7-2 アギフ

 私はすぐにAIポッドを開き、先ほど撃ち込んだ銃弾の現在地を表示した。アギフに撃ち込んだ銃弾にはナノチップが埋め込まれていて、GPSでその所在をリアルタイムで追跡できる。GPSを見るにアギフは市街地を出ていなかった。

 ここは取り敢えず、乗り物が欲しい。そう思いながら、あたりを探索すると、路肩に駐車してあったバイクに目が留まった。

 すぐに動力コンピューターに自動解除ウイルスを流し込み、エンジンをかけた。さらにバイクに内蔵されていた安全システムを遮断し、速度の上限を開放する。これでAIの干渉なく、自由に走行することができる。


 GPSで示された地図を常に表示しながら、民家を走り去った。

 次々と車を追い越し、アギフに接近すると、ついに彼が乗っている車が目視できる距離まで近づいた。向こうもこちらの存在に気が付いたらしく、一層アクセルを踏み込む。

 アギフが逃走用に使った車はレース車だった。レース車は乗用車と違い、安全システムを導入していない、もちろんレースは自動運転ではないし、アクセルを踏み込めばスピードも出る。危険時により、制御システムなどは搭載しているため、派手は急旋回や衝突をすると、そのシステムが作動し、エンジンを止める。電動力だが、それ以外はガソリン車とほとんど変わらない。

 旧カザフ共和国のメインストリートを現代では考えられないスピードで二台の乗り物が激しいカーチェイスを繰り広げた。

 私のバイクが、十分に近づき、射程範囲に入ると、後部座席から護衛の兵士らしき男が顔を出した。

 追ってくる私に対して、拳銃を向け、照準を合わせる。

 他の車があるのにも関わらず、躊躇することなく発砲を始めた。私は何とかバイクを蛇行させ、その弾丸を避ける。

 ふと脇を見ると、対向車線に大きなトラックが見えた。グリップを大きく捻り、さらにスロットルを絞った。進行方向が斜めに向き、車体が中央分離帯に突っ込んだ。

 前輪が縁石に引っ掛かり、車体が宙に浮く、そのまま対向車線から走ってきたトラックにぶつけると、弾かれた私はアギフの乗っていた車に向かって、飛び移った。

 ルーフしがみついた私を何とか振り落とそうと、運転手が左右にハンドルを切る。さらに兵士が私の側頭部めがけて弾丸を撃ち込んでくるが、車体が大きく揺れているため、照準が合わない。

 兵士が持っていた拳銃を蹴り飛ばすと、そのまま首を足で締め上げ、車から引きずり下ろした。そして開いたドアから車内に侵入すると、後部座席にはアギフの姿があった。


「観念しなさい」


 私がそう言って銃口を向けると、運転手が急ブレーキをかける。つんのめった私のこめかみにアギフが殴り掛かり、前に突き出した腕を運転手がねじ上げた。

 メキメキとマシーン骨格が歪む音がする。

 私はアギフをにらみつけると、彼の顎を蹴り飛ばした。次にねじ上げられていた腕をこちからも反対方向に回転させて、ねじ切ると、逆の腕で運転手の首を締めあげた。するとすぐに泡を吹き、運転手は意識を失った。

 だがその隙にアギフの姿が消えていた。

 私に蹴り飛ばされた衝撃で、そのままドアを開け、外へ逃げたのである。逃げた方向を見ると、アパートへ逃げ込むアギフの影が見えた。私はすぐに車から降りると、そのアパートへと走った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る