11-5 真実
私の拳をガードなしで食らったフラガの体が吹き飛んだ。
これが違法義体の力である。広背筋から三角筋、上腕二頭筋から前腕にかけてまで、全てのパーツがインプラントにより、異常な力を引き出した。優に百キロは超えるであろう、フラガの体は途轍もない音を立てながらコンテナと衝突した。
私は外した関節を元に戻しながら、近づいた。土煙が晴れると、フラガの姿があらわになる。
彼はコンテナに押しつぶされ、無様にも身動きが取れなくなっていた。足から胸の位置にまで、コンテナが覆いかぶさり、呼吸をするのも苦しそうだった。
「妹に感謝しなさい。人間ならとっくに死んでいるわ」
「死んだも同然だ」
「生きる希望をなくしたという表情ね」
私が見下ろすと、彼は視線を反らした。
「とっととその足で俺の顔を踏みつけろ、お前の力なら脳さえも残らないだろ」
「別に自殺願望を咎めるわけじゃないわ。それがあなたの本当の望みならね。ただし、やけくそで死を選ぶほど、愚かのことはないわ」
「俺にもう生きる希望はない」
「数十時間前まではあんなに嬉々として人を殺していた男が、生きる希望をなくして死を懇願するなんてね」
「笑え……そして仇を討てよ。仇の首はてめぇの足元だぞ」
私はメンフィスに合図をした。
すると彼女はホルスターから拳銃を取り出した。それを床に置くと、こちらに滑らせる。私はそれを拾い上げると、安全装置を外し、スライドを引いた。そして銃口をフラガの額に向ける。
違法義体とは言え、額に弾丸を撃ち込まれれば、即死だ。どれだけ剛健な肉体を持とうと、脳を鍛えることはできない。
フラガはその銃口を見つめると、目をつむった。
「望み通り、殺してあげるわ」
「お前の望みでもあるだろ」
「ええ、そうね。リアンのことは許さない」
私は呟くと、引き金を引いた。
鈍い音が倉庫内に響き渡った。硝煙と薬莢が転がる音がその近代兵器の寂しさを物語っていた。
「なぜ外した……」
弾丸はフラガの耳から数センチのところに埋め込まれている。
「それは死を覚悟した人間の顔ではないわ」
フラガは自分で気が付いていなかったのか、驚きの表情で頬から流れる涙に目を向けた。
「俺は……」
「あなたはまだやるべきことがあるから、生にしがみつきたい理由があるんでしょ。人は何でもないのに、目から涙を流しはしないわ。死に対する恐怖で泣くようなたまでもないでしょ」
「俺を殺さずに後悔しないのか」
「悪党じみたセリフだわね」
「俺はお前の女を殺した男だぞ」
「それ以上、言わないで、本当に踏みつけてしまいそうになるから」
私はぐっと堪え、拳銃を床に置いた。
そしてそれをメンフィスの元まで滑らせる
「あんたはまだ死なせないわ。死は人が選択できる最後の逃げ道よ」
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