7-4 アギフ

 その時である。私のフォースギアに通信が入った。

 聞こえてくるのはフラガの声だった。


「ユリサキ、聞こえるか。こちらD班は先ほどお前が入っていった建物に、アギフの姿を目視で確認した。奴に護衛はいない。武装は拳銃だけだ。手柄はあんたに任せる。とっととやれ」


 恐らくフラガは私がアギフの存在に気が付き、アパートに侵入したものの、敵の総数が把握できず、立ち往生しているだと、勘違いしている。窓からの角度ではこの階段の位置は見えない。


「ちょっと待って」


「なんだと? 俺が言っているんだ。アギフは軽装だ。それに罠らしきものもない。突入するには今が好機だ。奴は怪我をしているぞ」


「分かっているわ」


「なら早くしろ。お前が躊躇している間に前線では人が死んでいる。その男を殺しさえすれば、この作戦も終わるんだ。おい、ユリサキ。聞いているのか!」


 私は煩わしいフラガからの通信を遮断した。そしてタブレットの翻訳ツールを開き、アギフとの会話を試みる。


《うなじに取り付けられると、気が狂ってしまう、外部取り付けインターフェイスを知っている?》


 私が唐突にそう言うと、アギフは目を細めた。


「知らん。俺はウイルスなど興味ない」


《そうよね。変なことを聞いたわ」


「君は私のことを勘違いしていると思う。私はエリアの打倒などは考えていない。このシステムのすべてを破壊しようと思わないし、議長を殺そうとも思っていない。私の目指しているのは人間として生きること。その自由の保障だ。人は生まれ、そして死ぬ。そのわずか数十年間の間に自由に生きることができる。そこを奪われればロボットと同じだ。だがこの地球にはエリアの打倒を考えている勢力は確かにいるも事実だ。私もうわさ程度には聞いたことがある。その者たちはこの世界のテクノロジーの消滅を掲げている。つまりこの地球を原始時代まで戻すということだ」


《ならあなたはいつの時代を目指しているの?》


「私が目指す時代か……そんなものはない。私の望みはただ一つだ。この終わりゆく星で人として死ぬことだ」


 アギフはそう言うと、拳銃を捨て、両手を広げた。


「このジハードもついには終わる。さらばだ」


 その瞬間、アギフは首から血を流して倒れた。恐らくフラガの小隊がアギフを狙撃したのである。

 彼は両手を広げ、神に祈りを捧げたまま、膝をついた。天を見つめたその瞳は実に幸せそうで、輝いていた。そしてその遺体には光が差し込んだ。まるでその光がアギフの魂を天界に連れて行くように見えた。私も彼の言葉に触発されたのだろうか。もうずっと信じていなかった神というものを見た気がした。

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