6-2 合流

 その瞬間である。

 物陰から人の気配がした。私がその物陰に目を向けた瞬間、民家の窓が一斉に開いた。さらに扉から飛び出てきた。民間人の指はそれぞれ、引き金にかかったおり、無数に広がった旧式の小銃が私たち五人を狙っている。どの方向に顔を向けて、そのドス黒い銃口と目が合った。


「はめられたわね……」


「やりますか」


 ガンマが拳銃に手を掛けた。だが私はそれを制止させ、呟いた。


「走るわよ」


 静寂に包まれた民家に私のマンホールを踏みしめた音がこだました。するとその振動が地下に響き渡り、音感センサーが反応する。つまり自動爆薬が作動させたのだ。

 当たりに大きな砂ぼこりが立った。その瞬間、一斉掃射が始まった。民家に銃声が響き渡り、砂ぼこりと硝煙であたりは見えなくなった。

 そしてその砂ぼこりが晴れた時には私たち五人の姿はなかった。


「アルファ、どうします?」


「ここを進むしかないわ」


 私たちはマンホールから地下通路に飛び込み、その中を走っていた。


「民間人は思った以上に好戦的よ。はなからここにポピュリズムやグローバリズムの思想なんてなかったんだわ。あれは民間人じゃない、敵の兵士よ」


 私はそう言った後、新米のデルタに目を向けた。すると彼は大きくうなずいた。


「安心てください。俺はもうビビったしませんから」


 私は肩に手を置き、静かに頷き返した。


「本当にここにいるんですかね」


「ここ以外の逃走経路を使うとは考えにくいわ」


「やつの生体認証はもうお釈迦なんですか」


「ええ、屋敷から動いてないわ」


「案外、屋敷に留まっているとか」


「だからいまそっちの方角に進んでいるのよ」


 私はそう言いながら、地下通路の壁に等間隔で、小型の赤外線ソナーを設置していった。アギフ・ジャバードの身長体重はさらには筋肉繊維や顔の骨格構造まで記録されている。生体認証を遮断したとて、肉体そのものを変えることはできない。

 赤外線ソナーを使い、一帯の人間の姿形を判別し、そこからアギフと近似している者を割り出している。


「追手が来ましたね」


 イプシロンが走りながら振り返った。

 先ほど襲ってきた武装した民間人である。私たちが切り開いたマンホールから下へ降りてきたのだ。


「クソっ奴ら、赤外線センサーの存在に気が付いているわ」


 私が設置した一つのセンサーからアクセスが途絶えた。恐らく、壁に取り付けられたものを不審に思い、私たちの機器とあれば、全て壊しながら進んでいるのだ。


「アルファ、ここは私たちが相手します。他は先に進んでください」


 イプシロンとベータがそう言って、立ち止まった。


「二人で大丈夫か」


 ガンマがそういうと、ベータはファイティングポーズをしながら言った。


「俺はベテランだぞ。武器は現地で調達するものだ」


 この作戦はこのような大規模戦闘を想定していなかった。そのためアサルトライフルなどの戦闘で有用である重火器の装備は一切ない。

 本来の戦闘であれば、勝ち目はない。だが相手は民間人な上、私たちはフォースギアだ。死を恐れない本物の兵士二人なら、殲滅はできなくとも、かなりの時間稼ぎにはなるだろう。


「分かった。頼んだわ」


 すらりと出たその言葉に、私もこの世界の住人であることを再認識した。


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