12-2 反撃

 フラガは私から視線を反らし、天井を見つめた。


「俺は軍なんて長く居るつもりはなかった。だけど、食っていくためには必要だったんだ。そんなある日、ミアは内緒で俺のために義体を作ってくれた。それが違法だとは知りながら俺はインプラントした。その義体を使って数々の功績をあげ、途轍もない速さで昇進していった。だがそれも長くは続かなかった。ミアが逮捕され、俺は政府からこういわれた。『妹の罪を晴らしたければ、本気で働け。妹を助ける道はそれしかない』とな。俺は何度も自分を逮捕しろと抗議したが、ダメだった。法律と治安は違うんだよ。治安はその地の安全をも守るためのものだ。だけど法律は違う、お偉いさんたちが勝手に決めた条項だ。だからそいつらの都合でいくらでも拡大解釈されちまう。いやはなから拡大解釈できるように作られているんだ」


 フラガは大きなため息をついた。


「そしてついにミアの容疑が晴れる日がやってきた。それが特殊警察だった。俺がそこで任務を遂行し、功績をあげれば、ミアは解放される。だが俺はお前を逮捕するときに大きなミスを犯した。部下のほとんどをあの爆発で、失ったんだ」


 そう言って、私に視線を向けた。


「すぐに本部に連絡が入り、ミアは国連タワーに移送されることが決定した。そして俺は軍をクビになった。これだけ尽くしてきた政府に、たったの一度のミスで裏切られたんだ」


「政府は不要な人間を消すように動いているわ。あなたもはなから使い捨ての道具だったのよ」


「まったくその通りだよ。あの頭脳を政府が簡単に手放すとは思えない。そしてそれには俺が邪魔だったんだろう」


「まさに少佐が言ったとおりだわ。リアンもそれで殺されたのよ。でもつまりフラガを捨てるということはもう準備が整ったということよね。恐らくそのマーキュリー計画の裏を握るのはあなたの妹かもしれないわ。ついに政府が始めようとしているのよ。新世界を……」


「ユリサキ、だからこれは取引だ。俺もあんたの復讐に一枚噛む。だから国連タワーからミアを助け出すのを手伝ってくれ」


「お姫様救出作戦ということね」


「でも国連タワーの警備はかなり厳重よ。どうやって……」


「もしかして二人ともついに蜂起するつもりね」


 その会話を聞いていたメンフィスが言った。


「倉庫の奥に、一台だけ戦闘機があるわ。少しの砲撃になら耐えらえるくらいの装甲に仕上げてあるわよ」


「でもどうやって国連タワーにそれで近づくっていうんだ? 飛行機なんかで近づけば、すぐにレーダーで観測され、一帯にジャマーが敷かれるぞ。そしたらエンジンも止まって、国連タワーに近づけずに終わる」


「それはジェットエンジンの推進力で近づこうとするからよ。この星にはそんな現代テクノロジーでも太刀打ちできない超エネルギーがあるでしょ」


 メンフィスがそう言った瞬間、ピンセットを床に落ちた。それを見て、私は彼女が何を言いたいのか、すぐに分かった。


「重力ね」

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