12-1 反撃

 コンテナをどかすとフラガの体は無事に形を保っていた。これほどまでの衝撃を受けても、形を残している義体を製造したミア・バレンのすごさに改めて驚嘆した。それは装甲技術だけでない、これだけ体が破壊されていても、フラガは自分の意思で立ち上がることができた。

 つまりミア・バレンは肉体を超えた脳の潜在能力を引き出していることになる。彼女は天才だ。あれだけの衝撃を受ければ、金属はねじ曲がり、外装は保てても普通は動くことができない。つまり壊れた個所を脳の意識が保管して、いまのフラガを動かしているのだ。だが数歩歩いたフラガはその場に膝をついた。そして血に染まった前歯を見せ、見上げながら言った。


「ユリサキ、取引だ」


「いまのあなたの立場を分かっているの?」


「悪い話じゃない」


その真剣な瞳に免じて、私は彼の話を聞くことにした。


「多分、私たちは全く別の道だけど、同じ方向だけは向いてそうね」


 私はそう言うと、フラガの腕を掴んだ。


「メンフィス、フラガの治療をお願い」


「本当にいいのか、ノバラ。こいつはリアンを……」


「俺たちも反対だ。こんなやつ、海に捨ててしまえばいいっ」


 メンフィスに続き、難民たちも声を上げ始めた。するとまるでビジターの球場のように、ブーイングの嵐が巻き起こった。


「お前の言う通り、手厚い歓迎だな」


 フラガは自分の境遇をあざ笑うかのように、口角を上げた。


「みんな聞いて」


 私の一声で倉庫が静まり返る。


「別に私はこいつを許したわけじゃない。だけどこいつはいまのいままで特殊警察だった男よ。人間は感情で動く生き物ではない。思考して行動する生き物。その小さな感情の起伏で取り返しのつかないことになり、チャンスを逃す。大丈夫、もしもこの男が裏切るような真似をしたときは迷わず殺すわ」


 すると難民たちはお互いを見て、黙り込んだ。


「私たちの敵は目の前の男ではないわ」


「本当にいいのね」


「ええ、こいつを治療してやって」


 私はフラガの体をメンフィスに引き渡した。


「重くて悪いな」


「本当なら解体してやりたいくらいよ」


 フラガを手術台の上に乗せると、メンフィスは首元から注射を打った。これで首から下の感覚はすべてなくなる。これだけの部分を手術するなら、普通は全身麻酔である。私もリアンの違法義体をインプラントしてもらったときは全身麻酔だった。

 だがあえて局部麻酔する理由はフラガから、その悪い話じゃないそれを聞き出すためである。手術台の脇に丸椅子を運び、そこに座ると、フラガも視線だけを向けてきた。


「俺はお前と違って、政府の言うことを素直に聞いてきた。一度も噛みつくことない忠犬だった。なぜこの俺がこんな図体で、政府にしっぽを振る子犬のような振る舞いをするか。それはすべてミアのためだった」

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