟いた。


「あんたの違法義体はどのくらい速く走れる?」


「最上階までなら数分もかからない」


「いや階段よりも近道があるわ」


 私はそう言って、開け放たれた扉、廊下とオフィスを挟んださらに向こう側、ビルの窓の外を指さした。


「お前、正気か」


 フラガはそう言うと、階段の壁に印字されていた階数に目を向けた。


「ここは88階だぞ、落ちたらバラバラだ」


「12階分すっ飛ばせるわ」


「いかれてやがる」


「ならあなたは階段で行けば」


「バカいえ。国連タワーにテロ仕掛けている時点で俺も充分いかれてるぜ」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る