5-5 オペレーション

 私たち五人も、そのポイントを目指して、それぞれの降下地点から集まる。まず初めに、降下体制に入るのは新米兵士だった。


「じゃあ合流ポイントで会いましょう」


 私がそう言うと、彼はきれいな敬礼をし、そのまま飛び降りた。

 新米とはいえ、降下作戦の訓練は嫌というほど行ってきたのだ。高度数千メートルからの自由落下にも恐れることなく、ダイブした。

 その数秒後、次の兵士が降下体制に入る。


「ではお先に」


 数秒ごとに降下していくが、たったこれだけでの差でも、地上に着いた時にはかなり離れた着地点になる。

 そして四人目を見送った後、ついに私の番だった。この戦闘機にはパイロットもいなければ、ほかの乗組員もいなかった。いやむしろ最初から最後まで人間は乗っていない。私は降下ポッドに手をかけると、誰もいない機内に向かって、敬礼をする。

 そして走り出すように、上空数千メートルの雲の上に飛び出した。輝かしい太陽が目に映った。ほんの一瞬だけ、無重力になり、体がふわりと浮かび上がった。

 だがそれも束の間、すぐに地球の重力によって体が降下する。地球の凄まじい力を身をもって体感すると、鼓動の早まりを抑えることができない。

 地面と垂直となるように、体を伸ばし、腿に沿うように手のひらを付けた。

 これが基本的な姿勢である。この降下作戦にパラシュートは存在しなかった。AIによる制御システムとフォースギアの逆噴射で、着地時の衝撃をやわらげ、音や砂煙を立てずに着地する。だがもしもフォースギアの中に生身の人間がいれば、体のすべての骨が木っ端みじんになるだろう。衝撃を吸収しても、その衝撃が消えることはないのだ。

 薄い雲を抜けると、いよいよ地上が見えてきた。私が降下する場所は民家が立ち並ぶ市街地である。今度は足を地面に垂直に突き出し、腹を抱えるように体を丸めた。

 数十秒の落下時間を経て、ついに着地する。

 AIによって障害物は避けられ、逆噴射で地面に降り立つ。着地する瞬間はほんの少しだけ、砂ぼこりが立ったが、許容範囲の内だ。

 私が降り立った場所は民家の裏庭だった。

 すぐに匍匐前進で身を隠し、その場から離れる。

 このような降下作戦が地上から見えないのかというと、降下時のフォースギアはミラー迷彩を使っているため、目視はされにくい。

 そのミラー迷彩も地上に降り立ってしまえば、あまり効果を発揮しない。ただし四方八方が青に覆われている空では比較的見つかりにくい。現代の技術では完璧な光学迷彩を製造することは不可能であるため、この技術は降下のみに使われる。

 民家の塀をよじ登り、裏路地から何食わぬ顔で出てきた私は小声で、それぞれの安否を確かめた。


「こちらアルファ、みんな大丈夫」


 するとそれぞれの端末から通信が入った。全員、無事に降下を完了し、現在合流ポイントへと向かっているとのことである。

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