11-4 真実
先ほどとは見違えるほどに、フラガの動きが読み取れた。
これが違法義体の力である。脳は自分の体を守るために、力をセーブしている。そのためその体を変えると、脳の潜在能力が引き出され、本来ではあり得ない力を発揮する。それは肉体全体に作用し、動体視力や聴力、嗅覚や、さらに感覚までもが鋭敏になる。
フラガの拳を交わしながら、背後に回り込む。
足がもつれそうなほどに、感覚と肉体が自分の意識の先を行っていた。脳から発せられた電気信号はいつも以上に早く伝達しているのが手に取るようにわかる。
背後から、彼の膝裏を蹴り上げた。自分よりも体格がよく、そして敏捷性に富んでいるフラガの膝を初めて地面につけることができた。
だが彼は振り返らずに、肘を突き出し、その死角から拳を飛ばしてきた。まるで後ろにも目が付いているような、動きに私は大きく退き、バランスを崩した。
フラガはすぐに地面に手を突き、後ろ向きに飛び上がると、体を回転させながら、私のみぞおちを蹴り上げた
体が宙に浮き、コンテナに叩きつけられる。
「お前も改造したようだが、まだ俺だって錆びついちゃいねぇよ」
「ならこいつで赤錆まみれにしてあげるわ」
私はそういって、手に取った塩をフラガに向かって投げつけた。私が叩きつけられたコンテナの中には塩が大量に備蓄されていたのだ。
鉄でできたコンテナを破壊するほどに強力な蹴りである。思わず私も咳をした拍子に血を吐き、塩のついた手のひらが赤く染まった。
私が投げつけた塩は少しの隙を生んだ。彼は体の至る部位を違法義体にしている。だが鼻や耳など戦闘においてそこまで重要ではない器官は人間のままだ。
塩を吸い込めば、鼻孔には激痛が走る。そして何よりもそこで波長が崩れるため、研ぎ澄まされていた感覚に微量な狂いが生じる。
仮に私が人のままなら、ほとんど影響をもたらさない程度の差である。だがいまの私にはそれだけの隙で充分だった。飛び上がった私はフラガの視界から消え、頭上からとび膝蹴りを食らわせた。
フラガは額から血を吹き出しながら、後ろに倒れる。だが寸前のところで、踏みとどまり、追撃を加える私の腕を握りしめた。
そのまま捻り上げると、首に手を伸ばし、壁に押し付けようとしてくる。
「またうまくいくと思わないで」
私はその腕を回転させ、義体の関節を外した。この戦闘技術はフォースギアで培った実践の中で身に着けたものだった。義体の部分なら痛みは伴わない。気が抜けたように、ぶらりと垂れ下がった腕にフラガの力が集中した。
私は地に足をつけ、残ったほうの拳でそのフラガのこめかみを殴りつけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます