7-1 アギフ

 私は敵の兵士を制圧しながら、拳銃のマガジンを落とした。

 私は兵のみぞおちを蹴り飛ばしながら、右腿にあったマガジンを取り出し、それをリロードする。

 そして銃口をアギフに向けた。サイト越しに目が合うと、彼は目を見開いた。まるで私のことは見えていると言わんばかりに、挑発的な目で見つけてきた。

 だがこの距離なら、外さない、私はふっと息を吐くと、呟いた。


「逃がさないわよ」


 トリガーを引く瞬間、倒れていた兵士に足を引っ張られる。それで照準が少し逸れ、弾丸はアギフの肩にめり込んだ。

 苦悶の表情を浮かべたが、その肩をかばいながらマンホールへと続くはしごを懸命に登っていった。

 あと少しだった。あのほんの少しで、奴を殺すことができた。

 私は足にしがみついてくる。死にぞこないの兵士を楽にした。

 これではきりがない。ここにいる兵士は、技量や戦闘能力のみならず、その精神力が抜きんでている。いやこの兵士たちだけではない。この領地に足を踏み入れた瞬間から感じていた人々の熱気と、人間臭さ、ここにいる者は拳銃で撃たれれば、肌はその熱で焼かれ、肉は避け、骨は砕ける。だがそれでもまるで痛みよりも大事なものがあるように、恐れずに向かってくるのだ。

 アギフが地上に出たのを確認した敵兵が突如として、防弾ベストを脱いだ。

 屈強な肉体が露わの体躯には無数の爆弾が巻き付けられていた。私はその光景に目を疑った。まさか仲間をも巻き込んで、自爆をする気だろうか。それなのに、他の兵士は眉一つ動かさなかった。確実な死が目の前にあるというのに、一向に逃げようとしない、むしろ私をこの場に押さえ、自分もろとも死ぬ覚悟を見せる。私たちは死んでも明日がある。だがここにいる者たちが死ねばそれで終わりだ。


「やめなさいッ」


 私は爆弾を体に巻き付けた兵士に向かって叫んだ。するとその兵士は私を睨みつけると、拳を掲げた。


「人類万歳!!」


 その瞬間、反対の手で爆弾のスイッチを押し込む。


「小隊長!!」


 私に襲い掛かる兵士を殴り倒したデルタが、背中を掴み上げた。


「デルタッ!」


 人類万歳というコールの元、地下通路は一瞬にして、爆炎に覆われた。必死の思いで、デルタに待ちあげられた私の体は、マンホールへと繋がるはしごに手が届き、助かった。だが私の足元でデルタはその爆炎に焼かれ、シリコン素材の肉体は灰となり、焼け焦げたフォースギアの機体が剝き出しになった。私の体を投げ飛ばした状態のまま、その稼働が停止している。

 爆炎が消えると、真っ黒い煙と熱風が、押し寄せてくる。私はそれに追われながら、地上を目指してはしごを登った。

 ついには一人になってしまったが、四人の思いを無下にするわけにはいかない。人間の肉が焼け焦げた匂いに、むせ返りそうになりながらも、はしごを登り切り、重たいマンホールの蓋を開けた。

 砂っぽい地上に頭を出し、大きく息を吸い込んだ。

 そしてマンホールを静かに閉め、何事もなかったように、辺りを見渡しながら民衆に紛れた。

 


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