5-4 オペレーション

 私がそう言うと、新米兵士は息を飲むようだった。フォースギアの奥では表情を歪ませているに違いない。だが綺麗ごとを言って、覚悟なしに殺し合いをさせることの方が、よっぽど精神的に危険である。

 すると一人の兵士が新米兵の肩を叩き、声をかけた。


「大丈夫だ。民間人ならすぐに逃げ出すさ。向こうは人間だぞ。俺たちの実力はあの五年間で、嫌というほどの思い知らされただろうよ」


 それに続いて、私も言った。


「ガンマの言う通りよ、それにこの作戦はあくまでも隠密行動を基本とする。殺すのは奴と奴の護衛くらいで済むわ」


「すみません、作戦前に士気を下げるようなことを聞いてしまって」


「いいえ、いいのよ。みんなそうだから」


 ついにステルス戦闘機が旧カザフ共和国の領空へと入った。市街地を目指し、一人ずつ降下していく。それぞれが別々の場所に降下し、民間人に成りすますことで、内部から敵の大将を狙うのだ。大規模な侵攻作戦はあくまでも陽動でしかない。本作戦の鍵を握る重要な任務だった。


「みんな、これは私たちの手腕ですべてが決まる作戦よ。一秒、この一秒で全線で戦う一人は戦死し、一人は自殺に追込まれる。この手に何千何万という人間の命がかかった戦いよ!」


 私が檄を飛ばすと、それぞれが覚悟の表情を露わにした。それぞれの士気が上がり、心なしかステルス戦闘機に中の気温が上昇したように思えた。

 合流ポイントは民家が経ち並ぶ、郊外の一角である。衛星から発した大規模な赤外線レーダで割り出した旧カザフ共和国の地形をもとに作り出された3Dホログラムで、地下に広がる大規模な隠し通路が発見された。水路のようにも考えられるが、そこに水流による浸食の痕跡はなく、そしてアギフ・ジャバードの住む邸宅の地下にも通じていることから、これは有事の際に逃げ出すために作られた地下通路ではないかと推測された。

 その通路は西ロシアの国境地点まで伸びていて、国連に秘密裏に開発された逃走ルートが算出された。アギフ達革命派は西ロシアから軍事的支援を受けていることでも知られている。ロシアはテクノロジー革命と共に、分断され、旧ソ連時代の各国とももに西ロシアとして独立した。実権を握るのはベラーヌやウラタニアであるが、旧カザフ共和国もその独立に加担したとされている。歴史的、そして経済的に見ても、この地下通路の存在は本作戦における大きな発見となり、さらにその迷路のように張り巡らされた通路からの逃走をAIの自動シミュレーションで何度も繰り返えした。そこから導きだされた最頻ポイントを順に並べ、小隊をその位置に集める。

 それぞれの小隊はそのポイントに配置された。

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