5-1 オペレーション

 情報社会と化せば、知識はその補足的な役割しか持たない。私たちの脳に埋め込まれたナノ端末は、巨大な図書館を常に閲覧することが可能となった。情報の飽和状態に陥った社会問題として、「目線が合わない問題」が指摘され始めた。それは会話をしていても、相手と目が合わないというものだった。

 常に次の情報、次の投稿を閲覧することが、人々の生活に深く浸透し、会話していても視界の端では、動画が再生されていたり、SNSのリールが流れている。そのため人は目を合わさずに会話するようになった。

 コンテンツは一秒で消費され、そしてそのコンテンツを制作する側も、AIやツールを使うことで格段に速度効率が向上した。

 つまり情報とは多さではない。重要なのは速さである。いかに早い情報をキャッチすることができるか、戦争においてもこの速さが勝敗の分け目となる。

 太平洋戦争の分け目となったミッドウェー海戦ですら、同じことが言えた。珊瑚礁海海戦で大破されたはずの、空母ヨークタウンはニミッツ提督により、ハワイで急ピッチでの修理が行われ、ミッドウェーに臨んでいる。この迅速な対応が、日本軍の度肝を抜き、圧倒的な戦力差が覆されたのだ。

 あの電磁パルスが起こって、数秒で軍部から連絡が来たということはすでにそれを行った犯人の目星がついている。そしてすでに作戦は立てられたということである。事件が発生してから、たった数分秒足らずで、国連の情報解析は終わっていた。

 情報社会において、順を追って会議を経て、決めていくというのではあまりにも遅すぎる。責任問題を問いただされるのは人間であるが、その判断を下すのがコンピューターであれば、人々もそれを納得して受け入れた。

 滝のような汗をかきながら、フォースギアの管理施設へと到着すると、ある男とほぼ同時だった。隣を見ると、そこで息を切らしていたのはフラガだった。


「思いのほか、早く会ったわね」


「ああ、本当に感動の再開だよ」


 私たちは別々で施設の中に入った。訓練施設と連携してあるこの場所では、新米兵の姿もあった。あれから五年の月日が経ち、私もフラガの遊軍部隊の小隊長を任されていた。自分の指示で人が死ぬ。そして仲間を自殺に追い込んでしまうかもしれない立場となり、より一層、気持ちが引き締まる。

 それぞれのフォースギアの接続寝台に横たわった私たちは、脊椎にプラグが差し込まれる。さらに運動神経系と接続を開始し、内部的なテストが高速で執り行われる。この時点で私は自分意思を持っても、手足を動かすことができない。しかし動かしている感覚だけがある。つまり脳の電気信号のすべてが体から切り離されたのである。

 真っ暗な空間にいる。地に足がついている感覚もある。鋭敏である指先で、針を触ればその鋭利な先端が指に伝わる。ただしそのままそれを指に突き刺しても、痛みは感じない。ただ刺しているという感覚が指に伝わるだけである。

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