13-1 突撃

 上空一万メートルの高軌道上で、戦闘機は羽を揺らしながら、飛んでいた。戦闘機は旅客機と違い、機動力を最優先しているため、断熱材などは薄い。そのためこれだけの高さを飛ぶとなると、さすがに寒かった。だがそれ以上にこんなに狭苦しい場所に、フラガという大男と共にいるほうが何よりも嫌だった。


「そろそろ降下か」


「ここからさらに上昇するわよ」


「まだ行くのか」


「私たちは高軌道上から降下するのよ」


 そこからさらに戦闘機は加速して、さらに高度を上げる。成層圏に突入するぎりぎりまで高度を上げると、そこで燃料が尽きる。すべてメンフィスが設計したAIによってプラグラムされているが、そのAIもここで活動を停止する。

 地球の丸みを感じ取れるほどに上昇した戦闘機はついに角度を変えた。

 エンジンが停止し、全ての電力が放出される。これ以上高度を上げると、地球の遠心力が重力を勝り、宇宙に出てしまう。その寸前で、さきほどまで戦闘機だったものはただの鉄界へと変化した。

 これで国連のレーダーには引っ掛からない。さらに戦闘機全体にミラー迷彩を施しているため、肉眼でも確認することは不可能だろう。

 そしてついに戦闘機の降下が始まった。


「こんなに高くまで上昇してから降下するなんて、木っ端みじんにならないだろうな」


「そうならないことを祈るしかないわね」


「俺は無宗教だ。祈る神なんていない」


「なら覚悟しなさい。それだけで人は救われるわよ」


 降下し始めた機体はすぐに音速を超えた。マッハで換算したら数十を超えるだろう。秒速一キロを突破し、まるで隕石のように、機体の先頭に火花が散り始める。このままさらに加速していく。このスピードなら国連タワーに到着するまで、数十秒といったところだ。

 雲を突き抜け、地上が見えてくると、国連の基地の対空砲が目に入った。


「狙われているぞ」


「喋ってると、舌噛むわよ」


 放たれた対空砲は戦闘機の尾翼に当たり、ほんの少しだけ角度を変えられた。私は必死で戦闘機のレバーを引っ張り、羽を動かすことで、空気抵抗を利用し、元に戻そうと試みる。

 あと数秒で国連タワーに激突する。あまりのスピードに窓の外が止まっているように見えた。その瞬間である。途轍もない衝撃が全身を襲った。

 耐熱スーツを着ていなかったら、洋服がすべて溶けていただろう。衝撃波がビル全に伝わり、一斉に窓ガラスに割れた。さらに戦闘機の機首は赤く熱され、鉄が溶け始めていた。機体が熱に包まれ、さらに瓦礫も熱によって溶けている。どうやら国連タワーのオフィスに突っ込んだらしい。カーペットに火が移り、火災が発生していた。火災報知器が鳴り響き、天井からスプリンクラーが作動していた。


「どう生きてる?」


「なんとかな」


「妹の位置は分かる?」


 私がそう言うと、フラガはタブレットを取り出し、それを見つめた。


「さっきの砲撃で少しずれてしまったらしいな」



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