6-3 合流

 彼ら二人も、私のほんの少しの後ろめたさをその表情から読み取ったらしい。


「アルファ……いや小隊長、安心してください。俺たちは死にませんよ。死んでいったあいつらがやわだったなんて言っているんじゃない。まだ俺たちは死を許されていない。それに小隊長、あなたの元で戦えた今回の作戦を俺は誇りに思います」


「俺もですよ。だからさっさと行ってください。まったくフォースギアでこんな辛気臭くなるのはあなただけですぜ」


「二人ともありがとう。武運を祈るわ」


 恐らくフォースギアでなければ、殴っても止めていただろう。人の命は重い、そしてフォースギアで殺されれば、その痛みはなくとも、死を体験することは事実だ。精密に作られたフォースギアだからこそ、その最期の時間もリアルである。神を信じなくなったから自殺者が増えた。一方的に殺す罪悪感で自殺者が増えた。そして兵士たちは死に慣れ過ぎて、自殺者が増えたのである。

 私たちの心の中にある死の数は決まっている。それはビデオゲームの残機のように、一つずつ減っていき、ゼロになった時に、現実世界で自らの命を絶つのである。

 二人の顔を見つめた私はベータとデルタとその場を後にした。そして一度走り出したら、決して振り返ることはない。二人の足音も同時に離れていった。


「もしかたらあいつら、勝ってしまうかもしれませんよ」


「私もそれを願うわ」


「どうです? ソナーの方は」


「ええ、反応が続いているわ」


「よし……」


「他の小隊からの位置情報の連絡もないから、あながちあたしたちが貧乏くじを引くかもしれないわ」


 するとベータがにやりと笑いながら言った。


「だとしたら、ラッキーですね。イプシロンはああ言ってましたが、俺はそう思いません。死なないためにすることは戦わないことじゃない。それに応じた功績を手に入れることだと思います。死んでも尚、それが評価されれば、まさか自分で命を絶とうとなんかしないでしょ」


「全員が全員、英雄になるために兵士になったわけじゃないわ」


「それもそうかもしれませんが、みんな英雄にならざるを得ない。環境が英雄を作るんですよ」


「環境ね……」


環境が英雄を作り、環境が死を作る、環境が差別を生み、環境が争いを生む。地球という環境にテクノロジーで手の加え続けたのが、現代社会だ。


「なら私の元じゃ、なかなか英雄にはなれないかもね」


 私がそういってベータの顔の方に目をやった瞬間、そこにベータはいなかった。振り返ると、額から血を流したベータのフォースギアが転がっていた。


「伏せてっ」


 私はデルタの頭を掴みながら、地下通路の柱を遮蔽物にして、身を隠した。

 通路に倒れたベータの遺体に向かって、何発からの銃弾が撃ち込まれ、完全に停止したことを確認すると、先から足音が聞こえてくる。


「アルファ……」


「民間兵じゃない。ベータが撃たれるまで気が付かなかった」


私は反射ゴーグルを柱に角に引っ掛け、スコープから通路の先を見つめた。


「印付きのくじを引いたわ」


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