8-1 帰宅
私は懲戒処分を受けた。
アギフを目の前にして暗殺を躊躇したのは違反行為に相当した。三十日間、自宅謹慎となった私は、その暇を持て余していた。リアンは懲戒処分受けた私に対して、いつも通りに接してくれた。むしろ一か月の休暇が出てきたのだと考えればいいと言い、励ましてくれた。だが私はこの処分は妥当だと思っていたし、そこまで落ち込んでいたわけではない。
でも頭の片隅にはずっとアギフの言った言葉が渦巻いていた。シグマ少佐の言ったことと、アギフの言った言葉、変革と終焉。私はそれを反駁し、シリアルを食べながら、窓の外に流れる雲をじっと見つめていた。
「そういえば、ノバラが作戦に行った後、シグマ少佐が亡くなったのを知っている?」
「え? 噓でしょ……」
私はリアンの口から、あまりにも唐突に出た衝撃の言葉に、固まった。
「軍事作戦と、電磁パルスのことでニュースは持ちきりになっていて、あまり取り上げられなかったけど、一部では話題になっているわ」
「殺されたの? それとも自殺?」
「プリズンスカイでの殺人はまずありえないでしょ。まぁあの監視体制の中で自殺もあり得ないけど」
囚人は何もない部屋で過ごしている。そして最新テクノロジーを駆使した監視システムで二十四時間、常に見張られていてる。自殺はおろか自傷行為すら許されていない。その完璧な管理体制が裏付けるように、いままでプリズンスカイで死者が出たことは一度もない。
「どうやって……」
「電磁パルスの影響はプリズンスカイでも起こったそうよ。一時、全てのシステムがダウンした。その僅かな間に、少佐は遺体となったそうよ」
「殺されたとなると、刑務官。もしくは政府の人間か……」
「その可能性もある。だけど死因は全く分からないみたい。まるで突然生気が抜けたように、その脈が止まってしまったそうよ。専門医はこの事態を急性心筋梗塞と判断しているそうだけど……」
「この時代に心臓発作なんてありえない」
「ええ、ニューロチップによって脈拍数や、血圧は常に計測されているため、ほんの少し異常があれば、すぐに分かる。それに発作が起こったとしても、たった数秒で蘇生のできない状態になるなんてあり得ないわ」
「脳の状態はどうなっているんだろう」
「それも不思議で、どうやら脳にも死後の電子信号が計測されていない。まるでミイラよ」
「つまり亡くなったというよりは、一瞬してその魂が抜けたといった方が正しそうね」
「ノバラの言う通りだわ」
少佐の不可解の死が自殺か他殺かは分からない。だが自殺ならシグマ少佐はルーミスと同じように人として死ぬことを選んだのだろうか。そして他殺なら少佐の言った通り、政府で何かが起こっている。旧世界を知る人物の排除か、恐らく少佐は外部取り付けインターフェイスを知ってしまった。
実験の一助となり、そして人柱にされたのだ。
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