5-3 オペレーション
国連のやり方は湾岸戦争から変わってない。
自らの定義で定めた敵を強襲攻撃で殲滅する。
本部長からの説明を終わると、AIボットに切り替わった。視界にはカザフ共和国の地図と、アギフの生体反応のデータが表示されていた。
そして作戦が始まる。
目を開ければ、そこは上空数千メートルを飛行するステルス戦闘機の中だった。私の受け持つ隊員たちが、向かい合った座席に座り、私の到着を待っていた。
「小隊長、お疲れ様です」
「そんなかしこまらなくていいわ」
私の隊は私を含めて五人だった。先の戦争を経験した者が、四人で一人は本作戦が初陣である。作戦中はコードネームで呼び合うため、お互いの素性は簡単な経歴以外は知らない。そもそもプライベートで兵士同士が会うことも少ないし、フォースギアを通してでは、本当の顔を知ることもない。隊は作戦ごとに編成され、私はここにいる四人の本名も顔も知らなかった。
だがそれが作戦に支障をきたすことはまずない。恐らく、顔を見合わせて、自己紹介をしたとしても、仕事以上の関係にはならないだろう。個人化が進む現代では、そんなコミュニケーションがなくとも、連携が取れる技能が人間に備わっていた。これは人の能力の進化なのかもしれない。
「俺たちはどこに降下するんですか。まさか奴の屋敷に降下して、正面対決ってことじゃないでしょうね」
一人の兵士が質問してきた。
「ええ、それじゃあ電撃作戦の意味がないわ。これは陽動作戦。奴の生体認証はいま屋敷にある。だけどこの屋敷の警備は厳重で、いくら私たちでも突破することは不可能。それこそ電磁パルスの技術がいたるところに張り巡らせているわ。そこで私たちは逃走ルートを算出し、降下した後、そこに集まる。AIによって導かれた逃走ルートの確率から順に、それぞれの小隊が奴を待ち伏せする」
「その生体認証データがあれば、わざわざそんなことをしなくてもいいじゃないですか。それで探せば」
「生体認証データあくまでも自分が自分であるということを示す機器から発された電波の傍受よ。恐らく電撃作戦が始まれれば、そのすべてをパージし、消息を絶つはず。ありとあらゆるデータから姿を消せば、いくら衛星軌道上から監視していても、姿は完全に消えてしまう」
「なるほど、でも逃走経路ってあくまでも確率の域を出ませんよね。そこで奴を見つけることができなければ……」
「その場合は虱潰しね」
「そんな……無理でしょう」
「現場はどうなるかわからないわ。その作戦や指示に縛られない自由な判断と、行動で結果を残すのがこの遊軍部隊よ」
「もし民間人が俺たちを邪魔してきたらどうするんですか」
戦争経験のない兵士がそう呟いた。私も同じ質問を少佐にした記憶がある。戦争法に則れば、それは禁忌な行為であり、国連に所属する官僚として言えば、殺してはならない。だが私はそれ以前に兵士である。だから答えはこうだった。
「迷わず殺しなさい」
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