8-3 帰宅

 技術革新が起こってより、半導体がインフラの中心を担うようになった。

 この時、自己実現型予見としてコンピューティング産業の進捗を「ムーアの法則」として示された。それは一年で半導体は二倍の成長を見せ、指数関数的にナノサイズへと変化していくと予測された法則だった。だが超弦理論が示す通り、人間が観測できる小ささには限界があり、確かな1が存在している。だがこれがテクノロジーの進化と考えたらどうだろうか。テクノロジーの発展は加速膨張していき、その質量は巨大になっていく。インフレーションした技術発展の限界はテクノロジーの停止ではない、それは人類の停止だろう。

加速する世界で、たった三十日もあれば、世界は見違えてしまう。

 そしてそれは実際に起こった。

 エリア内で暴動が起こったのだ。暴動を起こしたのは戦時中、捕虜として捕まり、職業訓練を受けた者たち、そしてエリア内の一部の人間だそうだ。だがいつどのようにして、暴動が起こったのかは報じられなかった。ただその事実だけが報道され、そしてエリア内の人間たちにはそれがプロパガンダのように広がっていった。

 事実よりも、その情報だけが独り歩きし、人々に伝播していったのだ。

 そこからの政府の動きは速かった。派遣型の部隊ではなく、エリア内の治安を維持する特殊警察を作った。

 まるで日本の特高警察やナチスのSSみたく、その者たちはテロを未然に防ぐ、思想警察として創設された。エリアの現体制に不満をいただく者は、無能力者であり、ここで暮らす人々の総意は初めから決まっていたようなものだった。

 そしてこの実働部隊の指揮を任されたのは、先日の作戦で功績を上げたフラガだった。

 特殊警察はすぐに暴動を起こしたとされている工場を占拠し、エリア外出身者を一斉検挙した。さらに同じくして、元捕虜たちが形成したグループの数名が、共謀罪として逮捕されたのだ。


「これって証拠はないんでしょ」


「ええ、だけど昔から証拠なんて後付けだわ。欧米列強のやり方は昔から変わっていない。第二次アヘン戦争ではわざとインド軍に攻撃させたし、イラク戦争に至っては大量兵器すら見つからなかった。それがまかり通ってるのが、この地球の歴史よ」


「あまりにも酷すぎるわ」


「新世界に邪魔な旧世界を知る者はもういらないのよ。職業訓練だって無駄な戦闘を終わらせるための建前に過ぎない。政府の本音としては人口削減のためにエリアの人間は根絶やしにしろ。またエリアに迎合する人間でも不要な人間は消し去れ。それが政府の真意でしょうね」


 リアンの言っていたことはまさに少佐が最期に言っていた言葉とまるっきり同じだった。私は眉間にしわを寄せたまま、黙っていた。


「ジョージアガイドストーンに書かれた理想社会では、大自然と永遠に共存するためには人類は五億人以下を維持しなければならない。先の戦争で多くの人が亡くなったとはいえ、あと九十パーセント以上の削減が必要なのよ」

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